弓と鉄砲との戦争では鉄砲が勝つだろう。ところで現代の火器を丁度鉄砲に対する弓くらいの価値に貶してしまうような次の時代の兵器が想像出来るだろうか。
火薬は化合し易い数種の薬品の混合で、その
原子の蔵する勢力は殆んど全部原子核の中にあって、最近の物理学は原子核崩壊の研究にその主流が向いている。原子核内の勢力が兵器に利用される日が来ない方が人類のためには望ましいのであるが、もし或る一国でそれが実現されたら、それこそ弓と鉄砲どころの騒ぎではなくなるだろう。
そういう意味で、現代物理学の最尖端を行く原子論方面の研究は、国防に関連ある研究所でも一応の関心を持っていて良いであろう。しかしこの研究には捨て金が大分要ることは知っておく必要がある。ケンブリッジのキャベンディシュ研究所だけでも六十人ばかりの一流の物理学者が、過去十年間精神力と経済力とを捨て石として注ぎ込んで、ようやく曙光を得たのであるということくらいは覚悟しておく必要がある。
(昭和十二年十一月)