老いらくの身をはるばると

三好達治




老いらくの身をはるばると
このあしたわがふるさとゆ
ははそはの母はきたまふ

おんくるまうまやにつかせ
たまふにはいとまありけり
われひとりなぎさにいでて

冬の日のほのかほのかに
あたたかき濱のおほなみ
ひるがへる見つつたのしも

眞鶴まなづるの崎の巖が根
大島のはるけき烟
見はるかしゐつつたのしも

あはれよないつかその子も
皺だたみ老いんとすらん
まづしかる旅のすみかに

ははそはの母はおとなひ
たまふなり師走のあした
くさも木もおほかた枯れて

そら青きをちの國ぐに
山川のはるけきをへて
おんくるまいましきたまふ

さねさし相模の小野に
おんくるま走らひきたる
ころをしも待ちつつたのし





底本:「三好達治全集第一卷」筑摩書房
   1964(昭和39)年10月15日発行
底本の親本:「定本三好達治全詩集」筑摩書房
   1962(昭和37)年3月30日
入力:kompass
校正:杉浦鳥見
2019年5月28日作成
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