行軍二

竹内浩三




あの山を越えるとき
おれたちは機関車のように 蒸気ばんでおった
だまりこんで がつんがつんと あるいておった
急に風がきて 白い雪のかたまりを なげてよこした
水筒の水は 口の中をガラスのように刺した
あの山を越えるとき
おれたちは焼ける樟樹くすのきであった
いま あの山は まっ黒で
その上に ぎりぎりと オリオン星がかがやいている
じっとこうして背嚢はいのうにもたれて
地べたの上でいきづいていたものだ
またもや風がきて雨をおれたちの顔にかけていった





底本:「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」藤原書店
   2001(平成13)年11月30日初版第1刷発行
   2002(平成14)年8月30日初版第5刷発行
入力:坂本真一
校正:雪森
2014年11月14日作成
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