錢形平次捕物控

浮世繪の女

野村胡堂





「親分、聽いたでせう?」
 ガラツ八の八五郎は、鐵砲玉のやうに飛び込んで來ると、格子戸と鉢合せをして、二つ三つキリキリ舞ひをして、バアと狹い土間へ長んがい顎を突き出すのです。
「聽いたよ。今鳴つたのは、上野の辰刻いつゝ(八時)だ。どんなに腹が減つてゐても、まだ晝飯は早え」
 その癖平次は朝飯が濟んだばかり、秋の陽の退り行く、古疊の上に腹んばひになつて、煙草の煙を輪に吹いてゐるのでした。
「時の鐘の話ぢやありませんよ。扇屋おうぎやの丹右衞門が、向島の寮で殺されたことを親分に知らせた筈ですよ」
「いや、一向聽かないよ」
 錢形平次も起き直ります、扇屋丹右衞門と言へば、御倉前の札差仲間でも聞えた家柄で、有り餘る身上しんしやうようしながら、當主の丹右衞門は女道樂から、書畫道樂普請道樂、揚弓から雜俳ざつぱい、小唄三味線の諸藝に至るまで、あらゆる道樂に凝つて稼業が面倒臭くなり、札差の株から店まで實弟の丹三郎に讓つて、自分は向島の白鬚しらひげに、金に飽かした宏莊な寮を營み、二人のめかけと共に引籠つて、花鳥風月を友としてゐることは、當時の江戸に隱れもない事實だつたのです。
 それを取卷くのは味噌摺り俳諧師はいかいしに、野幇間のだいこ繪描き、貧乏御家人と言つた顏觸れで、そんな手合を呼び集め總勢二十三人、昨夜ののちの月、即ち九月十三夜の月見の宴を白鬚の寮にもよほしたのでした。
あつしがその月見に呼ばれて行つたんで」
 八五郎のガラツ八は頤を撫でます。
「扇屋の取卷きの中へ、お前が一枚入つたといふのかえ、――お見それ申したが、お前も矢つ張りその十七文字の都々逸どゞいつの伜見たいのをもちひるのかえ」
 平次は酢つぱい顏をするのです。札付の道樂者、大通だいつうで金持で日本一のわけ知りと言はれてゐる扇屋丹右衞門の、取卷き見たいなことをしたのが氣に入らない樣子でした。
「飛んでもない、あつしは飮んで食ふだけが藝當で。親分も御存じの通り、かさと道樂氣は、これんばかりもありやしません」
「それぢや岡つ引や手先が、ノコノコ出かけて行くのは變ぢやないか」
「頼まれたんですよ、親分。――この月見は無事に濟みさうもない。主人の丹右衞門は剛腹だから、おどかしの手紙が三本や五本來たつて、とも思つちやゐないが、側にゐる奉公人の私共が心配でならない。兎も角、客の一人といふことにして、一と晩見張つてくれるやうに――と扇屋の手代小半次といふのが、たつての頼みだ」
「それはお前の知合ひでもあるのか」
「知合ひといふ程ぢやありませんが、向柳原の叔母が、内職のお仕事のお華客とくいの一人で不斷から顏くらゐは知つてゐますよ」
「フーム」
「飮み放題の食ひ放題が氣に入つたから、嫌ではあつたが、夕方から向島へ出かけて行きましたよ」
「氣に入つたり嫌だつたり、お前の話は相變らず變だよ」
「そんなことは何うだつて構やしません、――兎に角大した御馳走でしたよ」
 踊つて歌つて、下手な俳諧をひねつて、まづい席畫を描いて、お月樣が顏負けのする程騷いで、宴を閉ぢたのは十三夜の月が中天に昇つた亥刻よつ(十時)頃。二十三人の客の殆んど全部はそれ/″\の家路をさして歸り、あとに殘つたのは、主人の丹右衞門と、二人の美しい妾お民とお園と、そして氣に入りの手代の小半次と、下女のお喜代と、庭男の幸助と、そして特に小半次に懇請こんせいされて、その晩は泊るつもりの八五郎と、たつた七人だけになつた時、主人丹右衞門が世にも不思議な手段で慘殺されるといふ、大變な騷ぎが起つたのでした。
「驚きましたよ、親分。手代の小半次が寮の離屋はなれに主人が殺されてゐると騷ぎ出したので、盃を投り出して飛んで行つて見ると――」
「お話中だがな、八」
「へエ」
「お前その時まで盃を離さずにゐたのかえ」
「まあ、そんなことになりますね」
あきれた野郎だ、――それはそれとして、主人はどうした。筋を運べ」
「離室へ入つて見て驚きましたよ、――どこの國へ行つたつて、あんな箆棒な部屋があるわけはねえ。六人の美しい女を、六樣に描きわけた、恐ろしく色つぽい唐紙で仕切られた八疊の部屋の入口に、長押なげしにぶら下げられた主人の丹右衞門は、鮟鱇あんかうのやうに斬られて死んでゐるぢやありませんか」
「その時刻は?」
子刻こゝのつ(十二時)少し前だつたでせうか、びつくりして突つ立つてゐると、妙にかうシンとした氣時になつて、水を渡つて響いて來る、金龍山の子刻こゝのつの鐘が、身に沁みて聽えましたよ」
「怪談ばなしだな」
「兎も角醫者と町役人を呼びにやつたが、庭男の幸助一人ぢやらちがあかない上に、向島ぢや何事も手つ取り早くは來てくれませんよ。土地の御用聞と一緒に、三輪の萬七親分が馳けつけたのは白々明け、相變らずの調子で我物顏に掻き廻すが、一向埒があかねえ。こいつは親分に見て貰ふ外にないと思つて、卯刻むつ(六時)少し過ぎに、手代の小半次に頼んで、近所の人をこゝへよこしましたが、まだ着きませんか」
 八五郎はキヨトンとするのです。
「向島からこゝまで、五里も十里もあるわけはねえ、――こいつは何んかわけがありさうだ。行つて見ようか、八」
「有難てえ、親分が乘り出しさへすれば」
 錢形平次が動き出すと聞いて、八五郎はすつかり嬉しくなります。


 向島の屋敷の寮は、大川に面して、道からはやゝ引つ込んだ、素晴らしい建物でした。素晴らしい――とだけでは、もとよりこの寮の特質を傳へるわけに行きませんが、一言で盡せば江戸の建築術で想像し得る、一番贅澤な建物や設備を、できるだけ地味に平凡に、そして貧乏臭くさへ見せるやうに工夫したものと言つたら、最もよくこの寮の眞相を傅へるでせう。
 町人の贅澤と僣上せんじやうが、しば/\幕府の彈壓の對象になつた時代です。金があつて/\仕樣のない町人、生活力が旺盛で何うにもならない町人達は、好んでこのズバ拔けた贅澤な生活を、平凡で地味で、貧乏臭いからに包んで、たくみにその贅澤さをカムフラージユすることに慣れ、それをつうとか意氣とか言つてゐた時代です。
 錢形平次と八五郎が向島へ着いたのは、もう巳刻よつ(十時)を大分廻つた頃でした。平次と長い間張り合つてゐる御用聞の大親分三輪の萬七は、子分のお神樂かぐらの清吉を始め多勢の家の子郎黨を引きつれて扇屋の寮の内外を固め、重大事と聽いて驅けつけて來た、日頃扇屋出入りの有象無象は言ふまでもなく、御藏前から飛んで來た店の者までも關を突いて一歩も家へ入れないといふ嚴重な警戒振りです。
「おや、錢形の、大層早い耳ぢやないか」
 萬七は早くも平次の顏を見てイヤなことを言ひます。
「お早やう、三輪の親分。俺は來る氣もなかつたが、聽くと何んでも、八五郎の野郎が昨夜の月見に來てゐたんださうで、ノコノコ神田へ歸つて來たのを、兎も角も現場へつれて來たつてわけさ。この男の見聞きしたことから、飛んだ手掛りが引出されないものでもあるまいと思つてね」
 相變らず下手に出て、爭ひをけるのが平次のたしなみでした。
「さうか、八兄哥は大事な證人の一人だとは聽いてゐるよ。まア入るがいゝ」
 萬七はようやく機嫌を直して、平次のために道を開けます。この負けん氣の中年男は、事毎に平次にたてを突き、例外なしに平次にしてやられながら、その勢力にも足場にも貧乏ゆるぎもさせない、不思議なボス的戰鬪力の持主だつたのです。
 寮の中の豪勢さ、貧乏らしく見せた僞裝の下に、想像を絶する贅澤を包んだ建物や調度は、錢形平次をさへ舌を卷かせましたが、それにも増して驚いたのは、主人丹右衞門が死んだ、離室の中のすさまじい裝飾でした。
「錢形の、驚いちやいけないよ」
 ニヤリニヤリ薄笑ひながら、三輪の萬七はその離屋の戸を開けるのです。
 母屋は怪奇に贅澤をこらしたと言つても、間違ひもなく大地の上に建つてをりますが、僅か十二三坪ほどの離屋は、高々とした廊下で母屋おもやに續きながら、大川から水を引いた淺い泉水の上に、やぐらを組んで突き出してゐるのです。
 尤もその離屋は泉水の上に建つてゐるとは言つても、母屋と直角になつてゐるので縁側と縁側は睫毛まつげも讀めさうに近々と相對して、ものの五間とは離れてゐなかつたでせう。離屋で手を鳴らせば、下女のお喜代が直ぐ渡り廊下を踏んで、御用を聞けるやうになつてをります。
 離室は八疊と六疊の二た間、死骸はその間の長押なげしに高々と吊られて、敷居から五寸も足が離れてゐたのですから、丹右衞門は明かに絞め殺されたことは間違ひありませんが、この死體に就ては常識的に考へて、どうしても判斷のつかない、三つの疑問があつたのです。
 それは曲者――當夜離屋はなれを訪ねた怪しの男は主人丹右衞門を絞め殺した上、何んの目的で大骨を折つて長押に吊つたかといふことがその一つ。十五六貫もあらうと思はれる丹右衞門の脂肥あぶらぶとりのした身體を、どんな方法で長押に引上げたかといふのが、その二つ。そして、丹右衞門の身體には、四つの傷があるのですが、それは明かに死んだ後で斬つたらしく、大した血も出てゐないのですが、下手人は一體何んの怨みがあつて、すでに絞殺された死體へ、四ヶ所の傷をつけたかといふのが、疑問の第三になります。
「そんなことはまだ/\じよの口だ。隣りの部屋へ入つて見るがいゝ、錢形の親分も膽を潰すから」
 三輪の萬七は、檢屍を待つてゐる主人丹右衞門の死骸を、念入りに調べてゐる平次にかう言ふのでした。
「膽は潰し馴れてゐるが――俺はもう少しこの死體を見て置きたい」
 平次は落着き拂つて、死骸の前に坐り込んでしまひました。


 主人の丹右衞門、金の力でどんな横車も押しきつた藏前の大通、名題の戀狩人ラヴ・ハンターで、吉原の大門を二度までも閉めさしたといふ江戸の遊蕩兒達の理想の人物は、一くわいのボロきれのやうに、心からとむらふ者もなく、淺ましい死骸を豪勢な絹布團の中に埋めてゐるのです。
 年は四十七八でせうか、やゝ小造りですが脂肥りのした好い男で、鼻の高い、唇の薄い、眉毛の濃い、藝人によくある型なのも、女漁をんなあさりの猛烈さが、必ずしも扇屋の金力ばかりではなかつたと首肯うなづかせます。
「間違ひもなく絞め殺したものだが、この通り首に一ヶ所、胸に一ヶ所、背中に一ヶ所、腹に一ヶ所、匕首あひくちか何んかで突いた傷がある、その傷に――」
 三輪の萬七が死骸のあはせを捲ると、成程全身四ヶ所の淺からぬ傷があり、その傷の傍一つ/\に、墨で女の名前らしいのが、それ/″\署名してあるではありませんか。
「フム」
 平次も、さすがに唸りました。首筋の傷には『おやす』とあり、胸には『おとく』背には『おでん』そして腹には『おひさ』と、それ/″\違つた筆跡ひつせきらしく見せて麗々とのたくらせてあつたのです。
「こいつはみんな、丹右衞門の妾なんだが、――その四人の妾は金で丹右衞門に身をまかせた上、順々に病氣で死んだり、身を投げたり、行方知れずになつたり、滿足な終りを遂げた者は一人もないといふことだ」
「――」
 平次もそれを聽かないではありませんでした。吉原の大門を二度までも閉めた扇屋丹右衞門は、その後賣女に飽きたものか、中年過ぎからはもつぱら江戸中から美しい素人娘をあさり、それを金の力で強引にめかけにして、一人々々閨房けいぼうの惡戯で殺して行つたといふ、恐ろしい噂が立つてゐたのです。
「こいつはてつきり四人の死んだ妾の幽靈の仕業かも知れないよ。その證據は隣りの部屋にあるんだが――」
 三輪の萬七は信じ兼てはゐるにしてもこの時代の人間らしく、相當物事を迷信的に考へる習慣がありました。
「幽靈が仕返しをした證據を殘していつたといふのか。そいつは面白い筋書だが、幽靈が自分で書いたのなら、名前の上におの字をつけるのはをかしからう」
 平次は苦笑ひするのです。幽靈が自分でおやす、おとくと名乘るのは、如何にも變てこです。
「隣りの部屋へ來て見てくれ。もう一つ變なことがあるんだ」
 今度はいよ/\三輪の萬七のみちびくまゝに、平次は隣りの八疊に足を踏み入れました。
「フム」
 さすがの平次も、立留つて唸つたのも無理はありません。クラクラと眩暈めまひがするほど奇怪な部屋だつたのです。
 戰爭の前、博多はかたの町に、かういふ設備を持つた、有名な妓樓ぎろうがありました。客でも何んでもない、唯の旅人が、博多名物の一つとして、五圓の觀覽料を拂つて、そのあやしくも美しい、濃艶怪奇を極めた紅閨こうけいを見せてもらつたものです。
 扇屋丹右衞門が、向島の寮の離屋に設計した紅閨は、丁度そんな種類のもので、この時代にしては、想像も及ばぬほど、高價なギヤマン鏡を張り詰め、へうの毛皮を敷き、緞子どんすの吊夜具、絹行燈の有明――いや、そんなものはさして驚くに足りませんが、部屋の兩方六枚の唐紙に描いた、六人の美女の、半裸の艶容嬌態が、平次のあらゆる豫期を超えて、その度膽を拔いたのです。
 恐らくそれは、名ある浮世繪師の筆でせう。岩佐又兵衞か、菱川師宣か、――それとも狩野某といふ御用繪師の、金の誘惑に打ち負けてのひそかなすさびか。兎にも角にも、後の世の歌麿、清長、豐國にもない、それは不思議な嬌態で、等身大の極彩色の美女が六人、滿身のこびかたむけ、その魅力を鬪はせ、前から後ろからくね/\と觀る者に呼びかけるのでした。
 それだけならまだ驚くに足らなかつたかも知れませんが、その描かれた六人の浮世繪の美女の、四人までがその纎手せんしゆに墨で短刀を描き添へられ、それ/″\の短刀に、赤黒い眞物ほんものの血糊がついてゐるとしたらどうでせう。
 美女を描いた筆は、暢達な良い線で、その手には胡粉ごふんで彩色してありますが、描き添へた短刀は墨一色の荒々しい筆で、決して繪描きの手に成つたものではなく、明かに素人の惡戯です。
「どうだい、驚いたらう、錢形の。これはみんな丹右衞門の妾だつた女さ。この短刀を描き添へられたのは、おやす、おとく、おでん、おひさの四人で、みんな非業に死んでゐるよ。皮肉なことに、今この寮にゐる妾のお民とお園の似顏の手には短刀を描いちやゐない」
 三輪の萬七は自分のことのやうに鼻をうごめかすのです。


「死骸は、長押なげしにブラ下がつてゐたと言つたね」
 平次は縁側から踏臺を持つて來ると、長押の上のすかぼりなどを、念入りに調べて居ります。
「女の赤い扱帶しごきで、そこにブラ下がつてゐたよ。あまり結構な圖ぢやなかつたが――」
 三輪の萬七でさへも、この金に飽かした戀の狩人には反感を持つてゐる樣子です。
「透し彫はひどくこはれてゐる」
「ブラ下がつてからうんと暴れたんだらう」
「それにしても、この長押越しに十五六貫もある主人の身體をつり上げるのは容易ぢやないね。どんなに骨を折つても、人間は自分の身體より重い物を、長押の上を越した扱帶の端つこを引いて引摺り上げることはできない」
 平次は獨り言のやうに言ふのです。
「二人でやつたんぢやないか」
「――」
 平次は默つて損じた長押なげしと、死骸の重さとその邊の樣子といろ/\の調度とを見比べました。
 死骸は明かに一人の力で長押に引上げるには重過ぎました。下手人を二人以上といふ三輪の萬七の判斷も、必ずしも出鱈目でたらめではありません。
「さうでもなきや、その踏臺に乘つて、死骸を抱き上げながら、長押へ釣るもあるぜ」
 それはしかし、非凡の腕と腰の力を要します。
「無理だな」
 平次は簡單に首を振りました。
「ところで離屋で調べることは、それつきりだと思ふが、向うへ行つて、昨夜こゝにゐた人間に會つて見るか」
「よからう。が、一寸待つてくれ」
 平次は二つの部屋の押入を開けて見ました。一間の押入が二つ、そこに充滿してゐるのは、羽織二重や緞子どんす縮緬ちりめんの眼も綾な寢具で、それは大名屋敷の大奧か、大籬おほまがきのお職の積夜具でもなければ見られない豪勢さですが、不思議なことにそれほどの夜の物が、昨夜は使つた筈もないのに、疊み目も滅茶々々に、投り込んだやうに押し込まれてあるのです。
 六疊と八疊の外には泉水に面して三尺の廊下が通り、その下には淺い水がヒタヒタと通つてをりますが、そこに立つて眺めた平次は、フト縁側の先の淺い水の中に、茶の湯で使ふ銅鑼どらが一つ、――見事な青錆の浮いた徑八寸ほどのが沈んでゐるのを見付けたのです。
「これは、何うしたことだ。水の中などに捨てる品ではないが――」
 四方あたりを見廻す後ろから、
「騷ぎに取紛とりまぎれて落したものでございませう。不斷その六疊に置いてある品ですが――」
 手代の小半次が應へるのでした。
 縁側に立つて眺めると、母屋の縁を直角に、手を伸べさへすれば屆きさうですが、中に泉水が挾まつてゐるので、こゝから直接行く工夫はありません。尤も母屋の縁と言つても此方は北向きで、昨夜の月見客達も向う側に注意を集中して、此方の縁はツイお留守になつたことでせう。
「ところで八」
「へエ」
 そこまで一緒に來た八五郎を、平次は改めて呼びました。
「三輪の親分も聽いてゐる、丁度いゝ折だから、こゝでお前の話を聽かうぢやないか。昨夜お前がこゝに來てから、騷ぎが始まるまでのことを、どんなつまらないことも誤魔化さずに、念入りに話して見てくれ」
「へエ」
 八五郎は眼の角で、三輪の萬七の苦りきつた顏を眺めて、いさゝかくさつた樣子ですが、それでも大した惡びれた色もなく、かう話し始めるのでした。
 扇屋の手代小半次が、主人が惡者におびやかされてゐるから、是非ひと晩つき合つてくれと懇望するので、扇屋の寮へ來たのは、まだ日の暮れて間もない頃でした。
 集まつたお客は二十何人、呑んだり歌つたり、踊つたり騷いだり、お月樣なんかそつちのけの賑ひでしたが、十三夜の月の出は早いので、亥刻よつ(十時)近くなるとさすがに疲れを覺えたものか、一人歸り、二人歸り、亥刻半よつはん(十一時)にはさすがに飽くことを知らない歡樂の追及者達も、銘々の家へ歸つて行つて、殘るのは末席で呑んでゐた八五郎と、お隣りの隱居の治兵衞老人だけ。
 その隱居の歸つた後は、本當に内輪の者だけ。主人の丹右衞門と、二人妾のお民とお園と手代の小半次と、下女のお喜代と、庭男の幸助と、上も下も、主人筋も奉公人のへだてもなく、中天に昇つた良い月を眺めながら、盡きぬ宴樂うたげの杯をしやぶつてゐると、
「いきなり戸口の板が鳴りましたよ。響板きやうばんとか言つたね、あの俎板まないたのヒネたやうな虫喰板に青い字を彫つたのを入口の横手に吊してある奴だ。客があると叩くやうに、でつかい撞木しゆもくをその板の上の釘に掛けてある、それを誰か二つ三つ氣ぜはしく叩くんだ。主人が一番先に氣がついて、手代の小半次を見にやると、この夜更けに何んとやら言ふ客が急用で來たさうで、主人も一寸面倒臭さうな顏をしたが、思ひ直して離屋はなれの六疊へ通せ――と言つたやうで」
 八五郎の説明は思ひの外確りして居ります。宵からの酒で、散々醉つてゐた筈ですが、さすがに十手を預つてゐるだけに、急所々々は氣に留めてゐたのでせう。
「その名前を聽かなかつたか」
 と平次。
「そいつは小半次に聽いて下さいよ。主人に取次ぐと直ぐ客を離屋の六疊に案内したやうだから、――それからどれだけ時が經つたか忘れたが、間もなく小半次が、母屋おもやへやつて來た。用事が混み入つてゐるから、酒も茶も要らない、皆んなには氣の毒だが、お客が歸つたら内輪の者だけで呑み直すからもう少し寢ずに待つてゐるやうにといふ主人の言葉を持つて來た」
「それから」
「小半刻も經つた時分――金龍山の鐘が子刻こゝのつ(十二時)を打つた時、離屋で恐ろしい音がした。何んとも見當のつかない音だ。夜更けにそんな音がするのは容易のことでないと思つたので、母屋に呑んでゐた者は一ぺんに立ち上がつた」
「その時母屋にはみんな顏が揃つてゐたことだらうな」
「間違ひありませんよ、呑んでゐてもその邊は確かだ。おめかけが二人、下女に庭男に手代の小半次、それにこのあつしだ。尤も下女のお喜代は船をいでゐたし、手代の小半次はあんまり酒を呑まないので、縁側へ出て月を眺めてゐた。後ろ姿が見えてゐたから、どこへも行つたわけぢやねエ」
「で?」
「この人數が一ぺんに離屋へ飛んで行きましたよ。すると六疊の小窓が開いてゐて白つぽい着物を着た人間が、外へ飛び出したらしい――と小半次が言ふんだが、あつしはそれを見たわけぢやない。お妾の若い方のお園も見たと言つてるから、曲者はその時飛び出して逃げたんでせう」
「?」
「六疊と八疊の境ひの長押なげしに、主人丹右衞門がブラ下がつて、全身に四ヶ所の傷のあつたのは御覽の通りだ。あつしの知つてゐるのは、これだけのことですよ、親分」
 八五郎の報告といふのは終りました。
「その時離屋の東側の縁の雨戸は開いてゐたのだな」
 平次は訊きます。その離屋の東側の縁は、母屋の北側の縁側と直角に相對してゐるのです。
「月見客ですもの、開いてゐましたよ」
「すると、母屋の北側の縁に出ると、泉水せんすゐ越しに、離屋の六疊にゐる客の姿が見えた筈だな」
「多分見えたことでせう。でも北側の縁ぢやお月樣が見えないから、誰にも氣がつかなかつたことでせう」


 平次は三輪の萬七と相談して、もう一度關係者一同を調べて見ることを承知させました。負けん氣の萬七には、それは我慢のできない屈辱くつぢよくでしたが、陽はけて早くも晝を過ぎてゐるのに、まだ下手人の見當もつかないやうでは、檢屆の役人への言ひ譯も立たなかつたのです。
 離屋の六疊は取敢へずのお白洲で、先づ第一番に手代の小半次が、萬七の子分の手で連れ込まれました。
「小半次、錢形の親分が、お前の口からもう一度筋道を立てて訊きたいさうだ。昨夜のことをくり返してくれ」
「へエ、御苦勞樣で」
 小半次は顏を擧げました。二十五六の少し華奢きやしやではあるが、柔和な感じのする好い男振りです。
「いや、その前に、お前が月見の晩に八五郎を呼んだわけが聽きたい」
 平次は萬七の先き潜りを押へます。
「近頃變なことが續きますので、物騷だと思ひまして、顏見知りの八五郎親分にお願ひいたしました」
「變なことと言ふのは?」
「主人のところへ、散々のいや味を並べたおどかしの手紙が參るのでございます」
「その文句はお前も讀んでゐるだらうな」
「へエ、主人はあの通り腹の大きい方で、――又こんな手紙を投げ込んだ奴があるよ――などと、よく私にも見せて下さいました。その文句はいつも同じことで、主人が――私の口からは申し上げにくいことですが、金をバラいて女漁をんなあさりをするのが氣に入らないさうで、そのうちに命を申受けに行くから――などと恐ろしいことを書いてありました」
「その手紙は殘つてゐないのか」
「主人は笑つて相手にもしません。三四本續けて來たのを皆んな捨ててしまひましたやうで」
「燒きもどうもしなければ、紙屑籠かなんかにあるだらう――搜して見ないか八」
 平次は八五郎を振り返ると、折角の手柄を八五郎に奪はれてはと思つたのか、三輪の萬七の子分共が母屋の方へ飛んで行きました。併しこれは結局無駄な努力だつたことはあとでわかりました。
「その筆跡ひつせきや文句は、――お前の鑑定ではどうだ」
 平次は問ひを續けます。
「筆跡は立派で、文句には武家風なところがございました。天誅てんちうなどといふむづかしい文字があつたのを覺えてをります。何んでも天罰と言つたやうなことださうで――これは主人から教へてもらひましたが」
「ところで、これは大事なことだが、昨夜ゆうべ夜中に響板が鳴つた時、お前はどこにゐた」
「縁側で月を眺めながら、座敷の中にゐる八五郎親分と話をしてをりました。私は酒がいけませんので、中にゐるとツイ八五郎親分に盃を差されるのがつらかつたのでございます」
「その時の話を知つてゐるか、八」
 平次は八五郎をかへりみます。
「忘れましたよ。何しろ呑みながらの無駄話で、筋も性根もある話ぢやありません」
「小半次は?」
「私はよく覺えてをります、――お月樣には本當に兎がゐるだらうか――と言つたやうな他愛もない話で」
「それから」
「入口の響板が三つ鳴つたので、――この夜更けにと思ひましたが、念のために出て見ると、まだ生温いのに覆面頭巾ふくめんづきんで顏を隱した、背の高いお武家が立つてゐて、――急ぎの用事で内々主人丹右衞門殿に會ひたいと申します」
「名前は言はなかつたのか」
「大木戸三郎兵衞樣と仰しやつたやうで。そのまゝ主人に取次ぎますと、主人はひどく驚いた樣子で、――こゝはいかにも取亂してゐる、離屋の六疊にお通しするやうにと申します。その通りお客を御案内申上げると、主人は直ぐ參りまして、何やら打解うちとけたお話でございました。灯を點けようといたしますと、――いや幸ひの月夜だし、世を忍ぶ身だから、灯はいらないと仰しやつて、覆面を取りましたが、月の光の隈でお顏はよく見えませんでした。お聲の調子では四十五六にもなりませうか、立派な御武家でございました」
「それから?」
「私は座布團と煙草盆をお進めして、――お茶にいたしませうか、それとも――と幸ひ月見の料理が殘つてをりますので、お酒のことを匂はせますと、客人は急ぎの話でもあり、大事のことだから、御馳走は一應話が濟んでから願ひたい。お茶も無用――と、私のゐるのを邪魔になさる樣子が見えましたので、急いで母屋の方へ歸りましたが」
「その客は何にか目印がなかつたのか。羽織の紋とか、着物の柄とか、腰の物のこしらへとか」
「さう仰しやれば、御紋所が丸に二つ引だつたと思ひますが――」
「有難い、それだけ解つても大變助かる、――ところで」
「私は母屋へ戻りました。丁度みんなでお園さんにせがんで、何にか歌を歌はせたとかで、大賑ひでございました。それから四半刻(三十分)も經ちましたでせうか、離屋があんまり靜かで、少々心配になりましたので、母屋の北側の縁側へ出て、泉水越しに暗い離室を透して見た時でございました。不意に、本當に不意に、離屋の縁側で恐ろしい音がして、人の足音らしいのも聞えます。眞夜中で四方あたりが靜かだつたせゐもあるでせう、この物音でみんな飛び上がるほど驚き、誰が先ともなく離屋へ飛び込みました。そのとたんに、六疊の窓が開いて何やら外へ飛び出したやうに思ひましたが、これは見た者と見ないものとございます」
「灯はなかつたのだな」
「眞つ暗で何が何やらわかりません。灯、灯と八五郎親分が怒鳴ると、お民さんが氣がついて、母屋へ引返して燈臺を持つて來てくれました。一と眼長押なげしからブラ下がつた主人の死骸を見たときの、私共の驚きやうといふものは――」
「直ぐ取りおろしたことだらうな」
「仰しやるまでもございません。喉首を絞められたのなら生き返つた筈でございますが、御覽の通り四ヶ所も突き傷があつては――」
 小半次は部屋の隅に寢かしてある主人の死體に眼をやつて暗然として首を垂れるのでした。


 次に呼んで來たのは、死んだ丹右衞門のめかけの一人、お民でした。
「私に何んか御用?」
 部屋へ入つて來ると、少しよろけるやうに、ヘタヘタと平次の前に泳ぐ、二十二三の不思議な女です。色白で丈夫さうで、脂肪質しばうしつで眼が細くて、一應は美しいと言はれる方でせうが、身のこなしが芝居染みて、何時でも舞臺に立つてゐるやうに、大袈裟おほげさな表情と、ネバネバした臺詞せりふを持つた、先づは申分なく下品な女でした。
「大事なことを訊くんだ、少しシヤンとしろ」
 三輪の萬七がたまり兼ねてきめつけたほどの代物しろものです。
 平次の問ひに對して答へたことは、主人の丹右衞門は、世にも情け深くてわけ知りで、自分をどんなに大事にしてくれたかといふ、惚氣交のろけまじりの身の上話で、その恥を恥とも思はぬ無智な態度は、八五郎でさへも胸を惡くした程で、縁側に出ては不作法にも、泉水にペツペツとつばを吐いてをります。
 その話によると、お民は相模さがみ生れの兩親と共に、江戸へ來て生活に打ち負かされ、岡場所を轉々と稼いでゐるうち丹右衞門に見出されて、二年前にこゝに引取られ、玉の輿に乘つたやうな暮しをしてゐるのだと、本人は信じきつてゐるのです。
 丹右衞門が殺された時のことは、小半次の話の外には何んの觀察も記憶もなく、
「私はもう怖くつて、怖くつて」
 と本能的な恐怖を許へる[#「許へる」はママ]だけでした。
 三人目に呼出されたのは、二人妾の一人で、お園といふ若い女。精々十八くらゐにもなるでせうか、萬七の子分共に追つ立てられるやうに入つて來て、主人の死骸から遠く部屋の隅に小さくなつてゐるのです。
 これは、いぢらしくも清らかな娘でした。人のめかけ――それも五十近い男の玩具になるにしては、あまりにも若く、あまりにもさはやかで、顏を反けたいやうな痛々しさを感じさせるのです。
 ほとんど素顏に近い顏、地味な身扮みなり、長い睫毛まつげの下に、小鳥のやうに臆病な眼がまたゝいて、頬にも唇にも、つくろはぬ青春が匂ひますが、それが野獸のやうな丹右衞門にしひたげられて、濃い陰翳を見せてゐるのはたまらない痛々しさを感じさせます。
「お前は何んだつてこんなところへ來たんだ」
 平次の問ひは唐突で不思議なものでした。
「?」
 それを見上げた、お園の顏は、恐怖と疑惧ぎぐに顫へてをります。
「好きで來たわけぢやあるまい」
「え、亡くなつた父さんが、旦那樣からお金を借りたんです。證文に私が抵當ていたうとやらに入つてゐたさうで――」
 恐ろしい人身賣買の犧牲でした。金のためにその青春を踏みにじられて、哀れな殘骸をこゝに横たへてゐるのでせう。
「お前はこゝで仕合せではなかつたのだな」
「――」
「こゝへ來たのは何時だ」
「一と月ほど前でした」
「亡くなつた父親の外に、身寄りの者はないのか」
「え」
 お園は首を垂れます。この娘が自分の處女を護るために丹右衞門を殺したと解つたら、平次は恐らくこのまゝ引揚げたことでせう。それほどお園の姿はあはれ深くも美しかつたのです。
 主人丹右衞門が殺された前後のことは、小半次が言つた外には何んにも知らず、唯、
「みんなでこの部屋へ飛び込んだとき、窓から何にか飛び出すのを見たといふのは本當か」
 平次は最後の問ひを出すと、
「そんな氣がしました、私の間違ひかも知れません」
 はなはだ覺束ない答へです。
 第四人目に呼出されたのは、庭男の幸助。これは五十五六のむくつけき老人で、酒が好きなのと、耳の少し違いのが特色で、
「私は扇屋おうぎやに二十年も奉公してゐますだ。旦那樣は江戸一番の大通で、結構な御主人でごぜえましたよ。奉公人は可愛がつて下さるし、金離れが綺麗だし」
 庭男幸助には庭男幸助らしい觀察しかなかつたのも無理もありません。長い間の屈從くつじうに馴れて、主人丹右衞門の温情主義をこの上なく有難いものに思ひ込んでゐるのです。
「女のことでは、大層評判が惡かつたぢやないか」
 平次はツイこんなことを言ふと、
「男の働きでごぜえますよ、親分さん。妾手掛の五人や三人、それが惡いといふのは、貧乏人の言ひ草で」
 これでは手のつけやうがありません。
 昨夜ゆうべのことは何んにも知らず、こんな人間の觀察力は、當てにする方が間違ひです。


 次に下女のお喜代が呼出されました。十六になつたばかりで、主人丹右衞門の爪牙をまぬかれてゐるだけに、きりやうも大したものでなく、氣取りのない、正直らしさが取柄といふだけの小娘でした。
「こんなことでは仕樣がない」
 平次も事件の捕捉し難いことをつく/″\感ずるだけです。
「どうだい、驚いたらう、錢形の。この上は死んだ四人の妾――お安、お徳、お傅、お久の身許から、その身寄りの者を調べる外はあるまい」
「さうかも知れない、――尤も昨夜の眞夜中に來た武家の客に、足があれば話は別だが」
 三輪の萬七と錢形平次の掛け合ひは合はない齒車のやうで、何んとなく人を苛立いらだたせます。
「俺はその武家を搜し出さうと思ふよ――一應死んだ四人の妾の怨みのやうに仕組んであるが、扇屋は家業柄だから丹右衞門が店をやつてゐる時、ひどい仕打をして怨みを買つた札旦那ふだだんなか何んかの仕業ぢやないか」
 それはありさうなことでした。札差と札旦那のもつれは、大口屋※雨げうう[#「口+堯」、U+5635、157-13]の芝居を始め、多くの物語や講釋が、その例を傳へてをります。
「そんなこともあるだらうが、俺はもう一度佛樣を見て置きたい」
 平次は何を思つたか、もう一度主人丹右衞門の死體を改めてをりましたが、
「――あれは長押なげしに吊られて死んだのぢやない。一度首を絞めて殺した上、何んかわけがあつて長押に吊つたものらしいぜ、――こんな重い死骸を、何んだつて大骨折つて長押に吊らなきやならなかつたのか」
 終りは獨り言になります。喉佛の樣子や、首に殘つた帶のあとを見れば、馴れた眼にはこれくらゐのことは簡單にわかるのでした。
 平次は三輪の萬七と別れて、寮の外へ出ました。
「歸るんですか、親分」
 八五郎が怨めしさうについて來ます。
「お前が見張つてゐてわからないことが、あとで掻き廻してわかるわけはないぢやないか」
「でも親分」
「不足らしい顏をするなよ、八。潮時が來なきや、鼻の先にゐる下手人も縛れるものぢやない。――俺はもう少し當つて見たいところがある」
「どこです親分」
「昨夜一番後で歸つたといふ、お隣りの隱居だ」
「無駄ですね、六十を越してひどくヨボヨボしてゐる上に、中風の氣味で、大ぼけですよ」
「それでも話をするくらゐは差支へはあるめえ」
「そりやね」
 平次と八五郎は、扇屋のれうの隣り、花時は團子も賣る、しもた屋作りの家を訪ねました。
「御隱居は?」
 と訊くと、
「私が隱居の治兵衞ですよ。お前さんは」
 店にゐた一と握りほどの老人が、しわの中から顏を出したやうに振り仰ぎました。
「俺は神田の平次だが、お隣りのことで少し訊きたいが――」
「おや、さうですか、錢形の親分さんなら私の方でも申上げたいことがあります。三輪の親分のやうに、あゝポンポン言つちや、言ひたいと思つたことまでのどへ引つ込んでしまひますよ」
 この老人見掛けに寄らず、皮肉な調子です。
「さうか、俺はポンポン言はない代り、三輪の親分ほどの働きがないかも知れないぜ」
「飛んでもない親分さん」
「ところで、お隣りの扇屋殺しはどうだ」
「身から出たさびですね」
「大層手きびしいな」
 平次は秋の陽を除けて縁側に腰をおろして居りました。大川の水が近く光つて、遊山船のの音も聞えますが、あたりが靜かなので、ひどく田舍びた感じです。
 隱居は平次に煙草盆などをすゝめながら、昨夜顏馴染の八五郎に目禮して續けるのでした。
「死んだ人の惡口を言つちや濟みませんが――何事も罪ほろぼしのためだ、思ひきつて申上げませう。聽いて下さいな、親分」
「――」
 平次はうなづきました。この見る影もない老人の眼が、火のやうに燃えるのを感じたのです。
「私がもし、足腰が達者なら、人手を借りるまでもなく、今日まで扇屋の主人を生かしちや置かなかつたかも知れません」
「?」
「間違つちやいけませんよ、錢形の親分。私はこの通りの身體だ。三年越の中氣で、杖にすがつてお隣りに行くのが精一杯――それもお隣りの主人の丹右衞門が、のさばり返つて生きてゐるのを、一度でも多く見て置いて、そのむくいの恐ろしさを思ひ合せたいためで、酒が呑みたくて行つたわけぢやありません」
「――」
 隱居治兵衞はさう言つて、一と晩飮みに飮んでゐた、八五郎の顏をジロリと見やるのです。
「錢形の親分さん、扇屋の三人目の妾のお傅――氣が變になつて、大川に身投げをして死んだのが、私の實の娘だと聽いたら、私がこんなことを言ふのも、まんざら無理ぢやないとわかつて下さるでせう。扇屋の丹右衞門といふ人は、吉原の大門を二度閉めたほどの大氣な人だ。商賣女の白粉臭いのにきると、素人しろうと娘に眼をつけて、今から七八年前から、江戸で名うての處女むすめあさり始めた」
「――」
「金で濟むのは百兩二百兩。金でどうにもならならないのは、手飼ひの凄いのを使つて頭からおどかし、眼をつけた娘を嫌も應もなく人身御供に上げたことは御存じでせう。私の娘のお傅もその一人だ、扇屋丹右衞門は、フトした間違ひで書いた私の證文を手に入れ、たつた三十兩の元金に三百兩といふ利息をつけて、私が眼の玉よりも可愛がつた娘のお傅を、むしり取るやうにつれて行き、半歳經たないうちに氣違ひにしてしまつたのですよ」
「――」
「どんなことをすれば、十九になつたばかりの娘が氣が變になるか、私はそんなことは知らねえ。唯娘が土左衞門になつて、この店に擔ぎ込まれた時は、私は扇屋の主人を生涯しやうがいのろつてやらうと思ひ定めましたよ。扇屋から持つて來た香奠かうでんはたつた三兩、※(「米+參」、第3水準1-89-88)粉で拵へて息を吹込んだやうな、この上もなく美しい娘の命が、前後三十三兩で、扇屋の餌にされたわけだ。それも好きで連れ添ふ亭主のために、命をり減らしたのなら文句は言はねえ。好色の四十男の生餌になつて、可哀さうに十九で死んだ娘が、どうすれば浮ばれると思ひます、親分」
 隱居治兵衞は中氣で曲つた顏を、忿怒の涙に濡らして際限もなく掻き口説くのです。
「氣の毒だが、――その扇屋も死んでしまつたよ。お前には下手人の心當りはないのか」
 平次はようやく口をれました。
「あの男を殺したいと思つてゐる人間は、私の知つてるだけでも、五人や七人ぢやありませんよ」
「誰と誰だ」
「それを言ふくらゐなら、私は人殺しの罪を背負せおつて、處刑臺に乘りますよ」
 これでは手のつけやうがありません。
「ではもう一つだけ訊きたい」
「へエ」
「あの手代の小半次といふのはどういふ男だ」
「惡い野郎ですよ。扇屋の手先になつて、お園とか言ふ、若い妾を手に入れたのは、あの小半次の細工さいくださうで――」
「さうか」
 平次は何にか、豫想外のことを聽かされたやうな心持です。
「附き合つてゐると、大した惡い男ぢやありませんがね。扇屋に奉公してゐると、矢張りそんな心持になるのでせうよ」
 隱居治兵衞の話は、どこまで行つてもこの調子でした。扇屋に對する怨嗟ゑんさと憎惡、それを繰り返して聽かされると、さすがに平次も少しうんざりした樣子です。
 平次はそのまゝ治兵衞の店を出て、向島土手を家路に向ひました。
「親分、歸るんですか」
「あ、歸るよ」
「扇屋殺しの下手人はどうなるんです」
「三輪の親分が擧げてくれるだらうよ。俺ははなつから手柄を立てるつもりで來たわけぢやねえのさ」
 飄々へう/\として神田へ歸る錢形平次。その洒脱にさへ見える後ろ姿を見ると、八五郎の鬪爭心を以てしても、どうすることも出來ません。


「さア、大變、三輪の萬七親分は、向島中の人間をみんな縛りさうですよ」
 八五郎がそんなことを言つて來たのは、それから七日も經つてからのことでした。
「騷々しいぢやないか、八」
 それを迎へた平次の穩かさ。
「だつて、扇屋おうぎやの店中の者は一度づつはみんな縛られましたよ。お民を縛つてお園を縛つて、下女のお喜代を縛つて、手代の小半次を縛つて、今度は庭男の幸助を縛つて、隣りの隱居のあのヨイヨイの治兵衞まで縛つたんだから大變でせう」
 それは八五郎の言ふ通り全く大變なことでした。
「三輪の親分には何んにも解らないのだよ」
「すると親分は、扇屋殺しの下手人がわかつてゐるんですか」
「わかつてゐるぢやないか」
「へエ、あつしにはちつともわからねエ」
「仕樣のない野郎だ。まア仕方があるまい、今晩多勢の人助けのために繪解きをしてやらう。縛られたのも縛られないのも、みんな向島の扇屋の寮に集めてくれ。あの晩の人數が一人もけちやいけないよ。それに俺と三輪の親分を入れただけで、餘計な人間が來ると魔が差すから氣をつけろ」
 八五郎は半分呑込んで飛んで行きましたが、その晩酉刻むつ(六時)少し過ぎ、平次が向島の扇屋の寮へ行つた時は、二人の妾お民とお園、下女のお喜代、手代の小半次、庭男の幸助の外に隣りの隱居の治兵衞まで顏が揃つて、八五郎と三輪の萬七を中心に、平次の來るのを待つてをりました。
「や、遲くなつて濟まねえ」
 平次は氣輕に挨拶して、いつぞやの月見の宴を開いた母屋おもやの一室に通ると、その晩ほどではなくとも、兎も角一と通りの酒肴さけさかなが待つてゐるのでした。
「この間の晩のやうに酒が身に沁みませんね。親分が見てゐるせゐかも知れないが」
 そんなことを言ひながら相變らず盃を重ねる八五郎です。
「邪魔になるなら、俺は暫らく消えるよ、思ふ存分呑むがよからう」
 平次は冗談ともなくどこかへ行つて四半刻(三十分)ほど姿を隱しましたが、やがてもとの座に戻つて、
「少し早いが始めるとしようか。あの晩入口の響板きやうばんが鳴つた時、八は座敷の中で呑んでゐたが、手代の小半次は北側へ出てゐたと言つたね」
「その通りですよ、親分」
「こんな具合に」
 平次は部屋の中の一同に後ろ姿を見せて縁側に立ちました。と、間もなく誰が打つとも知れぬ戸口の響板が、あざやかに三つ、輕い美しい音を立ててトン、トン、トンと鳴つたではありませんか。
 一座の者は思はずゾツとして顏を見合せました。あまりにもよく、その晩の事情と似てゐたのです。
 平次はもう一度どこかへ出て行きましたが、暫らくして歸つて來ると、
「時刻は少し早いが、今度は離屋で大きな音がする筈だ――みんなこゝに顏が揃つてゐるだらうな――一人も足りない者はあるまいな、いゝか」
 平次はいつぞやの小半次がしたやうに、もう一度北向きの縁側へ出ました。後ろ姿はまさに、座敷の中のすべての人から見えてをります。
「あの音だ」
 ガラガラガラツと凄まじい音が離屋の縁側に起つたのです。
「それツ」
 今度は手燭や行燈あんどんを持つて、母屋の人數が一ぺんに離屋に飛び込みました。が、中は何んの變つたこともなくて、縁側にいつぞや泉水に沈んでゐた銅鑼どらが一つ轉がつてゐるだけだつたのです。
「これはどうしたことだ」
 三輪の萬七は氣むづかしくつぶやきました。
「これつきりのことだよ、三輪の親分。主人が殺された晩もこの通り誰も叩かないのに入口の響板が鳴り、誰も生きた者のゐない部屋で大きな音を立てたのだ」
 平次は何も彼も知つてゐる樣子です。
「あツ、あの野郎だ。どこへ行きやがつた。さう言へば先刻さつきから見えないが」
 萬七は四方を噛みつくやうに見廻しました。
 そこにゐるのは萬七と平次と八五郎の外には、庭男の幸助と、下女のお喜代と、妾のお民だけ。もう一人の若い妾のお園と、手代の小半次の影は見えなかつたのです。
「先刻そつと脱け出したやうだ、二人は多分身でも投げるつもりだらう」
 平次はそれを豫期したことのやうにケロリとしてかう言ふのです。
「野郎ツ、そんな勝手なことをさせてなるものか。清吉、あの手代と若い女の出て行つたのを見ないか」
 萬七は夢中になつて飛び出すと、往來の方に見張つてゐる子分のお神樂かぐらの清吉に聲を掛けました。
「ツイ今しがた、二人はどこかへ出て行きましたよ」
 清吉は呑氣のんきに秋の向島の紅葉しかけた葉櫻の土手を眺めてをります。
「下手人はあの手代だ。追つかけろ」
「本當ですか、親分」
 三輪の萬七と清吉が旋風はやてのやうに追つかけて行くのを、平次は靜かに見やりながら言ふのでした。
「二人はまだ若い、――容易に死ぬ氣になれないだらうよ、――どこかへ落ち延びて三日でも世帶を持つ氣かも知れない。せめて三日でも――」
「あの二人は、たくらんで丹右衞門を殺したのですか、親分」
 八五郎の探究慾は、平次をセンチメタルな感慨にふけらせてばかりは置きません。
「いや、殺したのは手代の小半次だ」
 平次の言葉は決定的で少しの疑ひも挾ませません。
        ×      ×      ×
「どうしたといふんでせう。あつしには少しもわかりませんよ、親分」
 八五郎も少し噛みつきさうです。
「三輪の親分にわからないことが、お前にわかるわけはないよ」
くはしく話して下さい。小半次の野郎は、何んだつて主人を殺す氣になつたんです。そして、どんな手段で殺したんでせう、親分」
「最初から筋道を立てて話してやらう。かうだ」
「――」
 向島の土手を辿たどりながら平次は靜かに――いつもの調子でかう八五郎のために語るのです。
「小半次は丹右衞門の手代で、小才が利くから、目を掛けられてゐたのだらう。年も若いし、出世の望に驅り立てられて、大した惡いこととも思はず、丹右衞門の手先になつて働いてゐたに違ひない」
「――」
「お園の親が少しばかりの金を扇屋から借りた時、その金の抵當にお園を入れさせたのも丹右衞門の深いたくらみと知らずに小半次が運んだことだらうよ。貧乏人が暮しに困つて借りた高利の金は、拂へないに決つてゐるから、お園の父親が死ぬと、お園は人身御供になつて扇屋に引取られた。その世話を燒いたのも小半次だらう」
「――」
「お園はあの通りうひ/\しく清らかで、何んとも言へない可愛らしいところがある。その生娘きむすめのお園が、あぶらぎつた丹右衞門の餌になつて、夜となく晝となく毒々しいほどさいなまれ、一寸試し五分試しに玩具おもちやにされてゐるのを見て、小半次はすつかり氣が變つてしまつたことだらう」
「――」
「一度眼がさめると、小半次は若くて血の氣の多い正直者だ。主人の丹右衞門が四十七八といふ中老のくせに、取換とりかへ引つ換へ若い女をつれ込んで、それを死ぬまでさいな淫亂いんらんな遊びが、地獄の責よりも恐ろしく小半次の眼に映つたに違ひない」
「――」
 平次の説明は目や耳で感じた現實の世界からし進んで丹右衞門お園小半次の、三人の心の世界までも飛躍するのでした。
「小半次はお園の可愛らしさに心を引かれたに違ひないが、それがきつかけになつてお園に濟まない濟まないと思ひ續け、その樣子がお園に通じて、若い二人は何時の間にやら、心から心へ何んかしら通ふ間柄になつたのも無理のないことだ――どうかしたら二人は、蔭で手くらゐは握つたかも知れず、優しい口くらゐは利いたかも知れない」
「へツ、たまらねえな」
「その心持が嵩じて、小半次はたうとう主人の丹右衞門を殺す氣になつた――どうせ殺すなら、手際よくやつてのけようと思つたのかも知れない。變なおどかしの手紙を書いて主人に見せたり、八五郎を呼んで鼻の先で見張らせ、月見の晩にたうとうあんなことをやつてしまつたんだよ」
「どういふ手段で殺したんです。あつしには少しも解らねえが」
「二本の糸だよ、――丈夫な凧糸たこいとが二本ありやよかつたのさ。これだ」
 平次は袂から玉にした二本の凧糸、――一本は少し水にれたのを出して見せました。
「へエ、それをどうしたんです」
「入口の響板の上に撞木しゆもくを吊してあるだらう、一本の凧糸をその撞木に引つかけて、ひさしの下をそつと縁側に引き、小半次は縁側へ出てお前と話しながら、その糸を引いたのさ。響板が鳴ると、小半次は客を取次ぐことにして座を外し、撞木に引つかけた糸を解いて歸つて來て、主人の耳に退ぴきならぬ大事な人の名前を囁いたのだらう」
「へエ」
「主人はそれを隣室の六疊に通させたつもりで、後から暗い渡り廊下を行つたことだらう。小半次はそれを物蔭に待ち受けて絞め殺し、曲者が一人でないやうに見せかけるために、死骸を六疊と八疊の間の長押なげしに吊つた」
「どうしてあの肥つた主人の死骸を、華奢きやしやな小半次が吊つたんです」
 それは三輪の萬七にも解き兼ねた謎でした。
「何んでもないよ。押入の中の豪勢な布團が、滅茶々々に投り込んであつたらう。あれだけの贅澤な夜の物を、あんなに粗末にして置く筈はないぢやないか。あれは小半次が布團を引出して長押の下に積み上げ、それを臺にして主人の死骸を吊つた證據だ」
「成程ね」
「それから、短刀で丹右衞門の身體に四ヶ所の傷をつけ、墨で非業に死んだ四人のめかけの名前を書き入れ、唐紙の浮世繪うきよゑ――あの六人の妾の似姿のうち、死んだ四人の手に、短刀を描き添へたのだ。恐ろしく芝居染みてゐるが、小半次は小才が利くから、これで大概たいがいの役人は誤魔化せると思つたに違ひない」
「ところが錢形の親分だけは誤魔化されなかつた」
「いや、俺も一時は迷つたよ、――ところが、小半次はあの晩來たといふ武家の客の顏が暗くてわからなかつたと言つたくせに、すぐあとから丸に二つ引の紋附を着てゐたと言つたので、これは變だと氣が付いたよ」
「それから、四半刻(三十分)も經つて大きな音をさせたのは?」
「小半次はこれだけの細工をして離屋から母屋へ歸つたのだから、餘つ程手間取つた筈だが、母屋では飮めや歌への大騷動で、大して長いとは氣がつかなかつた」
「それから、大きな音は?」
 八五郎はそればかり氣にしてをります。
「あの縁側の下の水の中に落ちてゐた、茶の湯の銅鑼どらだよ」
「へエ?」
「小半次はあの銅鑼を縁側の長押なげしの上に乘せ、糸をつけたくさびを差込んで、楔を拔けば直ぐ落ちるやうにして置いたのさ。その糸の端は泉水を越して母屋の縁側に引いてあつたので、いゝ加減時刻をはかつて、縁側でその糸を引くと、離屋の長押の上の銅鑼は恐ろしい音を立てて縁側に落ちたのだ」
「何んだ。一向つまらないことですね」
「仕掛けがわかると大概の手品は一向つまらなくなるが、それを工夫するのも見破みやぶるのも容易ぢやない――ところでその大きい音に驚いて母屋からみんな驅けつけると、小半次は早くも縁側に轉がつてゐる銅鑼を泉水の中に蹴落したのだらう」
「六疊の窓から曲者が逃げたと言つたのは?」
「あれは嘘だ。南から月が射してゐたにしても、灯のない部屋の北窓から曲者の逃げるのが、廊下から行つた者の眼に見える筈はない。現に見たといふのは、小半次とお園と二人だけだらう」
「するとお園は小半次の相棒だつたわけですね」
「いや、それほどの深いたくらみではあるまいよ。お園は何んとなく小半次をかばひたかつたんだ。若い者の心持はさうしたものだらう」
 平次は妙に年寄り臭いことを言ひます。
「親分はどうしてあの二人を縛らなかつたんです。何が何んでも、小半次とお園は主殺しの大罪人ぢやありませんか」
 主殺しが磔刊はりつけになつた時代の道徳は、八五郎の心にも沁み込んでゐるのでせう。
「その通りだよ。だから三輪の親分が眞つ黒になつて追掛けてゐるぢやないか」
 三輪の萬七はまさに『レ・ミゼラブル』の刑吏ジヤベルだつたのです。
「親分は?」
「俺は違ふ、お園は高利の金の抵當かたに、無理に人身御供に上つた氣の毒な娘だ。丹右衞門はお園に取つてはお主でも夫でもなく、言はば敵みたいなものだよ。小半次は自分の罪のつぐなひに、人身御供を助けて※々ひひ[#「けものへん+非」、U+7305、174-5]を退治した氣でゐるんだらう。――が人を殺して變な細工をしたから、三輪の親分に地獄の底までも追つかけられるのだ」
 つく/″\さう言ひながら、しよんぼりと明神下の自分の家へ歸つて行く平次だつたのです。





底本:「錢形平次捕物全集第二十九卷 浮世繪の女」同光社
   1954(昭和29)年7月15日発行
初出:「小説の泉」
   1948(昭和23)年9月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※題名「錢形平次捕物控」は、底本にはありませんが、一般に認識されている題名として、補いました。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:門田裕志
2017年3月11日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について

「口+堯」、U+5635    157-13
「けものへん+非」、U+7305    174-5


●図書カード