寂寞

末吉安持




たとふれば戦ひ果てぬ、
日は暮れて二時ふたときを経ぬ
なまぐさき荒野あらのなか
さうの眼を弾丸たまに射られて
なほ黒き呻吟うめきをしのび、
よこたはる負傷いたでの兵の
勇しきわかき心に、
めつゝむ苦痛くるしみつひ
鈍色にびいろ寂寞じやくまく
吸ふがごと嗚呼われこゝに。

くらがりの冷えたるむろ
ひとり居ておもひ沈めば、
空想くうさう蠑螺さゞえから
底つやみたどるがごとく、
鬱憂うつゆうははた南蛮なんばん
よる深き荒磯ありその上に
もりあぎとにうけて
横はる粗膚鮫あらはだざめ
断末魔だんまつま――濁りゆく
無辺むへんなる闇を見るごと。

あい消えしひとの心は
霜の夜のなぎさひぢ
まみれたる寄居蟹がうなから
冷やかにこほれたるごとし、
土色つちいろにはた青銅せいどう
巨鐘おほがねさびのやうなる
寂寞じやくまく五百重いほへのなかに
一瞬いつしゆんも千とせのおもひ、
あゝかゝる日の凶時まがどき
人は死に、花はしをれめ。





底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年1月27日作成
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