北方の海には氷が張りつめた
食物がなくなった章魚 は
おのれの足を食いつくした
春四月
まだ雪は南樺太の野を埋めている
鉄道工事現場へ追い込まれた
へばりついた大雪の残りが消えた
ドロ柳があおい芽をふいた
流氷が去った海岸に鰊 が群来 た
けれど オホーツク嵐は氷の肌の様に寒いや
伐材だ
切取りだ 低地へは土を盛れ
岩石はハッパで砕け
さあ、ツルだスコップだ トロッコだ
ああ此の一夏中 人夫 の労働は待ち構えてる
朝は四時から 晩は八時
十六時間の土掘りだ
樺太の夏の日は長過ぎる
カカアとガキの白い唇を思い出さん様に
くたくたになるまで働けか
「逃げるやつはこれだぞ」
俺もお前も
この炎天の下にクタバランが不思議だ
逃げた奴は巡査に捕えられ現場に連れもどされた
ああ昨夜 一晩中
奴は水浸 にされてうなっていた
多分今朝はどっかの沼へ放り込まれただべ
それが人夫 への見せしめだ
ゴウゴウうなって走って来る
建設列車に頭蓋骨を粉砕されて
列車の窓から酔っぱらった警察署長と鉄道会社の重役が顔を出して怒鳴った
今日上げたバラスは血と肉のごもくだ
お前はそれでも死ねて幸わせだぞ
ああ北サガレンへ行きたい
三十里の北走りたい
其処には七時間労働の俺達の仲間の祖国があるんだ
今夜も夜工事だ
五百燭の電燈の下で
原始林の中で鉄道の枕木を運ぶんだ
これじあ俺が死ぬるかお前が先か
波の荒い夜だった
起ち上った人夫 が
炎々と燃え上る炎の中で
足をぶち折られた棒頭と工事請負者が悲鳴をあげた
――おーいみんなカタマッて行くんだぞう――
激流のように
枕木の上を馳 った
(『田園の花』一九三二年四月刊二号に発表 一九七九年二月槇村浩の会刊『土佐プロレタリア詩集』を底本)