御国のために

根岸正吉




歩いて帰れ、歩いて帰れ、
忠君愛国者よ。
東京から故郷まで一百三十里

お前は稼いだ、働いた。
熱心に着実に、ほめらるる迄、
海軍将校なる主人のために。
主婦のために。
男爵家のために。

お前は徴兵検査のために帰郷する、
その旅費をもたぬ。

御国の為だ。
国民の義務だ。

歩いて帰れ、歩いて帰れ
忠君愛国者よ
東京から故郷まで一百三十里。
(発表誌不詳 『どん底で歌う』を底本)





底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社
   1987(昭和62)年5月25日初版
底本の親本:「どん底で歌う」日本評論社
   1920(大正9)年5月
※本文末の編者による注記は省略しました。
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年5月25日作成
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