京都帝国大学(十四行詩)

槇村浩




 十二の仮面のような頭蓋時計。肩を垂れ硬張った淫売婦のような白い建物。塀。涸れた
レプラの血行路のように交叉する国道
白い上っ張りと黒服とが朝から晩までこの中え出入りする
彼等はもっとも丁寧に挨拶し、町並の看板のように生真面目である
そして彼等はドルメンの淫売窟えぞろ/″\入って行く
傍の板壁には次の青札が懸っている――健康第一!

彼等は出来るだけずぼらに臓腑のめん/\の仕切りえ腰掛け、それによっては時を誰がほんの少し少なく淫売窟で消費したかを自慢し合い、盗んだ余剰価値をより多く盗まれたと愚痴をこぼし合うことをジェストとする

秋の雨上り、常春藤の網目が青く光っていた日、私はこの構内え入って行った
白い上っ張りと黒服との坐るべき畳み寝台のない所には、がらんどうな貧しい標本がぼつねんと並んでいた
私の訪ねた友はこゝにいなかった、彼は私の訪ねつゞけた間決していたとゆうことはなかったのだ
―――252 この方の札はいつでも表返してあるのですよ
私は昆虫を他人の臓腑の中から採取している友の異性の友人たちに挨拶をして黙って出て行った

私は出しなに、投げ込まれた新聞と、学生の言葉の一かけを聞いた
×(1)后がまた梅毒の小供を近い内に生むだろう、梅毒×(2)后が行幸されゝば京都はたゞ一時的に失業者が職を得るだろう―――これが新聞の記事だった!
河上博士は老マルキストとして獄中ます/\健在である、学連の×(3)的活動はさらに非転向的であるだろう―――これが学生の言葉だった!
―一・二四―
(1)皇 (2)皇 (3)党





底本:「槇村浩詩集」平和資料館・草の家、飛鳥出版室
   2003(平成15)年3月15日
※()内の編者によるルビは省略しました。
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年3月14日作成
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