高館

―七月の旅の思ひ出―

森川義信




高館に登りて見れば
小糠雨烟りて寒く
朽ちかけし家のほとりの
高き木に鳴く蝉かなし

苔かほる古き木に倚り
その昔の人をしのべど
木々に吹く風も寂しく
消えて行く思ひ儚し

遠山の淡くけむりて
北上は北の果より
その昔の夢を語らず
うね/\とうねりて流る

故郷を遠くはなれて
旅に見る夢跡かなし
生ひ繁る草木の緑
高館に吹く風寒し





底本:「増補 森川義信詩集」国文社
   1991(平成3)年1月10日初版発行
初出:「学友 九十九号」
   1934(昭和9)年
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年6月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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