秋の小曲

漢那浪笛




     ※(蛇の目、1-3-27)

秋の木の葉がふるひ出す、
ものにおびへたの色は、
たゞしろびかり――何を見る。
ひら/\と黄葉きはがちる、
彼れは何処へ? 真暗まつくらな、
谷へほこらへ――あな消へた。

     ※(蛇の目、1-3-27)

暗い森からとりが啼く、
あなほろ/\と、そこなりに………

ある触るる音よ、くるるる日の
そらと人とのなかを過ぐ。
食ひのこしたるパンの切れ、
ぢつとみつめば、涙ぐむ。

     ※(蛇の目、1-3-27)

白髪しらが頭のおぢいさん、
まがつた腰もかまはずに、
物識ものしり顔に世を渡る。
前にあるのは何かいな、
うしろにゐるのは誰れかいな、
静かにまなこひらき見よ!
前にあるのは白き家、
後ろにあるは、黒き影、
なかのお爺さんそを知らぬ。

     ※(蛇の目、1-3-27)

空が焼けた、真紅まつかにやけた!
悪しき獣をはふつたやうに………。
空の自然(不明)レンズなら、
人間道 悲惨みぢめな心、
写しいだした地獄(不明)か?





底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
初出:「沖縄毎日新聞」
   1912(大正元)年11月6日
※初出時の署名は「浪笛」です。
入力:坂本真一
校正:良本典代
2016年9月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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