李箱




 妻は駱駄の様に手紙を呑んだまゝ死んで行くらしい。疾くに私はそれを読んでしまつている。妻はそれを知らないのか。午前十時電灯を消さうとする。妻が止める。夢が浮出されているのだ。三月の間妻は返事を書かうとして未だに書けていない。一枚の皿の様に妻の表情は蒼く痩せている。私は外出せねばならない。私に頼めばよい。オマエノコヒビトヲヨンデヤラウ アトレスモシツテイル





底本:「李箱詩集」花神社
   2004(平成16)年4月1日初版1刷
底本の親本:「李箱全集 第二巻 詩集」泰成社
   1956(昭和31)年
※本文末の蘭明氏による注は省略しました。
入力:坂本真一
校正:hitsuji
2021年10月27日作成
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