別れ
中野鈴子
広い堂楼の境内
焚火が燃え
村じゅうの人々が集まっている
「しっかり頼むぞの……」
「非常時じゃでのう……」
男衆等みな声を上げてはげます
一人の入営兵士をまん中に
酒徳利をかたむけ
祝いの
別れの
冷酒
女、子供、
かたまってふるえつつ
聯隊には十日ほどいて
直ぐ満洲行きやそな……
女房等の目は泪にしばたたき
老婆は鼻をすすり上げる
村の停車場
十数本の入営旗
高くはためく
発車の汽笛
萬歳の声
村を揺すぶる
息子の母親
カタカタと汽車を追いかけ
腰を折って泣き伏す
底本:「中野鈴子全詩集」フェニックス出版
1980(昭和55)年4月30日初版発行
底本の親本:「中野鈴子全著作集 第一巻」ゆきのした文学会
1964(昭和39)年7月10日発行
初出:「文学案内 第三巻第三号」
1937(昭和12)年3月1日発行
入力:津村田悟
校正:かな とよみ
2025年1月5日作成
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