花とあかり

小川未明




 ははちょうはちょうにむかって、
やまはいりかけたら、おうちかえってこなければいけません。」とおしえました。
 ちょうは、あちらの花畑はなばたけへとんでいきました。あかはなあおはなや、しろい、いいにおいのするはながたくさんいていました。
「これはみごとだ、うれしいな。」といって、はなからはなへとびまわって、おいしいみつをすっていました。そのうちにやまへはいりかけました。けれど、ちょうは、むちゅうになってはなをとびまわっていました。
「やあ、くらくなった。」と、ちょうはあたまをあげますと、これはまたどうしたことでしょう。あちらにも、こちらにも、うつくしいみずのたれそうなみどりいろはなや、あおはないていました。
「なんのはなかしらん。いってみてから、おうちへかえりましょう。」と、ちょうはとんでいきました。きれいなはなえたのは、でんとうのあかりでした。そとようとすると、ガラスにつきあたりました。
「やあ、しまった。」と、ちょうはをもみました。
「きれいなちょうちょうだなあ。」
「まあ、きれいなちょうだこと。」
 そのとき、こういう子供こどもたちのこえがきこえました。
ぼくつかまえて、ピンでとめておこうかな。」
しょうちゃんおよしなさいね。かわいそうだから、にがしておやり。」
ぼく、おにいさんのように、ひょうほんをつくるのだ。」といって、おとうとしょうちゃんは、まどしたにいすをきずってきました。
「ねえ、しょうちゃん、にがしておやり。」と、光子みつこさんはなみだぐみました。
 ちょうはにげようとおもって、はばたきをしました。
「わたし、おとうさんからもらった小刀ナイフをあげるから、にがしておやり。」と、光子みつこさんはいいました。
「ほんとうにくれる。じゃ、にがしてやるよ。」
 ちょうは、あやういところをたすかりました。
 おうちへかえって、そのことを、ははちょうにはなしました。ははちょうは、かわいいちょうがたすけられたのをよろこびました。そうして、ははちょうは、
「かんしんなおじょうさんのうつくしいおがますますうつくしくなりますように。」といって、いのりました。
「あのやさしいおじょうさんのかみのけがもっとながくたくさんになりますように。」と、ちょうもいのりました。
 すると、このはなしをきいたはなたちまでが、かんしんして、いっしょにいのりました。





底本:「定本小川未明童話全集 10」講談社
   1977(昭和52)年8月10日第1刷発行
   1983(昭和58)年1月19日第6刷発行
※表題は底本では、「はなとあかり」となっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:仙酔ゑびす
2012年2月19日作成
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