新らしき悲しみにうつる時

漢那浪笛




うら若かき日の悲しきあこかれ――
草葉の息吹きかへす甘き馨り、
うるはしき花の笑ひもながめて過ぎぬ。

木の間にさへずる鳥の歌をきく、
悲しみは眼を閉ぢて、暫時しばしやすらひもせし。

されど、とく新らしき悲しみにうつりぬ。
何をもてこの闇を照らさむ。――
空を仰げばおそろし…………

いざさらば、独り琉球節の一曲ひとふしを、
口笛に、
うらやすき墓場のほとりにさ迷はむ。
そは音なき響きをきかむとや…………





底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
初出:「沖縄毎日新聞」
   1911(明治44)年1月13日
※初出時の署名は「浪笛生」です。
※初出の新聞で作品名として扱われている「新らしき悲しみにうつる時」を表題としました。
※表題は、底本では「南の友へ【五】ママ」の見出しの次の行に、5字下げて2行取りの横罫の下に記載されています。
入力:坂本真一
校正:良本典代
2017年3月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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