夏の日
末吉安持
真夏の午の片日向、
苔すこし泥ばみ青む捨石に、
鳩酢草は呼吸細う雫に湿ひ
実を持ちぬ、かつ喘息ぎつゝ。
そのかみ誰れに小さなる
性は得て、また誰恋ひて、その熟実、
かつこぼし、かつ夜を待ちて、
いづ方へ精進の魂ぞ。
鳩酢草はえも知らず、
捨石に。――小雨のあとの風いきれ、
木々みな死ぬと泣く庭に、ひとり静に
おほどかに夢に入るさま。
蚊帳を繞れる名香に、
手枕も頬もひた痩せて病める身の
予は横臥しぬ。心こそ、鳩酢草の
魂にさながら似たれ。
風また薫り小雨しぬ。
鳩酢草も、予も一日
天地に幸福ありき。
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