つまさきチミーのはなし

THE TALE OF TIMMY TIPTOES

ベアトリクス・ポッター Beatrix Potter

おおくぼゆう やく




表紙絵

口絵1
口絵2
 モニカを はじめとする まだみぬ ちいさな おともだちへ

挿絵1
 むかしむかし あるところに つまさきチミーという ころころぷくぷく おきらくな はいいろりすが おりました。 たかい きの てっぺんに くさぶきの すみかがあって、 グディという おくさんの りすも います。

挿絵2
 つまさきチミーは そとで すわって、 そよかぜを たのしんでいました。 しっぽを ひとふりして くすくすわらい ―― 「いとしの グディ、 きのみが たわわだ。 ふゆ・はるのために たくさん たくわえておこうよ。」 つまさきグディは いえの うちがわに こけを ぬりこめるのに ていっぱいです。「このおうち、 いごこちいいから きっと ひとふゆ ぐっすり ねむれるわ。」「そんなら おきたら そのぶん げっそり、 はるには たべもの ないってか。」チミーは なんでも きにしがち。

挿絵3
 きのみの やぶへ やってきた チミーと グディでしたが、 見てみると そこには もう ほかの りすたちが いまして。
 チミーは うわぎを ぬいで こえだに ひっかけ、 はなれたところで おとなしく ふたりだけで うごくことにします。

挿絵4
 まいにち あちこち めぐって きのみを めいっぱい ひろいました。 ふくろに つめてはこんで、 すを つくった きのそばに あちこちある ねもとの あなぽこに つめたのです。

挿絵5
 あなぽこが まんぱいになると、 こんどは きの たかいところに ある うろあなへと ふくろを あけはじめました。 もとは きつつきの もので、 きのみは ころりん ころころと なかへ おちていきます。
「いったい どうやって あとから とりだすの? ちょきんばこみたい!」と グディ。
「はるに なるまでには げっそり やせてるって、 なあ。」と あなを のぞく つまさきチミー。

挿絵6
 こうして たくさん あつまりましたが ―― そのひけつは なくさなかったからなのです! ふつう りすは きのみを じめんに うめるから、 はんぶんは なくしてしまうもの。 だって ありかが おぼえられなくって。
 もりで いちばんの わすれんぼの りすは、 シルヴァテルと いいました。 ほってるそばから わすれるから、 あとで ほりかえすと じぶんのでない きのみが でてきたりして。 それで けんかに なったり。 すると みんなして ほりだすから ―― もりじゅうが おおさわぎ!

挿絵7
 そんなとき おりあしく ちょうど ことりの むれが とんできていて、 やぶから やぶへ あおむしや くもを さがしまわっていました。 いろんな とりが いて、 それぞれ べつべつの うたを さえずるのです。
 はじめの とりは こう。「だあれが ほりだした、 ぼおくの きのみ。 だあれが ほりだした、 ぼおくの きのみ。」
 つぎの うたは こう。「パあンが ちょびっと、 チーズなし。 パあンが ちょびっと、 チーズなし。」

挿絵8
 りすたちが みんなして おいかけ、 みみを そばだてます。 はじめの とりが とびこんだ やぶでは、 チミーと グディが しずかに ふくろを しばっていました。 そこへ ことりの うたです ―― 「だあれが ほりだした、 ぼおくの きのみ。 だあれが ほりだした、 ぼおくの きのみ。」
 つまさきチミーは きにもせず やることを ひたすらやるだけ。 そもそも ことりにしても だれのことを うたうでもなく、 いつもどおりに うたっているだけで、 どういうつもりも ありません。

挿絵9
 けれども まわりの りすたちは そのうたを きくと たばになって つまさきチミーに とびかかり、 なぐる、 ひっかく、 きのみの ふくろを ひっくりかえす。 さて はからずも このさわぎの もとを つくってしまった ことりですが ぎょっとして とびさってしまって!
 チミーは くるくる ごろごろ ころがりましたが、 そこから しっぽを かえして、 すみかの ほうへ にげだしました。 おいかけてくる りすのむれが わめいています ―― 「だあれが ほりだした、 ぼおくの きのみ!」

挿絵10
 やがて チミーは つかまり、 きのうえに ひきあげられて。 しかも そのきは あの まんまる こあなの あるやつで、 そこに おしこまれて。 あなは つまさきチミーには あまりに せますぎて、 ひどく ぎゅうぎゅう つめられたから、 あばらが おれなかったのが ふしぎなくらい。「はくじょうするまで ほっとこうぜ。」と りすりすシルヴァテルは いってから、 あなのなかへ こう さけびます ――
「どいつが ほりだした、 おおれの きのみ!」

挿絵11
 つまさきチミーは なにも こたえません。 きのなかを ころがりおちて、 じぶんの いれた なみなみした きのみの うえへ がしゃん。 すっかり きをうしなって たおれて うごけません。

挿絵12
 つまさきグディは きのみの ふくろを みんな ひろいあげ、 うちへ かえりました。 チミーのために おちゃを いれたのに、 もどってこない こない。
 そのひの よるは つまさきグディも さみしくて つらくって。 あくるあさ おもいきって きのみの やぶに ひきかえし さがしてみようとしたのですが、 ほかの りすたちから いじわるく おいはらわれてしまいました。
 もりじゅうを さまよいながら よびかけます。
「つまさきチミー! つまさきチミー! ねえ、 いったい どこに いるの?」

挿絵13
 そうこうするうち つまさきチミーも きを とりもどします。 めを あけると ちいさな こけの ベッドに ふんわり くるまれていて、 まっくらやみのなか あちこち ずきずき。 どうも じめんのなかの ようでした。 チミーは げほげほ うぐうぐ、 あばらが いたみます。 すると きゃっきゃと こえが して、 そこへ あらわれたのが ちいさな しまりすさん、 てに あかりを もって、 ぐあいが よくなったかと みにきたのでした。
 しまりすさんは つまさきチミーに とても よくしてくれて。 ねぼうしを かしてくれたばかりか、 うちのなかは たべものも どっさり。

挿絵14
 しまりすさんは はなします。 なんでも きの てっぺんから ざあざあ きのみが ふってきたのだとか ―― 「しかも うまってるのまで あってさ!」 そこで チミーが いきさつを はなすと りすさんは けらけら くふくふ。 チミーが ベッドから うごけないのを いいことに、 なにかと わけを つけて、 たらふく たべさせようとして。「でも、 どうやって ここから でるって いうんだい? おいらが やせないことにゃあ。 よめさんだって きっと しんぱいしてる。」「あと もうひとつ ―― いや もうふたつ。 わらせておくれよ。」なんて しまりすさんが いうもんだから、 つまさきチミーは ぷくぷく ふとるばかりで。

挿絵15
さて つまさきグディといえば、 ひとりきりで また しごとに とりかかっていました。 でも もう きつつきの あなには いれたりしません。 だって どう とりだしたものかと ずっと くびを かしげていたのですから。 かくすさきは きのねの したで、 ころりんころりん おとしていって。 あるとき グディが とくべつ めいっぱいの ふくろを あけてみると、 ぎゃあという こえが はっきり きこえました。 それから つづけて グディが ふくろを もうひとつ もってくると、 ちいさな しまりすが あわてて そとに はいだしてきて。

挿絵16
「かいだんの したは そろそろ いっぱい いっぱいなの。 へやも まんぱいで、 ろうかにまで ごろごろ ころがってる。 しかも だんなの しまりすハッキーは わたしを おいて いえでちゅう。 この きのみの あめあられは いったい どういうわけ?」
「ほんとうに ごめんなさい。 わたし しらなくて、 ここに だれか おすまいだなんて。」と つまさきグディさん。「それにしても、 だんなさんの いどころですか。 うちの だんな、 つまさきチミーも いえでちゅうで。」「いどころは わかってるの。 ことりが おしえてくれて。」と こたえるのは しまりすの おくさま。

挿絵17
 しまりすさんは きつつきの きへ みちあんないして、 ふたりして あなへ ききみみを たてます。 すると したのほうで きのみの からを わる おとが して、 それから りすの ふとい こえと ほそい こえが いっしょになって うたっていて。
「うちの じじいと おれが けんかした
 さあて こいつを どう かたつける?
 おまえの すきに させてやるから
 とっとと うせろや このくそじじい!」

挿絵18
「あなたなら おしはいれてよ、 あのちいさな まるい あな。」と つまさきグディは いいました。「そうなんだけど。」と しまりすさん。「だんなの しまりすハッキーが かみついてくるの!」
 したのほうから きのみを わって かじる おと、 それから りすの ふとい こえと ほそい こえの うたが きこえてきて ――
「きょうは いちにち だーらだら
 だーらだらったら だーらだら!
 だーらだらだら いちんちじゅう!」

挿絵19
 そこで グディは あなから なかを のぞいて、 したに よびかけました ―― 「つまさきチミー! ん、 もう、 つまさきチミー!」 すると チミーが こたえます。「おまえか、 つまさきグディか? おお そうか!」
 あがってくるなり あなから かおを だして、 グディに キスを して。 けれども ふとりすぎで やっぱり そとに でられません。
 しまりすハッキーは そこまで ふっくらしてませんが、 こっちは こっちで でたくないのです。 ですから したのほうで じっとして くふくふ わらっていて。

挿絵20
 というわけで 2しゅうかんのあいだは そのままでしたが、 とうとう おおあらしが やってきて、 きの てっぺんを ふきとばし、 うえに おっきな あなが あいて、 なかへは あめが はいりほうだい。
 ですので つまさきチミーは そとへ でまして、 かさを てに うちへ かえりました。

挿絵21
 ところが しまりすハッキーは もう1しゅう のじゅくを つづけまして、 とはいえ、 やっぱり おちつかなくって。

挿絵22
 はてには おおきな くまが もりを ぬけようと ちかくを のっしのっし。 ひょっとすると そいつも きのみを さがしてるのかも。 あたりを かぎまわっているみたいで。

挿絵23
 しまりすハッキーも おおあわてで おうちへ かえります!

挿絵24
 こうして うちへと ついた しまりすハッキーでしたが、 どうも はなかぜを ひいてしまったようで。 まったく、 おちつかないったら ありゃしない。

挿絵25
 さて つまさきチミーと グディの ふたりと いえば、 きのみを ためておく ところに ちっちゃな かぎを つけて、 しっかり とじまりすることに しました。

挿絵26
 それから あのことりは しまりすを みかけるたびに、 こう うたいます ―― 「だあれが ほりだした、 ぼおくの きのみ。 だあれが ほりだした、 ぼおくの きのみ。」 けれども やっぱり、 こたえる ひとは いないのでした!

(おしまい)





翻訳の底本:Beatrix Potter (1911) "The Tale of Timmy Tiptoes"
   上記の翻訳底本は、著作権が失効しています。
   2011(平成23)年7月15日翻訳
※この翻訳は「クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンス」(http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/)によって公開されています。
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翻訳者:大久保ゆう
2014年3月26日作成
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