「親分、良い陽気じゃありませんか。少し出かけてみちゃどうです」
ガラッ八の八五郎が木戸の外から
「なんだ八か。そんなところから
銭形平次は、来客と対談中の身体を
「顎――ですかね、へッ、へッ」
ガラッ八は首を引っ込めて、不平らしく
「木戸の上へ載っかったのは、まさか鼻の頭じゃあるめえ。体裁振らずに、さっさと大玄関から入って来るがいい」
「大玄関と来たぜ、へッ、へッ、親分もいい気のものだ。敷台に隣の赤犬が寝そべっているんだが蹴飛ばしても喰い付きゃしませんか」
「ていねいに挨拶をして通るんだよ。犬だって
平次は客を見て苦笑するのです。
客というのは、目白台で
「親分、何か用事ですかえ」
八五郎はそれでも犬にも噛み付かれず、障子の外から
「三つ股の兄哥だ。挨拶をしな」
「ヘエ、今日は」
「おや、八五郎
「殺されたのは、
八五郎は
「馬鹿だなア、三つ股の兄哥が男とも女とも言ってないじゃないか」
と平次。
「なるほど」
「
源吉は引取りました。
「ヘエ――」
「殺されたのは、雑司ヶ谷きっての大地主で、
「せめて八兄哥ですか」
八五郎は少し
「そんなわけじゃない。ぜひ八五郎兄哥に来て貰って――」
「せめて八兄哥――で沢山だよ。折角だから、行ってみるがいい。とんだ良い修業じゃないか」
平次にそう言われるまでもなく、退屈しきっている八五郎は、どこへでも飛出したくて仕様のない様子でした。
「行きますよ、親分。――あっしが行ったからには、御手拍子三つ打つうちに、首尾よく下手人を挙げてお目にかけますよ」
「馬鹿野郎」
「へッ」
「こんな調子だから、頼りないことこの上もなしだが、猫の子よりは役に立つだろう。今日中に形が付かなかったら、明日は俺が行ってみるよ」
「そうしてくれると有難い。それじゃ八兄哥を借りて行くぜ」
三つ股の源吉は八五郎をつれて、ともかくも目白台に帰って行きました。それは桜には少し遅いがまだ
道々源吉は、八五郎のために事件の輪郭を説明してくれました。
殺された寅旦那は、寅五郎が本名で、目白台の半分を持っているという大地主、語り伝えの
それが、今朝、
おとといは三月の
多分ほろ酔機嫌でよく寝込んだところを、脇差で一と思いに刺されたのでしょう。傷は
「ざっとこんなわけだ。命がけで寅五郎を怨んでいる者はうんとある。まず女房のお富は四十を越しているくせに、犬と猿で、朝から晩まで亭主といがみ合っている始末だ。寅五郎が
源吉は語り進みます。
「その二人には下手人の疑いがかからないわけだね」
と八五郎。
「何とも言えるものか、姪のお豊だって、給料のない下女みたいに、何年越し滅茶滅茶にコキ使われているから、二人相談して口を合せさえすれば、どんな事でも出来るよ」
「でも、傷は一つで喉笛だというと、馬乗りになる外はない、女がまさか――」
と八五郎。
「そんな事もあるだろうな。さすがに銭形の兄哥の仕込みで、八兄哥も良いところへ気が付くようになったね」
「それに、家の者じゃ刃物を隠しようはあるめえ。下水や床下へ
八五郎は少し調子に乗りました。
「そいつは早合点すぎるぜ。下手人が家の者だからこそ念入りに刃物を隠すんだ。外から入った殺しなら、そんなものはわざと投り出して行くよ」
「なるほどね」
八五郎は簡単に
「それから、主人の義理の弟で金次郎というのがいる。三十七八の喰えそうもない男だが、不思議に文句も言わずに、長年のあいだ番頭代りに働いている」
「給料を貰っているだろう」
「そんなものを出す寅旦那じゃない、食わせるのが惜しくてたまらないといった顔だ。四十近くなるまで、女房も持たずに、ガミガミ言われながら働くのは、いかな金次郎でも容易の辛抱じゃあるまいよ」
「それから」
「百姓の松蔵というのが、
「それから」
八五郎はなおも根掘りします。
「松蔵の
「…………」
「松太郎の妹のお美代は、
「それから」
「雑司ヶ谷の荒物屋の利八という
「へッ」
「まだ寅五郎を殺しそうなのはうんとあるが、まず一番手近なところはそんなものだ」
「そのうちで一番臭いのは?」
「松蔵かも知れないよ。田地を取られた上、娘を売って、倅は家出したんだから、――もっとも、松蔵はその晩、練馬の弟のところへ法事に
「時刻は?」
「出かけたのは薄暗くなってから、もっとも――法事に行くなら、
「なるほどね」
ガラッ八は高慢らしく腕を組みました。が、何にも見当が付いたわけではありません。
「親分、とうとう捕まえましたよ」
「何を捕まえたんだ」
「
磯吉は心得顔に入口のすぐ側にある、長四畳を指さしました。
「そいつは良い
源吉はガラッ八などを
「物置の炭俵の中ですよ」
「どうして、あの晩盗み出した金と判ったんだ」
「
磯吉の鼻は少しばかり
「なるほどそいつは面白い図だったな。――ところで刃物はどうしたか訊かないのか」
「一応訊いてみましたが、白ばっくれて言やしません。二つ三つ引っ叩いたら、
「よしよし」
源吉はそれを聴き捨てて長四畳に入って行きました。
「あ、親分、私じゃない。――兄を殺したのは私じゃありません。助けて、助けて下さい。お願い」
柱に縛られた金次郎は、源吉の顔を見るとわめき立てるのです。四十そこそこの
「金は盗んだが、
源吉は物馴れた調子で畳みかけながら、縛られた金次郎の前に
「刃物なんか、何にも知りません。――私は金を盗みました。でも、こいつは私の金だったんです。死んだ主人と兄弟の仲といっても、もとを洗えば他人同士の私が、二十年近くもただで働かされたんです。いずれ給料を勘定して、一度に払ってやるからと、兄は口癖のように言っていましたが、その兄が死んだ今となって、この世帯はどこへ行くか解りませんが、私が言い立てたところで、二十年の間の給料を誰も払ってくれるはずはありません」
「それでツイ殺す気になったんだろう」
「とんでもない。私はそんな人間じゃありません。昨日の朝兄が殺されていると知ったとき、皆んな大騒ぎをしている
「今さらそんな事をしたって追っ付くか、馬鹿野郎」
源吉はヌケヌケとした金次郎の弁解に腹を
「あッ、親分さん、私じゃありません。私はあの晩
「どこへ行って泊って来たんだ」
「表通りのお七のところ――」
「そいつは後で調べる。――もっとも、お七のところにしけ込んだにしても、夜中にそっと抜け出して来る
「そんな事が出来るものですか」
際限もなく言い募る二人。我慢がなり兼ねて、八五郎はそっと源吉の袖を引きました。
「三つ股の、――こいつは少し変じゃないかね。殺して
「八兄哥、――俺は下手人はやはりこの野郎だと思うよ。まア、せっかくそう言うなら、もう少しあっちこっち当ってみようか」
源吉は少し不機嫌な様子で、ようやく長四畳から出ました。
目白長者、寅五郎の屋敷は豪勢でした。細川
部屋部屋の青畳の
寅五郎の女房のお富は、四十をよほど越したらしい年配にも恥じず、夫が死んだ二日目に、
「私はお豊と一緒に
危うく笑い出しそうにして、
奉公人というのは、出来るだけ給料の安そうな小僧が二人、小女が二人。これはどう疑ってみても事件に関係がありません。
主人の姪のお豊というのは、十八の娘盛り。気の毒なことに、身に着いた赤いものは、可愛らしい唇だけという有様で、朝から晩までこき使われるらしく、見る影もない痛々しい姿ですが、不思議な美しさが、その底から輝いて、ジッと見ていると、涙を誘われるようないじらしい娘でした。
「お前は主人を怨んでいるだろうな」
八五郎は親分の平次の調子でズバリとやってみました。
「…………」
黙ってそこの八五郎を見上げた眼には、見る見る涙が
「給料を貰ったことがあるのかい」
娘は黙って頭を振りました。
「主人をうんと怨んでいるのは誰と誰だ」
「…………」
娘はそれにも答えません。
「
無用の努力と思ったか、源吉は八五郎を
「ここは?」
物の気配を感じて、八五郎は納屋を覗きました。
「作男の松蔵がいるよ。その男はいちばん寅五郎を怨んでいるはずだが、――下手人にしちゃ少し正直すぎるよ。仏松蔵と言や、この辺で知らない者のない老爺だ」
「仏松蔵か」
八五郎はそれを口の中で繰り返して、物置の世帯を覗きました。そんな
「…………」
中はほんとうに形ばかりの世帯で、土間に
筵の上につまんで置いたような寒々とした老爺は、二人の姿を見ると、臆病らしくお辞儀をしました。老けては見えますが、それは貧苦と労働のせいで、本当はせいぜい五十四五でしょう。
「爺さん、びくびくする事はない。正直に話してくれ」
八五郎はその側へ寄って、木の根っこの一つに腰をおろしました。
作男松蔵の話は、正直すぎて嘘のようでした。一つは八五郎の明けっ放しな質問に引出されたのと、もう一つは、土地の者源吉が、いろいろの事情を知り抜いていて、松蔵に隠し立てを許さなかったせいもあるでしょう。
「お前が寅旦那から金を借りて、田地を取上げられたというのは本当か」
八五郎の問いはこんな事から始まりました。
「ヘエ――、取上げられたと申しましょうか。――お金は五年前に、三十両ほど拝借しました。重なる不仕合せと、倅の松太郎が
「それを払えなかったんだね」
「利に利が積ってその
松蔵は膝に
「それからどうした」
八五郎も妙につまされて、鼻の中が塩っ辛くなりました。
「去年の秋になって、とうとう、私の田地をみんな差上げて、借金を棒引にして頂きました。土地はせいぜい百両そこそこのものだから、家も屋敷も何もかも付けても、ひどい損だと寅旦那はおっしゃいます」
「その不足分のせいでお前が一生奉公にここへ入ったという話だが――」
源吉は口を入れます。
「いえ、それどころじゃございません。私は親から譲られた土地に離れ兼ねて、私の方から進んで作男に入ったのでございます。給料も何にも頂けませんが、こうして食べさして下されば、私は子供の時から馴染んで来た土地でどうやらこうやら働き続けていられます。――さいしょ旦那様は私のお願いをお嫌がりになりましたが、近頃ではかえって喜んでいる様子でございました。私は一生ここの厄介になって、少しばかりの不自由さえ我慢すれば、
松蔵はそのまま大地にのめり込みそうに、肩を落して
「そんなに気を落したものじゃあるまいよ。土は日本国中どこの土も同じことじゃないか」
八五郎はツイお座なりを言いました。
「…………」
黙って頭を振る松蔵。
「ところで、倅の松太郎はどうしているんだ」
ガラッ八は照れ隠しらしく訊きました。
「根岸で叩き大工の真似事をしているという
「ここへ来ることがあるのか」
「もう一年も顔を見せません。娘のお美代が売られて行く時だって
松蔵の顔には、
「そいつは薄情だな」
「そればかりじゃございません。こんなみじめな目に逢うのも、もとはあの野郎がやくざ仲間に入って
松蔵の怒りは際限もなく発展しますが、それが少しばかり
八五郎はそのまま神田へ帰って来ました。下手人を挙げる
「どうした八、元気がないじゃないか」
平次は軽い調子でした。
「どうにも手の付けようがありませんよ。下手人は金次郎でなきゃ松蔵だが、あっしの勘じゃ、どうも二人とも下手人らしくねエ」
「勘や見当で下手人を決められてたまるものか。――それより、主人の寅五郎が殺される前に、
平次はさすがに急所を
「殺されたのか死んだのかわかりませんが、二日前の朝、手飼いの牝犬が、お勝手口でコロリと死んでいたそうですよ。――前の晩まで、恐ろしく元気だったのが――」
「前の晩まで元気な犬が、卒中や
「いいえ」
「まあいいやな。犬を二日前に殺す奴は、よっぽど智恵が廻るはずだ。お前をやったのが間違いさ」
「親分」
「急に果たし
「ヘエ――」
「それから、少し足場は悪いが、帰りに吉原へ廻って、お美代にも逢って来るがいい。こいつは悪くない役目だぜ。兄の松太郎の身持と、親父の松蔵の言ったことに、掛引や嘘がないかどうか、それだけ訊けばたくさんだ」
「ヘエ――」
ガラッ八は無精らしく出て行きました。それから小半刻も経つと、平次は何を思い付いたか、下っ引の竹を呼んで品川に走らせ、自分は仕度もそこそこに、根岸に向ったのです。
大工の松太郎の巣はすぐ判りました。まだ棟梁の初三郎の家にゴロゴロしている身分で、そこで訊くと、
「三日前に江の島から鎌倉へかけて、五六人の仲間と一緒に遊びに出かけ、今晩か、遅くも明日あたりは帰るだろうという話ですが、松さんと来た日にゃ、手の付けようがありませんよ。酒と勝負事が好きで、人間は器用なんだが、仕事に一向身が入りません。あれじゃ何年経ったって、一本の職人になれっこはありませんよ」
初三郎の女房は、待ってましたと言わぬばかりにまくし立てます。
「そいつは始末が悪かろう。ところで、二日前の晩に、ここを
平次はさり気なく訊ねます。
「宵から急ぎの仕事を片付けて、発ったのは
「一人かえ」
「え、仲間の若い人たちは、前の晩から品川へ行って、
「仕度は?」
「大した仕度はなかったようです。もっとも、路用がないからと言って、うちの人から三両ばかり借りて行きましたが」
「有難う、そんな事でよかろう」
それ以上は平次にも引出しようはありません。
物足りない心持で神田へ帰って来ると、品川へやった下っ引の竹も、目白へ行った八五郎も帰って来ておりました。
竹の報告は予期した通り、
「松太郎は
夜の短い時分で、寅刻過ぎというと、すっかり明るくなっているはず、根岸から
「八の方はどうだ」
平次は八五郎のモジモジした顔へ振り向きました。
「
「それから、もう一つ――」
「音羽の荒物屋の利八は
「そんな事でよかろう」
平次は腕を
「下手人の見当は付いたんですか、親分」
「いや、少しも解らねえよ」
「やはり下手人は金次郎ですかねえ」
「大違いだ。下手人は
「松蔵は?」
「今のところ、松蔵が一番怪しいよ。それほどまでに大事に思う土地を
「恐ろしく正直そうな老爺ですよ、親分」
「そいつが当てにならないのさ。今までもこの上もなく正直そうな悪者をずいぶん手がけているはずだ」
「そういえばそんなものですが」
「ともかく、本人に逢ってみようか。猫っ冠りか、腹の底からの正直者か、大概一と眼で判るだろう」
平次はガラッ八と一緒に、とうとう目白長者の家へ出かけてみる気になったのです。
「そう来なくちゃ面白くない」
その後ろからいそいそとついて行くガラッ八。
「あ」
平次は
「親分、どうしたんです」
八五郎の方が驚いたのも無理はありません。
「八、あれを見たか」
「何ですえ、親分。細川様の御門と鶴亀の松、――外に何にもないじゃありませんか」
「いや、あるはずだ」
「御門の前に
「それから」
「飛脚が飛出しましたね、お下屋敷から。九州熊本の御領地へ、急ぎの手紙でも持って行くんでしょうよ」
「そこだよ、八」
「ヘエ――」
八五郎はキョトンとしました。親分の平次の調子が、あんまり不断と違っていたのです。
「夜でも昼でも、俺達は江戸の町の中を、
「夕立に逢った時は別ですがね」
「その通りだ。夕立にでも逢わなきゃ、江戸の町を駆けて歩くと、誰でも変だと思う。まして真夜中だ」
「ヘエ――」
「ところが、江戸の町の真ん中を、存分に駆け出しても、一向人の驚かない稼業がある」
「ヘエ――」
「駕籠屋と飛脚だよ、八」
「?」
「四つ手なら飛ぶ方が当り前だが、町駕籠だって、急ぎの用事の時はずいぶん飛ばせる。まして飛脚はノソノソ歩いた日にゃ、
「?」
「寅五郎殺しの下手人は、――俺にようやく判ったような気がするよ。――俺はここから引返す。お前は真っすぐに目白へ行って、松蔵を縛りたくてウジウジしている三つ股の源吉兄哥に――勝手にするようにと言ってくれ」
平次の言葉は、あまりにも予想外です。
「下手人は、あの仏松蔵ですか」
「そうかも知れない、でないかも知れない。が、とにかく、松蔵を縛ると、下手人は苦もなく判るよ、それがかえって松蔵を助ける手段になるかも知れない」
「ヘエ――」
平次はそれっきり引返してしまいました。
親分の意見に、善悪ともに盲従するガラッ八は、目白屋敷に立ち向うと、おどろき騒ぐ人たちを尻目に、キリキリと作男の松蔵を縛り上げ、源吉の嫌味を聴き流して、番所へ
それからいろいろの手順を運んで、神田の平次のところへ帰ったのは夜の
思いきやそこには、松蔵の倅松太郎が、江の島から帰ったまま、旅の
「目白長者の寅五郎を殺したのは、この松太郎に相違ありません。親父の縄を解いてやって下さい。お願いでございます」
そうわめき立てながら、平次のところに飛込んだところでした。
「よしよし。お前が名乗って出るのを待っていたんだ」
「ヘエ――」
松太郎は気抜けがしたように、上がり
「お前はあの晩、根岸で辻駕籠を拾って目白台まで駆け付け、駕籠屋に小判一枚はずんだろう」
平次は
「どうしてそれを、親分」
「根岸の駕籠屋に聴いたのさ。それにお前は、棟梁のところで三両借りて行ったじゃないか。それから、寅五郎を殺して刀を江戸川に投り込み、細川様の飛脚の振りをして、品川まで飛んだはずだ。――その間がたった一刻半(三時間)、恐ろしく早い足だな、松太郎」
「ヘエ――」
何もかも言い当てられたらしく、松太郎はただ恐れ入ります。
「だが、お前にも恐ろしい当て違いがあった。――その晩
「…………」
松太郎は恐れ入ってしまいました。平次の明察には、一点の狂いもありません。
「金次郎か利八が縛られる分には、お前は知らん顔をしている
「親分、あっしはそこまでは考えません。あんなに土地を大事にしていた親仁と、身売りまでした妹の
「悪いことは出来ないな、松太郎」
「だから名乗って出ました。どんなお仕置にでもして下さい。その代り親分、銭形の親分さんを見込んでお願い申します。寅五郎に
「ウム、そいつは何とかしようよ」
平次は大きくうなずきました。
「それから、吉原にいる妹――」
「それもお前の父親の手許に返してやろう。心配するな」
「有難い。それであっしは、
松太郎は土間に滑り落ちて、平次の前に
「
平次は
*
お
「驚いたね、親分。こんな政談は初めてだ」
ガラッ八がそういうのも無理のないことでした。
「俺も初めてさ。この上は松太郎が早く島から帰るように、笹野の旦那やお奉行にお願いしてみよう。お豊が一生懸命で待っているようだから」
平次はそう言うのです。もとの安らかな生活に