檻の中

波立一




昨日は重い空に湿っぽい風だった。
鋲どめた「五月祭のビラ」の傍に
白い優曇華うどんげの花が咲いていたっけ
梅雨時つゆどきの箒を遁れて咲いていたっけ

首 うなだれてはこみあげる憤怒を
首 うなだれてはこみあげる憤怒を
うぬ
首 うなだれてはこみあげる憤怒!

今日は薄縁うすべり三畳の檻の中
鉄格子と金網の窓に獅噛しがみつき
ガラス戸の隙間三寸
高い石塀を越えて
黒雲ちぎれ飛ぶ空模様に
凝乎じっと眼を注ぎ
歯を喰いしばって北叟笑ほくそえむでる。
(『戦旗』一九二八年十月号に発表 一九三一年一月改造社刊『戦旗三十六人集』を底本)





底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社
   1987(昭和62)年5月25日初版
底本の親本:「戦旗三十六人集」改造社
   1931(昭和6)年1月
初出:「戦旗」
   1928(昭和3)年10月号
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年5月24日作成
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