行軍一

竹内浩三




白い小学校の運動場で
おれたちはひるやすみした
枝のないポプラの列の影がながい
ポプラの枝のきれたところに 肋木ろくぼくの奇妙なオブジェに
赤い帽子に黒い服の ガラスのような子供たちが
流れくずれて かちどきをあげて
おれたちの眼をいたくさせる

日の丸が上っている
校舎からオルガンがシャボン玉みたいにはじけてくる
おれのよごれた手は ヂストマみたいに
飯盒はんごうの底をはいまわり 飯粒をあさっている
さあ この手でもって「ほまれ」をはさんで
うまそうにけぶりでもはいてやろうか

雲で星がみえなくなった
まっくらになった
みんなだまっていて タバコの火だけが呼吸している
まだまだ兵営はとおくにある

村をこえて
橋をこえて 線路をよこぎって
ひるま女学生が自転車にのっていた畑もよこぎって
ずんずんあるかねばならぬ
汗がさめてきた うごきたくない

星もない道ばたで おれは発熱しながら 昆虫のように脱皮してゆくようだ





底本:「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」藤原書店
   2001(平成13)年11月30日初版第1刷発行
   2002(平成14)年8月30日初版第5刷発行
入力:坂本真一
校正:雪森
2014年11月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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