サガニー耕地より
上里春生
二月半ばのそら、
酒室の呼吸を罩めて、風、
あまし、温かし
円ろかなるこの穹き
懐ろに、音もなく
彩雲ぞ、さすらふなる。
機おる遠き麓のむら村、
ゆるくゆるく、筏の昔幽かに
声音なし、幻の静けさに、たえなる夢を織れるか、
雲にそゝぎ入る恍惚、炊ぐ煙りの
直しき細流、君よとく、来らずや、
この身さみし。
水豊かに遠く連りて、
田を限る畔、唯見る目覚む一色に、
何をするぞ無言の二人、
さても黙然とうづくまりて、青光の鎌の刃に
さくさくと、草葉の重き寝りの上、
白蝋の手に湧くか緑葉は。
籠に緑児はねむり、すやすやと、
沈黙の雫を吸ふ。さくさくと実にさくさくと、
微かに愛しき囁きの忍び寄りて、
童子が朱唇をゆすれば、声は響きを呼び
響きは声を生み、激しき感激のきはみ、
天地一心になりをひそむ。
純なる童子が節調に、快き眠りぞ襲ひ来りて、
魂の蕩け入るけはひなる。あゝ気は澄みたり
固なつぼみを秘めし我が胸裡
ふるゝ心は温かし。
あはれやがて消えなんとする、思ひ出の果、
燻銀の微光澱める、遠き岬に夕陽が赤し。
●表記について
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