つづれさせ
小川未明
お祖母さんは、あかりの下に針箱をおき、お仕事をなさっていました。そのうち、押し入れから行李を出し、なにか、おさがしになりました。
「おばあさん、なにをなさるの?」と、武ちゃんはいいました。
「つづれさせが鳴くから、うかうかしていられません。」と、おっしゃいました。
「つづれさせって?」
「ほら、リーリーと、鳴くでしょう。」
「こおろぎのこと、どうして、つづれさせっていうの?」と、武ちゃんが、聞きました。
「あの鳴きごえを、昔の人は、じき寒くなるから、冬の仕度をせよ、と聞いたので、こおろぎを、つづれさせというのです。」と、お祖母さんは、お答えになりました。
「昔って、遠い前のことなの?」
「そう、おばあさんの、そのまたおばあさんのころから、夜が長くなると、みんな、よなべをしたものです。」
武ちゃんは、だまって、リーリーと鳴く、こおろぎの声を、聞いていました。
いい月夜で、窓のかきの葉が、黒くうつりました。
底本:「定本小川未明童話全集 13」講談社
1977(昭和52)年11月10日第1刷発行
1983(昭和58)年1月19日第5刷発行
底本の親本:「僕の通るみち」南北書園
1947(昭和22)年2月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:酒井裕二
2019年11月24日作成
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