地震

中野鈴子




家はくずれていた
倉も納屋も 全部の屋根
門もくだけ ヘイもたおれ
石垣の石ひとつのこさず
家の中にあったもの
倉にいっぱい押し込められた
長持ち タンスども
美しい瀬戸物類
昔古来のガンジョウな遺物
ことごとく形をなくした
立ち木だけが突っ立って
何一つない
池にも水は絶え

古い柱 黒い板戸
大きな屋根
厚い壁 壁の土
机と太鼓
静かな音を出した門のあく音
湧き出た冷たい井戸
井戸水にあふれた池
池の鯉

祖父のねむった部屋
部屋の落書き

ことごとく消し飛んでしまった





底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版
   1980(昭和55)年4月30日初版発行
底本の親本:「中野鈴子全著作集 第一巻」ゆきのした文学会
   1964(昭和39)年7月10日発行
※底本のテキストは、著者自筆稿によります。
入力:津村田悟
校正:かな とよみ
2025年5月10日作成
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