サガレン。絶北の植民地。―――こゝに小熊秀雄かつて行商の鍬と共に放浪し
数年後藤原運またショベルを携えて徘徊 した
小熊秀雄は自然を最もよく背后の凹影に見た
藤原運は自然を最もよく前面の凸影に見た
小熊秀雄は社会を痴呆せる自然の背后におしかくした
藤原運は社会を麻痺せる自然の前面におしすゝめた
小熊秀雄は生来の饒舌でしゃべりにしゃべりまくった
藤原運は労働者の簡素さでけんそんに語った
小熊秀雄は自然弁証法の詩人だった
藤原運は唯物弁証法の詩人であるだろう
小熊秀雄は時代の誤りを持つが故に多く愛され
藤原運は絶対に正しいが故に少く愛された
だが、ルンペンの愛が少数のプロレタリアートの愛に替え難いとしても、わたしらは時として寂しい
なぜなら、わたしの内にあるいくたのサガレンを正しく、そしてもっと多く世界に伝えることは、同志藤原の任務だから