ばにばにベンジャミンのはなし

THE TALE OF BENJAMIN BUNNY

ベアトリクス・ポッター Beatrix Potter

おおくぼゆう やく




表紙絵

口絵1
口絵2
 ばにばにパパさんから ソーリーじゅうの こどもたちへ

挿絵1
 あるひの あさ 1ぴきの こうさぎが、 こみちのわきの どてに すわっておりました。
 みみを たてて こうまの パカラン パカランという あしおとを きいていたのです。
 みちを すすむのは 1だいの ばしゃで、 うんてんしゅは マグレガーおじさん、 わきには よそいきの ぼうしを かぶった マグレガーおばさんも いました。

挿絵2
 ばしゃが いってしまうと、 ばにばにベンジャミンくんは すぐさま みちへと すべりおりて、 かけだしました ―― ひょい、 ぴょんぴょん、 びょおうん ―― マグレガーさんの おにわの うらの もりに すむ しんせきの おうちを たずねるのです。

挿絵3
 そのもりには うさぎあなが いたるところに あって、 そのなかでも いちばん きちんとしていて ふかふかなのが ベンジャミンの おばと そのいとこたち ―― フロプシー モプシー カトンテル ピーター ―― の おうちなのです。
 あなうさパパは もう いないので、 あなうさママが うさぎの けいとで てぶくろや リストバンドを あんで、 くらしを たてていました。 (わたしも このまえ バザーで かったんですよ。) そのほか ハーブや ローズマリーの おちゃ、 あなうさタバコ (いわゆる ラベンダー) なんてものも うっています。

挿絵4
 ベンジャミンくんは あまり おばさんとは あいたくなくて。
 そこで モミのきの うらに まわったのですが、 あやうく いとこの ピーターの まうえへ ころげおちそうに なりました。

挿絵5
 ピーターが ひとりで からだを まるめていたのです。 どうも げんきが なさそうで、 あかい わたげの ハンカチに くるまっていました。
「ピーター。」と ベンジャミンくんの ひそひそごえ。 「おまえ、 ふく、 だれに とられたんだよ?」

挿絵6
 ピーターの へんじは 「マグレガーおじさんの にわの かかしさ。」 それから にわで おいかけまわされたこと、 くつと ふくを なくしたことを せつめいしました。
 ベンジャミンくんは いとこの わきに こしを おろして ちからづよく かたります。 マグレガーおじさんが ばしゃで でかけたこと、 おばさんも いっしょだということ、 しかも よそいきの ぼうしだったから 1にちじゅう でかけっぱなしだと いうことを。

挿絵7
 ピーターは、 あめでも ふればいい、 といいました。
 と そのとき、 あなうさママの こえが うさぎあなの なかから きこえてきます。 「カトンテル! カトンテル! ちょっと カモミールを とってきて!」
 ピーターは、 さんぽに いけば たぶん きぶんも よくなる、 といいました。

挿絵8
 ふたりは てを つないで どんどん あるき、 もりはずれの いしがきの うえ、 ひらたいところに のぼりました。 そこから マグレガーおじさんの にわが みおろせるのです。 ピーターの うわぎと くつが かかしのところに あるのが はっきりと わかって、 あたまには マグレガーおじさんの おふるの ベレーぼう。

挿絵9
 ベンジャミンくんが いいます。 「さくの したを くぐりぬけたら なんだって ふくが だめになる。 ナシのきを つたって おりれば うまく しのびこめるんだ。」
 ピーターが あたまから おっこちましたが ことなきを えました。 したの なえどこが たがやされたばかりで ふかふかだったのです。

挿絵10
 そこに まかれていたのは レタスの たねでした。
 ふたりは なえどこの あちこちに ちいさく あやしげな あしあとを たくさん つけます。 きぐつを はいた ベンジャミンくんは とくにもう。

挿絵11
 ベンジャミンくんの はなしでは、 まず やるべきことは ピーターの ふくを とりもどすこと、 そうすれば ハンカチも つかえるように なるとか。
 というわけで かかしは はだかに されました。 よるのあいだに あめが ふったので、 くつには みずが はいっていて、 うわぎも ちょっぴり ちぢんでいました。
 ベンジャミンは ベレーぼうも かぶってみましたが かなり ぶかぶかです。

挿絵12
 そのあと タマネギを ハンカチで つつんで おばさんへの ささやかな おみやげに しようと いいだしました。
 ピーターは たのしくなさそうでした。 みみが がんがん しっぱなしなのです。

挿絵13
 それに ひきかえ ベンジャミンは まったく わがものがおで、 レタスの はっぱを かじります。 なんでも いつも おとうさんと いっしょに このにわに やってきては レタスを とって にちようびの ごちそうに するのだとか。
(ちなみに ベンジャミンくんの おとうさんの なまえは ばにばにパパさんと いいます。)
 もちろん いいできの レタスをです。

挿絵14
 ピーターは なににも くちを つけず、 おうちに かえりたいと いいだしました。 とたんに タマネギを はんぶん おっことします。

挿絵15
 ベンジャミンくんは、 やさいを せおったままじゃ ナシのきは のぼれないな、 といいました。 さきに たって ずかずかと にわの はんたいがわへと あるいていきます。 ふたりが とおったのは あかるい いろの れんがべいの した、 いたを わたした こみちでした。
 ねずみたちが とぐちだんのところで サクランボの たねを わっていたのですが、 あなうさピーターと ばにばにベンジャミンくんが とおりすぎたので めを ぱちくりさせました。

挿絵16
 そのうち ピーターは またしても ハンカチから てを はなしてしまいます。

挿絵17
 ふたりは うえきばちと なえばこと ひらばちの ならんだところへ やってきました。 ピーターの みみなりは ますます ひどくなって、 めなんか あめだまみたいに はれあがって!
 いとこの すうほまえを あるいていたのですが、 いきなり たちどまってしまいます。

挿絵18
 かどを まわったところ こうさぎたちの めのまえに こいつが いたのです!
 ベンジャミンくんは ひとめみた とたん、 すかさず ピーターを タマネギごと ひっぱって、 じぶんも いっしょに かごの したへと かくれて ……

挿絵19
 ねこの おじょうさんは おきあがると のびをして、 こっちへきて かごを くんくんと かぎました。
 もしや タマネギの においが だいすきだとか!
 それは さておき かごのうえに のっかってしまって。

挿絵20
 5じかんも ずっと そのまま。
* * * *
 わたしには かごのしたの ピーターと ベンジャミンを みなさんに かいてあげることが できません。 まず まっくらですし、 タマネギの においが ひどくて あなうさピーターと ベンジャミンくんは なみだまみれでしたから。
 おひさまが もりの むこうに ぐるっと まわって、 おひるも だいぶ すぎましたが、 まだ ねこは かごのうえに すわっていて。

挿絵21
 はたして そこへ、 ぴたぱた ぴたぱた、 モルタルの かけらが へいのうえから おちてきます。
 ねこが みあげると、 なんと ばにばにパパさんが たかい いしがきのうえを ゆうゆうと あるいているのです。
 あなうさタバコの パイプを ふかして、 てには こぶりの むち。
 じぶんの むすこを さがしているのでした。

挿絵22
 ばにばにパパさんは ねこというものを よくおもってはいません。
 いしがきのうえから ねこの あたまを めがけて ちからいっぱい とびかかり、 ひっぱたいて かごから どかし、 さらに けを ひとつかみ むしって おんしつへと けりいれてしまいました。
 ねこは おどろきのあまり やりかえすことも できません。

挿絵23
 ばにばにパパさんは ねこを おんしつのなかへ とじこめました。
 それから かごのところへ もどると むすこの ベンジャミンの みみを つかんで ひっぱりだし、 こぶりの むちで ぺしんぺしん。
 そのあと おいの ピーターも ひっぱりだされて。

挿絵24
 そうして タマネギの つつみを とりあげると、 にわの そとへと のしのし でていきました。

挿絵25
 その30ぷんほどあとに もどってきた マグレガーおじさんは、 あちらこちらの ようすが どうも みょうなことに きづきました。
 だれかが にわじゅうを きぐつで あるきまわったみたいなのに ―― そのあしあとと きたら おかしなほどに ちいさくて!
 それに なぜだか ねこが じぶんから おんしつのなかへ とじこもって、 かぎも そとから かけていたのです。

挿絵26
 おうちへ かえった ピーターですが、 おかあさんは おこりませんでした。 むすこが じぶんで くつと うわぎを みつけてきたと わかって うれしかったのです。 カトンテルと ピーターは ハンカチを きちんと たたみ、 あなうさママは タマネギを しばって だいどころの てんじょうから つるしました。 ハーブの たばや あなうさタバコと おんなじところに。

(おしまい)





翻訳の底本:Beatrix Potter (1904) "The Tale of Benjamin Bunny"
   上記の翻訳底本は、著作権が失効しています。
   2009(平成21)年12月18日翻訳
   2010(平成22)年2月10日修正
   2010(平成22)年3月14日修正
   2011(平成23)年10月16日微修正
   2012(平成24)年8月16日微修正
   2013(平成25)年9月1日微修正
※この翻訳は「クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンス」(http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/)によって公開されています。
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翻訳者:大久保ゆう
2014年3月26日作成
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