愚かなるものよ

徳永保之助




愚かなる。
太陽を捕え、朝の日光を、
縄をもっていましめむとする。

風に乗り、あるはまた、
走る流れに逆らわむとする。
四季を阻みて、降る雨を止めむとする。

空気と戦う心無さよ。
ありとある力を、ついに無にせむ。
かかるに同じく、かかる業より更に愚かなる。

人の言う所を咎め、そを強いて教にかなわさんとする。
定めを人の上に立て、
物言うも、そを超えしめぬ。

さなり、人の口をふさがむこと、
吹く風を捕うるよりも難きものを。
愚かなるものよ。
(『近代思想』一九一二年十月創刊号に飄風名で発表)





底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社
   1987(昭和62)年5月25日初版
初出:「近代思想 創刊号」
   1912(大正元)年10月
※初出時の署名は「飄風」です。
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年7月27日作成
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