森川義信




よりそふ暇もなく
こみあげる約束はうばはれていつた
疲れのやうに
吃つてゐる炎よ
くづれる愛をさらに踏みしめ
時間のかげに身をこがしても
じぶんの力で倒れかかり
義足よ
記憶は埋れ
虚しい体温から
すべての言葉はかへらない
いまは
とざされた扉も消え
匂ひににた沈黙もなく
夜の静脉がかなしく映えてゐる





底本:「増補 森川義信詩集」国文社
   1991(平成3)年1月10日初版発行
初出:「荒地 3集」
   1939(昭和14)年7月
※初出時の署名は「山川章」です。
入力:坂本真一
校正:フクポー
2019年9月27日作成
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