あの人

森川義信




芹をつむ芹の沼べり
今日もまためだかが浮いた
肩あげの肩が細いと
あの人はやさしく言つた

名も知らぬ小鳥が鳴いた
讃岐の山雲が通つた
あの人は麦笛ふいた
泪ぐみ昼月つきみて聴いた

肩あげの肩も抱かずに
あの人は黙つてつた
芹かごの芹のかほりが
しんしんと胸に沈んだ





底本:「増補 森川義信詩集」国文社
   1991(平成3)年1月10日初版発行
初出:「若草」
   1937(昭和12)年5月
※初出時の署名は「鈴しのぶ」です。
入力:坂本真一
校正:フクポー
2019年10月28日作成
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