友よ 友だちよ

中野鈴子




わたしは 三度目の開腹手術を受けるために
行ってきます

友よ
手術をしなければならぬということは
命があるということです

いろいろの
心のキズを耐え
力あつめて立ちつづけてきた
体に三度目のメスを受けねばならぬ

黄色い目じりから泪がにじんで流れようとする
友よ
手術をしなければならぬということは
命があるということです

命がなければ 誰の顔も見えなくなるではないか

誰も わたしをもう見ることができないではないか

命がなければ もう詩が書けないではないか

命がなければ 体も心も灰になってしまうではないか





底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版
   1980(昭和55)年4月30日初版発行
底本の親本:「中野鈴子全著作集 第一巻」ゆきのした文学会
   1964(昭和39)年7月10日発行
初出:「ゆきのした 第二十四号」
   1957(昭和32)年11月23日発行
※表題は底本の目次では「友よ友だちよ」となっています。
入力:津村田悟
校正:かな とよみ
2023年12月20日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード