ひるさがり
とある大門のそとで ひとりの坊やが
グライダアを飛ばしてゐた
それが 五月の八日であり
この半島に 徴兵のきまつた日であることを
知らないらしかつた ひたすら
エルロンの糸をまいてゐた
やがて 十ねんが流れるだらう
すると かれは戦闘機に乗組むにちがひない
空のきざはしを 坊やは
ゆんべの夢のなかで 昇つていつた
絵本で見たよりも美しかつたので
あんまり高く飛びすぎたので
青空のなかで お
ひるさがり
とある大門のそとで ひとりの詩人が
坊やのグライダアを眺めてゐた
それが 五月の八日であり
この半島に 徴兵のきまつた日だつたので
かれは笑ふことができなかつた
グライダアは かれの眼鏡をあざけつて
光にぬれて 青瓦の屋根を越えていつた