月は中天に

中野鈴子




土も凍る夜
友と二人
炭のない部屋にねむろうとしている
われらの「戦旗」がいま
二三の女の手にカギが渡され
必死のこぶしを
彼らの靴先が踏みくだこうとしている

友の夫 わたしの兄たち
いく百の前衛は牢や
いく千の兵士は満洲の戦場に狩り出され
友と二人
破れた雨戸の部屋にねむろうとしている

ガラスの窓に月が冴えて光る
月は中天に輝々として





底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版
   1980(昭和55)年4月30日初版発行
底本の親本:「中野鈴子全著作集 第一巻」ゆきのした文学会
   1964(昭和39)年7月10日発行
入力:津村田悟
校正:夏生ぐみ
2018年9月28日作成
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