季節抄

〔梢が〕

森川義信




※(ローマ数字1、1-13-21)

梢が
空にとどいてゐる
美しい樹々よ
花の咲かない…………
花はなくとも
ああ せめてものわが願い

※(ローマ数字2、1-13-22)

樹々の編む
光りのハンモツクに
僕はつつましく腰をおろす
風が静かにひかるとき
ゆれないハンモツクで
僕はそつと時間をみ失ふ

※(ローマ数字3、1-13-23)

小さな口をあけて
ぽくぽくと駆けてくる
波頭よ
さうして
何も彼も洗ふがいい…………
貝殻の中の小さな海にも
冷い空が
匂ふやうに光る

※(ローマ数字4、1-13-24)

青い塔の半円形も消え
匂ひの向ふへ花がこぼれた
重たい風船のやうに暗い秋の陽が
落ちてしまつて…………
ひと掬ひの歌もない
海よ
貨物船よりもぢつとして
お前を視てゐる僕
(〈13年〉十一月讃岐にて)





底本:「増補 森川義信詩集」国文社
   1991(平成3)年1月10日初版発行
初出:「裸群 4号」
   1938(昭和13)年12月
※〔〕付きの副題は、作品の冒頭をとって、ファイル作成時に加えたものです。
入力:坂本真一
校正:フクポー
2019年8月30日作成
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