中野鈴子




足を伸ばす
体の横に手を垂れて
目を閉じる

ねむろうとして自分の呼吸を聞いている

かならず闇がおそいかかる夜というもの

夜はかならずきて
わたしはかならずねむったにちがいなかった
夜が来ればねむったであろう
そして夜
ねむれぬままにも
ねむったであろう

五十年の美しい昼と夜
一個の生きとし生きる者として
春の花
冬の雪にも
お前はいたのか

お前はいたのか
お前は赤ん坊でもあったのか
あのようにも美しい
桃のようでもあったのか

いまねむろうとして
夜の闇が
いま はじめて見るもののように冴えて来る





底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版
   1980(昭和55)年4月30日初版発行
底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版
   1980(昭和55)年4月30日初版発行
底本の親本:「中野鈴子全著作集 第一巻」ゆきのした文学会
   1964(昭和39)年7月10日発行
初出:「ゆきのした 第十四号」
   1956(昭和31)年2月10日号
入力:津村田悟
校正:かな とよみ
2025年10月15日作成
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