勾配

森川義信




非望のきはみ
非望のいのち
はげしく一つのものに向つて
誰がこの階段をおりていつたか
時空をこえて屹立する地平をのぞんで
そこに立てば
かきむしるやうに悲風はつんざき
季節はすでに終りであつた
たかだかと欲望の精神に
はたして時は
噴水や花を象眼し
光彩の地平をもちあげたか
清純なものばかりを打ちくだいて
なにゆえにここまで来たのか
だがみよ
きびしく勾配に根をささへ
ふとした流れの凹みから雑草のかげから
いくつもの道ははじまつてゐるのだ





底本:「増補 森川義信詩集」国文社
   1991(平成3)年1月10日初版発行
初出:「荒地 4集」
   1939(昭和14)年11月
※初出時の署名は「山川章」です。
入力:坂本真一
校正:フクポー
2017年6月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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