かの日の歌【五】

漢那浪笛




     ※(蛇の目、1-3-27)

気味わるき、
十二月の、ひねもす。
そとには、おやみなくそゝぐ雨、
軒端にみだらなる、なげかひ………

苦るしまぎれに煙草をすふ。
音なき浪――けむりのなかに、
うす暗き人生は、哀れさびしく!
かゝみて――渦まく。

時々未練、眼をかする、
覚束なき恋のたはむれ!
力なく趁ふては、きゆる、
あはれ十二月の室内のひねもす。

     ※(蛇の目、1-3-27)

陰鬱な空気 と(不明)す、
あおこけむす、きみ悪き墓場!
何者か深い/\底より、
吐息をもらす。

葬式おくりの白き花
しとしとと雨(不明)濡れて伏す。

すてやりの孤独のいのちは
黒蝶のごとく、その(不明)を朦ろなるさ迷ひ

     ※(蛇の目、1-3-27)

棕梠の葉のうすあかり、
郊外の空に、雲のひときれ、
十二時の鐘は、静かにうたふ。

あかき襦袢じゆばん着かへし、少女の肌の如く
顔に触るゝ空気のかなしさ………
ラリアはあへかに笑ふ――
色みな恋 音楽!





底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
初出:「琉球新報」
   1911(明治44)年12月24日
※初出時の署名は「浪笛生」です。
入力:坂本真一
校正:良本典代
2016年12月9日作成
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