ゆづり葉

河井酔茗




子供たちよ。
これはゆづの木です。
このゆづ
あたらしい葉が出来ると
かはつてふるい葉が落ちてしまふのです。

こんなにあつい葉
こんなに大きい葉でも
新しい葉が出来ると無造作むざうさに落ちる
新しい葉にいのちをゆづつて――。

子供たちよ。
お前たちは何をしがらないでも
凡てのものがお前たちにゆづられるのです。
太陽のめぐるかぎり
譲られるものはえません。

かゞやける大都会だいとくわい
そつくりお前たちがゆづり受けるのです。
読みきれないほどの書物しよもつ
みんなお前たちの手に受取うけとるのです。
幸福なる子供たちよ
お前たちの手はまだちひさいけれど――。

世のお父さん、お母さんたちは
何一つ持つてゆかない。
みんなお前たちにゆづつてゆくために
いのちあるもの、よいもの、美しいものを
一生懸命につくつてゐます。

今、お前たちは気がかないけれど
ひとりでにいのちはびる。
鳥のやうにうたひ、花のやうに笑つてゐる間に気がいてきます。

そしたら子供たちよ
もう一ゆづの木のしたに立つて
譲り葉を見る時がるでせう。





底本:「ふるさと文学館 第三三巻 【大阪※(ローマ数字2、1-13-22)】」ぎょうせい
   1995(平成7)年8月15日初版発行
底本の親本:「酔茗詩抄」岩波文庫、岩波書店
   1973(昭和48)年
初出:「紫羅欄花」東北書院
   1932(昭和7)年
入力:大久保ゆう
校正:Juki
2016年1月1日作成
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