夜通し風がふいていた

竹内浩三




上衣のボタンもかけずに
かわやへつっ走って行った
厠のまん中に
くさったリンゴみたいな電灯が一つ

まっ黒な兵舎の中では
兵隊たちが
あたまから毛布をかむって
夢もみずにねむっているのだ
くらやみの中で
まじめくさった目をみひらいている
やつもいるのだ

東の方がしらんできて
細い月がのぼっていた
風に夜どおしみがかれた星は
だんだん小さくなって
光をうしなってゆく

たちどまって空をあおいで
空からなにか来そうな気で
まってたけれども
なんにもくるはずもなかった





底本:「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」藤原書店
   2001(平成13)年11月30日初版第1刷発行
   2002(平成14)年8月30日初版第5刷発行
入力:坂本真一
校正:雪森
2014年12月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード