烏帽子見ゆ
淺間見ゆ
わが路ゆかむ
日の暮るるまで
鎗が嶺に
よべ雪ふりぬ
草枕旅寢の夢を
めざめて見れば
一の枝二の枝
三の枝にふれ
何の落葉か
地におつる音
いくひらの
殘りの落葉おつる音
落葉林に
ひびかひにけり
黄金なす陽は落ちにけり
はやもはや
雪の山山
藍にかげろふ
芋はこぶ
車の越ゆる峠路や
頬白ないて
秋の海見ゆ
岨路に ふとたちどまり
仔の犬の
ポチのあふげる
四十雀のむれ
大沼の
渚に われらまどゐして
うちあふぎたり
鷲ひとつまふ
聲ありて つと
もだしたる 木の下の
えぞ蟲くひの
青き眉かな
閃々と
その鳥の 姿は
見えず 落葉の路
こぞの秋
この細みちをこしときも
啼きてゐたりし
けらつつき
よびとめられし身ぶりして
ふりかへりたる
秋の大空
ほしがらす
ひそかに一羽ゐたりけり
街の夕べの
羅紗賣りめける
山峽の
夕べの池ゆ
鴨どりは舞ひたちにけり
五十羽百羽
秋深き
岩寥山のいただきに
降りなむとして
舞へる鷲かな
ひようひようと
間なくしよばふ 一むれの[#「間なくしよばふ 一むれの」は底本では「間なくしよばふ一むれの」]
鷽あらはなる
枯木立かな
越の山 信濃の山の
高山の
はじめの雪は
わきてたふとし
山の湯の
赤犬のうめりし 仔の犬の
眼をつむりなく
初雪の朝
紀の國の
つまのたよりもまれらなり
雪あたらしき
むかつ山なみ
紀の國のわがうまし子は
いかばかり 生ひたちにけむ
山は
はや雪
やうやくに
老いを嘆ずる身となりぬ
樺の小徑の
秋の日の暮れ
晝飯のおん握り飯
つめたきを
風にふかれて
食ふ枯野かな