鉄のシャフト

野村吉哉




ゴシゴシゴシキイキイゴシゴシ……
俺の役目はでっかい鉄のシャフトを磨くのだ
まっ赤に染まったどろどろの手袋の中で
感覚を失ってしまっている俺の手は
俺の全生命をこめて鉄のシャフトを磨くのだ

――捨値で買ったボロボロに腐りかけた幾万本の鉄のシャフトは
磨いて塗って幾十倍に売りつけられるのだ
コンミッションの力で
新品としてスラスラ通って行くのだ
買うのは誰だ――やっぱり俺達だった
売った生命の代価はかくして奪われ
残る物は何だ――残るものは病根だ。老衰だ。発狂だ。いや死だ!

「しっかり力を入れて磨けやい」
かんとくにどなられ
ゴシゴシゴシキイキイゴシゴシ
磨く俺の手にまっ赤にこびりつくものは何だ
――こずり減らされた生命だ――いやその代価だ。奪われた代価だ
(発表誌不詳 『新興文学全集』10を底本)





底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社
   1987(昭和62)年5月25日初版
底本の親本:「新興文学全集 第十巻」平凡社
   1929(昭和4)年1月
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年9月1日作成
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