「おっと、待った」
「親分、そいつはいけねえ、
「言ったよ、待ったなしと言ったに相違ないが、そこを切られちゃ、この
「驚いたなア、どうも。捕物にかけちゃ、江戸開府以来の名人と言われた親分だが、
御用聞の銭形の平次は、子分のガラッ八こと八五郎を相手に、秋の陽ざしの淡い縁側、軒の
四世
もっとも、平次とガラッ八の碁はほんの真似事で、碁盤といっても菓子折の底へ足を付けたほどのもの、それにカキ餅のような心細い石ですから、
「だらしがないは口が過ぎるぞ、ガラッ八
平次も少しムッとしました。
「それじゃ、この石を待ってやる代り、何か
「馬鹿ッ、汚い事を言うな、俺は賭事は大嫌いだ」
「金でなきゃアいいでしょう、
「よしッ、それほど言うなら、この一番に負けたら、今日一日、お前が親分で俺が子分だ。どんな事を言い付けられても、文句を言わないという事にしたらどうだ」
「そいつは面白いや、あっしが負けたら、打つなり
「言ったね、さア来い」
二人はまた怪しげな碁器の中の石をガチャガチャいわせて、果し合い眼で対しました。
「まア、お前さん、そんな約束をなすって」
お静は見兼ねて声を掛けましたが、
「放っておけ、この野郎、一度うんと取っ
平次は一向聞き入れそうもありません。江戸一番の御用聞が、
「さア、親分どうです、中が死んで、
「フーム」
「降参なら投げた方が立派ですぜ。この上もがくと、
「勝手にしろ、――
平次はそう言って、一と握りの
「へッへッ、何とでもおっしゃいだ、――今日一日あっしが親分で」
「馬鹿野郎」
「親分に向って馬鹿野郎はないでしょう」
八五郎はそう言いながらも、長い
ちょうどその時でした。
「御免下さいまし、平次親分のお宅はこちらでいらっしゃいますか」
切り口上ですが、鈴を鳴らすような美しい声、女房のお静はそれに応じて取次に出た様子です。
「武家の娘だ、が――すっかり
そんな事を言って面白そうにガラッ八を顧みました銭形の平次も、なかなか人の悪いところがあります。
お静に案内されて通ったのは、十八九の武家風の娘。その頃の人ですから、すっかり訓練されて立居振舞に少しの
「お嬢様、どうなさいました、大層驚いていらっしゃるようですが――」
平次は敷物をすすめて、いたわるようにこう言いました。お静の若い美しい女房振りや、平次の穏やかな調子は、どんなに相手を慰めたことでしょう。娘は少し落着くと、ほぐれるように、その驚きを話します。
「父上――
「相沢半之丞様とおっしゃると?」
「
「フーム」
大場石見というのは、八千石を
「いつぞや助けて頂いた、
娘はそう言って、後ろに慎ましく控えたお静の方を、訴えるように見やるのでした。
「御武家方の
平次がこう乗り出してくれるともう千人力です。娘はホッとした様子で、語り進めました。
牛込見附外の大場石見というのは
相沢半之丞は典型的な用人ですが、剣槍両道にも
この人の唯一の弱みは、生れつき馬が嫌いで、もっとも身分柄乗らずに済んだせいもあるでしょう、今まではまずそのために困った経験もなかったのですが、和田倉門外の御評定所へ行って大事の品を受取って来るとなると、馬で行くのが一番ピタリとします。
幸い、主人、大場石見は大の馬好き、近頃手に入れた「
相沢半之丞、嫌とも言えず、それに乗って出かけたのが間違いの
往きはまず無事、御評定所で御墨付を受取り、一応懐紙を
見附に出て、
「旦那様、悪いものが参りました」
「何だ」
半之丞は御墨付を入れた大事の文箱を、
なるほど市ヶ谷の方から少しダラダラになった道を来るのは、引越しのガラクタともみえる高荷を積んだ大八車。戸棚を二つも重ねて――いかに電話線のない時代でも、その上へ
「旦那様、体裁は悪うございますが、しばらく我慢なすって下さい、この馬は
黒助はそう言いながら、
「ドウドウドウ」
と鼻面から
が、そんな事で
「ワーッ、ワーッ」
と言う人声、真昼の往来は断ち割ったように二つに
「旦那様、お
まだ轡を放さなかった
ヒョイと見ると、なるほど奔馬はもうお濠の
「あッ」
半之丞は本当に必死の思いで飛降りました。イヤ、転げ落ちたと言った方がよかったでしょう。大地に
「旦那様、お怪我は?」
「おお黒助、文箱を探してくれ」
「ここにございます、旦那様」
「有難い、それさえあれば」
落散る文箱を取って差出すと、半之丞押し戴いて立上がりました。
しかしこの醜態をいつまでも往来の人に見せるわけには行きません。半之丞は濠に落ちた馬の始末を黒助に任せて、自分は御墨付の入った文箱を後生大事に、そこからはもう眼と鼻の間の屋敷へ帰って来ました。
屋敷といったところで、主君大場石見のお長屋、落馬をした埃だらけの体で、主君石見の前へ出ることもできません。一応自分の長屋に帰って衣服を改め、髪を撫で付け、さて出かけようとして次の間の机の上に置いた文箱を取り上げて驚きました。
「あッ、これは?」
箱は違っているのです。
しばらくは夢見る心地、何の考えも出て来ませんが、やがて牛込見附の落馬騒ぎから、自分の長屋まで
「こういう訳でございます。御墨付が出なければ、そうでなくてさえ公儀に
半之丞の娘お
「…………」
八千石の大旗本が、潰れるか立つか、人の命幾つにも関わる事だけに、平次もお静も、八五郎も息も
「父上は、主君への申し訳、腹を切ろうとなさいましたが、腹掻き切って出て来るという品ではございません。――主君に申上げて、御驚きの中にも、三日だけ
「…………」
「と申しても、どこに隠されたやら、誰が
お秀はそう言ってしまって、畳に手を突きました。血のような涙が、ポロポロと落ちて、その桃色
「お嬢様、お手をお上げなさいまし。御武家の内輪事へ、町方の御用聞や手先が口を出すべき筋ではございませんが、お話を承ればいかにもお気の毒でございます、思い切ってお引受け申しましょう」
「え、それでは引受けて下さる、――何と御礼を申して
お秀はもう涙です。
「あ、お嬢様、今からお礼は早すぎます。ついては、これだけの事をお含み下さいませんか。私は町方の岡っ引ですから、どんな事があっても、御屋敷内の方を縛りはしませんが、三日の間出入りを自由にさして頂いた上、上は大場石見様から、下は
「それはもう」
「それからもう一つ、この野郎は八五郎と申しまして、私には可愛くてならない子分ですが、御覧のとおり人間は少し甘く出来ております」
「親分」
ガラッ八は横から口を出しました。人間が甘いと言われたのが不服だったのでしょう。
「黙っていろ、――ところでお嬢様、今日一日この八五郎が親分で、あっしが子分になるという
「…………」
お秀は不安心そうにガラッ八を見やりました。鼻は良いかも知れませんが、どうもあまり賢そうな人相ではありません。
即刻八五郎は牛込見附外の大場屋敷へ乗込みました。
八千石の旗本の用人といえば、小大名の家老にも匹敵するでしょう。相沢半之丞の権力はたいしたもの、その
「父上様、平次の子分の八五郎という方を
「
四十恰好のデップリした武士、人品骨柄には申分ありませんが、恐ろしい心配に打ちひしがれて、さすがに顔色が
「ヘエ――」
八五郎のつぶらな眼と長い
「どのようにしても構わぬ、三日の間に御墨付を捜し出して貰いたい」
「ヘエ――」
八五郎は定石通り事件を
「何なと聞くがいい」
と半之丞。
「それでは伺いますが、見附で落馬なすった時は、文箱はどうなりました」
「持っていた――が、
「拾い上げたとき変ってはいませんでしたか」
「いや、変る道理がない。眼の前で黒助が拾って、
「そこから歩いていらっしゃるうちに、摩り替えられるような事はございませんか」
「そんな事はありようはずはないではないか」
「お帰りになって、しばらく隣の御部屋の机の上にお置きになったそうじゃございませんか」
「着替えのうち、しばらく目を離したが、そこには召使の者が見張っていた」
「その方に逢わして頂けませんか」
「いいとも、これ、お
「ハイ」
お秀が立って行くと、入れ換って二十一二の、召使とは見えぬ美しい女が入って来ました。
「お召でございましたか」
「この人が
「ハイ」
静かに一礼して上げた顔は、その辺の商売人にも滅多にない
「この方は、御女中でございますか、旦那」
「フム、まず女中だ」
「まず女中とは?」
「家内に先年死に別れて、なにかと身の廻りの世話をさせておる」
そう言えば立派なお
「生れは?」
「房州の知行所の者だ」
と半之丞が引取りました。
「いつごろ御奉公に上がりました」
「もう三年ぐらいになるかな、お組」
「ハイ」
「旦那、いちいちそう旦那がおっしゃっちゃ何にもなりません。この御女中の
「左様かな」
ガラッ八の
「ところで御女中、文箱はお前さんの目の前で摩り替えられたはずだ、この辺で何もかも申上げたらどうだ」
とガラッ八、思いの外突っ込んだ事を言います。
「えッ、そんな、そんな事はございません」
お組の顔はサッと血の気を失いました。
「落馬した時に変らず、道中で変らなければ、旦那がちょっと眼を離した時、――お嬢様が御手伝いをして着換えをしている時、隣の部屋でお前さんが摩り替えるより外に変りようがないではないか。大事な時だ、よく考えて物を言った方がいいよ」
「…………」
半之丞
「どうだい、八親分」
「お願いだから、その『親分』だけは
帰って来た八五郎を迎えて、平次はこんな調子で話しかけました。
「それじゃ、ガラッ八親分」
「なお悪いや、――もう碁の相手は御免だ」
「気の弱いことを言うなよ、ところで首尾はどうだい」
「上々さ、自慢じゃねえが、あっしが乗込むと、一ぺんにカラクリが解ってしまいましたよ、親分」
「大層鼻がいいね、
「見当は心細いな、動きのとれないところを押えて、白状させるばかりに運んで来ましたぜ」
「ヘエ――、少し
「こういうわけでさ、相沢半之丞は三年前に
「なるほど」
「文箱をちょっとの間見張っていたのは、間違いもなく、その女だから、誰が考えたって曲者はお組に
八五郎は少ししたり顔でした。なるほど、それだけの話なら、平次を引張り出すまでもなく、ガラッ八でも事は済みます。
「ところで、その御墨付というのは見付かったのかい」
と平次。
「それが判らないから不思議だ、御墨付が見付かるどころか、どんなに責めても、お組というお妾は知らぬ存ぜぬの一点張りだ。ね親分、女というものは、思ったより剛情なものじゃありませんか。顔を見ると、そんな大それた事をしそうもないが」
「もう一つ訊くが、文箱は念入りに
「見ましたとも」
「
「そんなものはありゃしません、
「フーム」
「落馬したとき持っていた箱なら、往来へ取落したというから少しぐらい拭いたって、泥か埃が付いているはずでしょう。――だから家へ持って帰ってから摩り替えられたに間違いありません」
ガラッ八も見よう見真似でなかなか
「八」
「ヘエ」
「これは、思ったより底のある企みらしいぜ、もう少し様子を見るとしよう」
平次は考え深そうに腕を
「底にも
「いや、そうじゃない。お前は駄目ばかり詰めて、
「ヘエ、
「俺はこれから、ちょいと行って見てくる。用事があったら牛込見附の辺へ来てみるがいい」
もう夕暮に近い街へ、平次は大急ぎに飛出しました。
それから一刻(二時間)ばかり、秋の日はすっかり暮れて、ガラッ八が所在もなく鼻毛を抜いていると、牛込の大場石見邸から、
「即刻、平次親分に来てくれるように」
という丁寧な口上で使いの者が来ました。
「弱ったなア、親分はどこへ行ったか解りませんが、その辺まで行ってみましょう。牛込見附のあたりにいるかもわかりませんから」
ガラッ八はそう言いながら使いの者と一緒に、神田から九段下に出て牛込見附へやって来ました。
八日月の薄明り、幸い人の影は五間十間離れても見当ぐらい付きます。
「親分」
ガラッ八は月の光にすかして声を掛けると、濠端の柳の幹から離れた影が、
「八か、何だ用事は」
「大場様から、すぐ来るようにって、御使いの方が見えましたぜ」
「そうだろう」
「あれ、待っていたのかい」
「まア、ね」
平次はそう言って、何やら手に持った物を
通されたのは、相沢半之丞の長屋ではなく、本家の大場石見の奥座敷、といっても、庭木戸から廻って、縁側にかしこまった平次とガラッ八は、
庭先に
「平次か」
縁側に立ったのは、大場石見、八千石の当主でしょう。五十を少し越した筋張った神経質な武家、一刀を
「ヘエ」
「用人相沢半之丞から何もかも聞いた。この女を申受けて、あらゆる責めようをしてみたが、剛情我慢でなんとしても言わぬ。命を絶つのは易いが、それでは御墨付の行方も永久に解るまいというので、取りあえずそのほうを呼びにやったのだ。商売商売で、かような女に口を開かせる
「…………」
「大場家の大事だ。首尾よく御墨付の
「…………」
何という嫌な言い草でしょう。平次は
「どうじゃな、平次」
「拷問や
平次は
「フーム、そうか、なかなか立派な口をきくのう。が、大場の家の浮沈に関わることじゃ、捨て置くわけには参らぬ。半之丞、打って打って打ち据えいッ、黒助は水を掛けるのだ」
「ハッ」
「半之丞、打てッ」
「ハッ」
相沢半之丞、弓の折れを取って立上がると、三年越し
「あッ」
キリキリと
「まだ言わぬか、女」
堪え兼ねて大場石見、一刀を提げたまま庭に降り立ちました。
「殿様、お
「何?」
不意に、縛られた女の声を聞くと、大場石見は
「永い間の非道ななされ方の
「何、何を言う」
「親は子を売り、夫は女房に別れて、泣かない日とてはない何千人の怨み、公儀の御とがめは
縛られた美女、月光に人魚のように光るのが、カラカラと血潮に酔ったような笑い声を立てるのでした。
「お前は何だ」
「房州の百姓の娘、殿様に近付いて怨みを報いたいばかりに、相沢様に取入って、心にもない機嫌
高鳴る
「お組、それは考え違いだぞ。殿様にはよく申上げて、くれぐれも上納を軽くして頂く、御墨付の
と相沢半之丞、思わず立上がって、松が枝に
「誰が言うものか、見るがいい、この邸にペンペン草を生やしてやるから」
「お組ッ」
黒助と石見が一団になって駆け付けましたが、縛られたまま舌でも切ったものか、吊られた縄がキリキリと廻ると、お組の蒼白い唇からはカッと血潮が流れます。
「平次、何とかならぬものか。お組が死んでしまっては、開かせる口もないが、御墨付がなくては大場の御家は断絶だ」
「…………」
「約束の三日目は過ぎて、今日はもう七日目ではないか。何とかして捜し出す工夫はないものだろうか。まさかお組は、焼きも捨てもしたはずはない。八五郎とかいうのが気が付くと、すぐ取って押えて、間もなく主君へ申上げたのだから、御墨付を始末する暇はなかったはずだ」
相沢半之丞、折入って平次に頼み込みました。お組が死んで七日目、これ以上愚図愚図して、公儀の耳にでも入っては、全くどうすることも出来なかったのでしょう。
「御胸の
「それでは何とかしてくれぬか。拙者も腹を切るにも切られぬ破目だ」
半之丞は思わず
「旦那、私にはよく解っております」
「何が」
「御墨付は焼きも捨てもしませんが、このままでは決して出っこはありません」
「どうすればいいのだ」
「お人払いを願います」
平次の物々しい様子に、半之丞は立って縁側と隣の部屋を覗きました。
「誰も聞いてはいぬ」
「御墨付を手に入れるには、大場石見様が隠居を遊ばして、
「えッ」
平次は大変な事を言い出しました。
「長い間の無法な御政治で、御領地の百姓が命を捨ててお怨みしようと思っております。このままにしておいては、百人千人のお組が出て来ることは、解り切ったことでございましょう」
「フーム」
「御当主石見様は、先代の御遺言通りに遊ばせば、三年も前に
「…………」
「このままに時が経てば、御城の目安箱から、大場家御墨付紛失の届が出て来ましょう。一と月とたたないうちに、御家は御取潰しになります」
「…………」
「殿様――石見様は一日も早く御隠居遊ばして、本当の御跡取り、采女様を家督に直すよう、くれぐれもおすすめ申上げます。それさえ運べば、
平次の言葉には、妥協も駆引もありませんでした。大場家を潰すか、石見が隠居するか、この二つより外には道がありそうもなかったのです。
「旦那様、大事な場合でございます。後見人から御当主に直られた石見様の悪業のために、大場の御家を潰してはなりません」
「…………」
重ねて言う平次の言葉に、相沢半之丞も
事件は一挙に片付いてしまいました。
が、まだ御墨付が出て来ません。
采女が登城して、首尾よく
「平次、もう御墨付を捜してもらえるだろうな、それを
自分の
「私も今晩あたりは、御墨付をお返し申上げられるかと思います。恐れ入りますが、
妙な註文ですが、半之丞はすぐ人をやって、黒助を庭先へ呼び寄せました。
「黒助に何か用事か」
若い采女は、平次の物々しさが、すっかり気に入ったようです。
「
ズイと出た平次、縁側の下に
「えッ、そりゃ親分」
黒助はギョッとして顔を上げました。二十四五のよい若い者、黒助という名とは似もつかぬ色白で、身のこなしも何となく尋常ではありません。
「よく知っているよ、なア、黒助兄哥、お前さんの
「…………」
黒助はガックリ首を垂れました。平次の言う事が図星をピタリと言い当てたのでしょう。
「相沢様が御墨付を受取りに行った時、
平次はそう言って袖の中から七八寸の青竹、節のところに小さい穴をあけて綿を巻いた
「…………」
黒助はもとより、采女も半之丞も、あまりの事に言葉もなく互に顔を見合せるばかりです。
「馬は耳へ水を入れられると死ぬ、お前は折を狙って『
「…………」
「子分の八五郎を相沢様の御長屋へやって、俺は馬の荒れた場所へ行ってみた。見当を付けた
「…………」
「妹のお組は、兄の
何という明智でしょう。こう説き明かされてみると、もう
「俺はこの手で妹へ水をブッ掛けさせられた。畜生、殺しても
黒助はキリキリと歯を噛み締めて、いつぞや、妹が吊られた松が枝を、一と月遅れの月の光に見上げました。
「黒助
「平次、御墨付は」
と相沢半之丞。
「ヘエ、これがその御墨付でございます」
次の間の縁側から、ガラッ八の八五郎が、
「あッ、それは」
「黒助兄哥、済まねえが
「…………」
何という横着さ、半之丞が
「お組の墓でも建ててやれ」
黒助は黙ってうなずきました。この若くて
*
「親分、鮮やかだったね、水鉄砲を
「お前が文箱を捧げて出た足取りもよかったよ、ハッハッハッハッ、この勝負は
「
平次と八五郎は、月明りの下を、ホロ酔い加減で神田へ
相沢半之丞は惜しまれながら身を引き、娘のお秀は玉の