歌のない歌

※[#始め二重山括弧、1-1-52]夕暮に※[#終わり二重山括弧、1-1-53]

森川義信




この傾斜では
お伽話はやめて
こはれたオペラグラスで
アラベスク風な雨をごらん
ひととき鳩が白い耳を洗ふと
シガーのやうに雲が降りて来て
ぼくの影を踏みつけてゐる
光のレエスのシヤボンの泡のやうに
静かに古い楽器はなり止む
そして…………
隕石の描く半円形のあたりで
それはスパアクするカアブする
匂ひの向ふに花がこぼれる
優しい硝子罎の中では
ひねくれた愛情のやうに
ぼくがなくした時刻をかみしめる
ぼくはぼくの歌を忘れてゐる





底本:「増補 森川義信詩集」国文社
   1991(平成3)年1月10日初版発行
初出:「ル・バル 18輯」
   1938(昭和13)年11月30日発行
※初出時の署名は「山川章」です。
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年7月27日作成
2018年9月24日修正
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