暗い時間に

片山敏彦




空には
燃える秋の星がある。
地には天に向つて立つけやきがある。
葉の階層――つよみき。年輪の多いあらい幹。
彼は、昼と夜、空間のひろがりの中で
思想である。流出である。
心に
不安がある。獣と共通な欲望がある。死を慕ふ憂欝がある。夢の記憶の破片がある。
すべての感激に立ち上つて、それに交り込み
限界の輪廓を打ち砕きたい動律と火流とがある。
どこへ行くのか? 今それを思はない。
僕は
秋の夜の、目がぐらぐらするほどな
星の無数の穴を見上げて立つ。
一つの胸が、自分にある。





底本:「日本の詩歌 26 近代詩集」中央公論社
   1970(昭和45)年4月15日初版発行
   1979(昭和54)年11月20日新訂版発行
入力:hitsuji
校正:染川隆俊
2022年9月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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