幻燈

※[#始め二重山括弧、1-1-52]幼な日の思ひ出のために※[#終わり二重山括弧、1-1-53]

森川義信




せるろいどのやうにふるへる
むかしむかしのお姫さまよ
童話の向ふから童話のやうに掌をあげて
びらうどの青い喪服もふくがよく似合ふ
あれ あれ 木馬もくばもお通りなさる
がた がた 首をゆさぶり
はげ落ちた灰色の眼で何を見つめるのやら
みんなみんな蒼白あをじろいせるろいどの向ふよ
みんなみんな幻燈げんとうの様に通りすぎた昔よ
びらうどのお姫さまよ
はげ落ちて歩けない木馬よ
幻燈のあとに残されたわたしよ
一枚の絵のないふいるむ





底本:「増補 森川義信詩集」国文社
   1991(平成3)年1月10日初版発行
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年7月27日作成
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