茴香
末吉安持
なが月下浣の日のゆふべ、
山下岩根垂る水の
玉のしづくに核ぐみて、
かつ熟みこぼし斎ひつゝ、
風に額づく茴香の
あゝ姉妹の二人もとよ。
化石もすらむ秋の木は
骨立ち強に呼吸つまり、
天つ御法のおん宣告に、
拗ねては、櫨も葉こそ縒れ、
孕婦ながら茴香は
優婆夷か、悩む色もなし
伴にはぐれし赤蟻の
飢ゑて足悩ゆむ湿り地に、
憐み顔のおとどひは
茎[#ルビの「くも」はママ]も軟らに額づきて、
手弱腕にそと乗せつ、
弘誓もさこそ、あゝ茴香。
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