坂
末吉安持
神無月、日は淡々と
夕ぐれの雲ににほへば、
眼路ひくき彼方に薄れ
あはれなる遠樹ぞ見ゆる。
畦をゆく斑の牛と
黄牛は声も慵く、
今は皆刑の場に
皮剥がれ紅く伏しなむ、
かく思ひ定めし如く
とぼとぼと霧にまぎれぬ。
素枯野のあなた、沼尻の、
荻すすき折れ伏す所、
ああ如何に髑髏を洗ふ
冬の水音して落ちむ。
ひえひえと身に泌む寒さ、
われは今いづこ歩むや、
ふと思ふ、ああ人の世も
ここにして終極にかあらむ。
下り坂をぐらくなりて
見るかぎり煙うづまく。
●表記について
- このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
- 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。