おもひで

末吉安持




ちゝぎみはしはぶき二つ、
はゝぎみはそよ一しづく
瀬戸せどの海、ひがしをさしし
三日みかまへに我を見ましぬ。

世馴よなれざる野がくれわらべ、
手文筥てふばこふうじもあへず、
ゐざりしきゐはし
はしらおもてかくしぬ。

いとほしやちさ学生がくしやう
いくとせをあづまきやう
たびたびにねざめて
ふみのわざいそしまむとや。

くちかろむねひややけき
旅館女はたごめの待遇ぶりに、
なげきては、あめゆうべ
らんに、おゝ、何のおもひで。

いとほし、と涙もろに、
叔母ぎみは守袋まもりぶくろ
てづからにやさしうかけて、
わがせなをそとでましぬ。

をりからくるま気近けぢかう、
婢女はしためをとゝのふれば、
父ぎみはいとおごそかに
けんなれ、とそれよ一言。

はゝぎみよ乳母うば叔母をばぎみ、
朝露あさつゆに五てふれ来て
さらばよの御声おんこゑごえや、
やわらかにその尾をいきて
野のとりの声も流れつ。





底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年10月24日作成
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