漁村
森川義信
波がものを言ふやうになつてから
誰も姿を見せない砂浜に
抵抗する事を知らない貝殻のやうな女が
私生児を抱いて立つてゐた
それは――生きる為には、生きる為には
泥蟹をまで食べなければならぬ
悲しい漁村の一つの姿である
夢を見ることのゆるされない漁村の娘は
今日泥蟹の殻ばかりを捨てに行くのだつた
底本:「増補 森川義信詩集」国文社
1991(平成3)年1月10日初版発行
初出:「若草」
1935(昭和10)年3月
入力:坂本真一
校正:フクポー
2019年1月29日作成
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