いしが奢る

山本周五郎





 六月中旬のある日、まだ降り惜しんでいる梅雨のなかを、本信保馬が江戸から到着した。
 保馬は江戸邸の次席家老の子で、その名は国許くにもとでもかなりまえから知られていた。俊才で美男で、学問も群を抜いているし、柳生やぎゅう道場では三傑の一という、あつらえたような評判であった。こんど来た目的がなんであるかは公表されなかった。じつは勘定吟味役だという説もあり、嫁えらびだといううわさもあった。勘定吟味役だというのは限られた一部の説であったが、たしかな筋から出た情報のように云われた。そのためであろう、保馬が亀岡の宿所にはいると、旅装を解くよりも早く、いろいろな客が挨拶に来た。多くは藩の用達をはじめ商人たちであったが、各役所からの使者も少なくなかった。――勘定吟味役は(いうまでもないだろうが)現今の会計監査官に当り、それよりもさらに広範囲の権限をもっていた。またそのときは藩の財政が極度にゆき詰って、政策の大きな転換が予想されていたから、挨拶に来る人たちの「挨拶」の内容も単純ではなく、それぞれがなんらかの意味を含むものであった。保馬はかれらには会わなかった。保馬の供をして来た仲田千之助と堀勘兵衛とが応待に出た。そのうちに外島又兵衛という客が来ると、保馬はちょっと考えてから、客間へとおすように命じた。又兵衛は四年まえまで江戸邸にいた、中老佐藤市兵衛の三男であったが、こちらの年寄役、外島伊左衛門と婿養子の縁組ができて、以来ずっとこの宮津にいるのであった。――年は保馬と同じ二十六歳になる。からだは小柄で、色が浅黒く、頬骨がとがっていた。話しぶりも表情も才ばしって、なめらかで、少しも隙がないという感じだった。
 保馬が入ってゆくと、又兵衛はにこにことあいそよく笑い、軽く目礼をして、ひどく親しそうに話しかけた。
「どうもしばらく、道中御無事でおめでとう」
 保馬はうなずいて坐った。又兵衛のれ狎れしさを承認するようでもなく、また拒むふうでもなかった。
「その後どうですか」保馬は巧みな無関心さで云った、「もう子供さんがあるのでしょう」
「それがまだ独身でしてね」又兵衛はすぐに答えた、「外島の娘が死んだんですよ、私が来て半年ばかり経ってからですが、それでいちどは江戸へ帰ろうと思ったんですがね、外島がどうしても放さないし、なにしろこっちは暢気のんきなもんだから、それに、……じつを云うと見当をつけた娘もいたりするんでね」
 保馬はほうと云ったきりで、自分の右の手をうち返し眺めた。彼は評判ほどではないが、色の白い、ととのった、品のいい顔だちで、眉と眼のあいだがかなりひろくあいていた。眉ははっきりと濃く尻上りであったが、眼はやさしく尻下りであった。ときどき唇をむすんで上へゆがめる癖があり、そうすると調和がこわれて、親しみのある顔になるが、すましているときは、あまりととのい過ぎていて、ちょっと近よりにくい感じを与えた。いま又兵衛には保馬の態度がよくわからなかった。うちとけていいようでもあるし、そうしては悪いようでもあった。そして、そんなばあいには、早く引上げるほうがいい、ということを又兵衛は知っていた。
「ちょっとお耳にいれたいことがあったんですよ」と又兵衛は調子を変えた、「お耳にいれておくほうがいいと思うんですが、貴方あなたが来られるというので、いろいろな噂が出ているのを御存じですか、例えば貴方が勘定吟味役として来たのだというような……」
 保馬はにが笑いをしただけで、肯定もせず否定もしなかった。
「むろん私には関係のないことですが」と又兵衛は続けた、「その噂がいちばん信じられていて、事実とすれば当然ですが、ひじょうな反響をよび起しています、かれらは貴方が来たばあいに備えて、それぞれもう手段をめぐらしているくらいですよ」
「そうのようですね」保馬は云った、「もうだいぶ進物を貰いましたよ」
 又兵衛は一種のすばやい眼つきで、保馬を見た。しかし、保馬の表情からは、なんの意味をもさぐり出すことはできなかった。
「どうか注意して下さい」又兵衛は少し声を低めて云った、「どこにどんなわながあるかしれませんからね、よかったら私がお役に立ちますよ、狭い土地だし四年もいるので、たいていな事情には通じているつもりです、ことに商人関係のことならですね、……どうか不審なことがあったら遠慮なく呼びつけて下さい、なにをいてもとんで来ますよ」
「そんなことにならないように望みますね」保馬はあいまいに答えた、「もしそんなことがあったら、意見を聞かせてもらいますよ」
 又兵衛はまもなく帰っていった。その夜、仲田と堀とは、おびただしい進物の記録を作った。贈り主と品物の名数、中に金の入れてあるものはその金額など。ひどく念いりな記録であった。それが終ってから、はじめてみんな寝所にはいった。
 明くる日、保馬は登城して、重臣の部屋へ挨拶にまわった。
 もちろん形式だけであるが、城代家老の部屋には原田監物という筆頭年寄がいて、半ときばかりも保馬をひきとめた。城代の河瀬主殿は五十二歳、監物も同じくらいの年配で、どちらも北陸人らしくおちついた温厚な人柄であった。二人は保馬からなにか聞き出すつもりのようで、(特に監物が)話の合間にそれとなくかまをかけるようなことを云った。
「べつにさしたることもありません」保馬は軽く答えた、「早く云えば、まあ見合に来たようなものです、むろん御存じでしょうが」
「いやそれはまだ」と主殿が少し慌てて云った、「まだはっきりきまったわけではないので、まだ誰にもその話はしていないのだ」
 主殿はかなりばつが悪そうであった。そうして、監物に向って釈明するように、まだ確定はしていないが娘の花世と保馬とのあいだに縁談が進んでいる、ということを語った。
「すると御息女は……」監物はちょっといぶかしそうに口ごもったが、すぐにそれを打消して祝いを述べた、「いや、それはそれは、少しも知りませんでしたが、それはまことにめでたいことで、ぜひ一日も早くそうありたいものでございますな」
「ともかくもう暫くのあいだ御内聞に」
 主殿は煮えきらない口ぶりでそう云った。
 保馬は主殿から晩餐ばんさんの招待をうけて下城した。


 河瀬の招待に続いて、重職の人々が次々に保馬を招いた。おそらく監物からもれたのであろう、みんな縁談のことを知っているようで、口には出さないがそれとなく祝いの言葉を述べた。
「いや遊びに来たんですよ」保馬はどこでもそう云うのであった、「こんなことを云うと怒られるでしょうね、江戸ではちょっと羽根を伸ばしてもすぐ眼につくもんですから、……どうか面白いところがあったら案内して下さい」
 しかし人々は信じなかった。人々の頭には「勘定吟味役」という言葉がひっかかっていた。
 ――縁談というのは少しおかしい。
 重職の人たちはそう話しあった。
 ――なるべく当らず触らずがいい。そしてじっさい、かれらは不即不離の態度をとった。江戸の家老の子であり、美貌の俊才であり、また城代家老の女婿になるかもしれない。そのうえ秘密の使命を帯びているという評もあるのだから、保馬の立場はまったく自由であり、殆んど不拘束といってよかった。
 保馬はそれを慥かめた。そうして、ひとわたり招待が済むと遊びに出はじめた。
 初めて天の橋立へいったときのことであるが、切戸文珠の内海がわにある「掬水亭」という料亭で休んだ。もう梅雨はきれいにあがって、風のない暑い日が続いていた。堀には命じた用があり、仲田千之助だけれていたが、少し酒を飲んだあとで妙なまちがいが起った。――与佐の内海のみぎわに建っているその料亭には、水の上へ張出した床があった。屋根を掛け、手摺てすりをまわして、一部には(舟に乗るためだろうか)梯子はしごが付いていた。保馬はそこへ出ていった。彼は酒に弱いたちで、さかずきに五つばかり飲むと酔ってしまう、ちょうど千之助が給仕の仲居と話し始めたので、一人で風をいれに出たのであった。
 日が落ちたばかりで、油を流したようにいでいる内海の上は、いちめんに鬱陶しく靄立もやだっていた。帰ってゆく漁舟いさりぶねの影もかすんでいたし、帯のように延びている天の橋立も、薄墨でぼかしたほどにしか見えなかった。保馬は床の端のところにかがんでぼんやりと下の水を眺めていた。水は浅く、底の砂地が見え、なにかの稚魚らしい小さな透明な魚の群が、水面すれすれに泳ぎまわっていた。
 そのとき彼のうしろへ、娘が一人そっと忍び寄った。十七か八であろう、おもながのすっきりした顔だちで、背丈が高く、胸も腰もまだ少年のように細かった。少し酔っているらしい、うるみを帯びた眼のまわりや頬のあたりが赤く、忍び寄って来る動作にも、浮き浮きした悪戯いたずらっぽいようすがみえた。保馬は片手に扇子を持って、跼んだまま水を眺めていた、娘の来たことにはまったく気がつかなかった。娘は笑いたいのをけんめいにこらえながら、そっと保馬のそばへ近寄るなり、「わっ」と叫んで背中を叩いた。おどかすつもりだったのだろうが、足もとが慥かでなかった、背中を叩いた手に力がはいり過ぎて、あっと云ったが、まにあわなかった。前のめりになる保馬を止めようとして、絡みあったまま、水の中へと転げ落ちてしまった。
 保馬はすぐ起きあがった。水は腰までしかなかったが、さかさまに落込んだので頭からずぶ濡れになった。驚くよりもわけがわからず、どなりつけようとする眼の前へ、これも水浸しになった娘が起きあがった。そうして、顔へ垂れてくる水を両手で拭きながら、さも可笑おかしそうに声をあげて笑いだした。
「やりそこなっちゃったわ」と笑いながら云った、「もう少しで心中するところだったわねえ」
 しかし娘は眼をまるくした。相手をまちがえたらしい、あらと云って口をあけた。保馬は黙っていた。娘はおろおろし、べそをかいて、濡れている保馬のほうへ手を伸ばし、帷子かたびらたもとのところをでた。
「済みません、堪忍して下さい、人違いなんです。こんなに濡らしてしまって、ほんとに済みません、あたししみ抜き代を出しますから」
 保馬は黙って梯子のあるほうへ歩きだした。娘は慌てて呼びとめた。彼の半開きにした扇子が、そこに浮いていたのである。
「あのう、これをお忘れになりました」
 そして扇子をひろげてみせたが、ひろげるにしたがって紙と骨とがばらばらにがれてしまった。娘はすっかりまごついて、そのばらばらになったのをさし出しながら、おじぎをした。
「こんなになっちゃいましたわ」
 保馬はちょっと見たばかりで、手を出そうともせずに床へあがった。――話しこんでいた千之助と仲居(おたけという名であったが)とは、保馬の姿を見て吃驚びっくりした。保馬はただ水へ落ちたとだけ云った。おたけはすぐに風呂の支度をしに立った。
「八幡屋の連中だそうです」
 おたけが去ると千之助がそう云って、別棟になっている座敷のほうへ眼をやった。そちらでは二人があがるまえから騒いでいる客があった。三味線や太鼓をいれて、相当はでに騒いでいたのである。
「外島さんが客だそうです」
 千之助はそう付け加えた。濡れた帷子を脱ぎ、躯を拭いていた保馬は、千之助の言葉を聞いていたのかどうか、ふとのどでくすくす笑いだした。千之助は不審そうに保馬を見た。
「いやなんでもない」保馬は首を振った、「あんまりばかなことを云うものだから、いや、いいんだ、べつの話なんだ」
 千之助は戸惑ったように保馬を見ていた。
 保馬は殆んど毎日のように出て歩いた。たいてい堀か仲田を伴れて出たが、一人のこともあった。二人にはすべき仕事があるので、だんだん一人で出るほうが多くなり、そのうち商人たちとの交渉が始まった。――初めに知りあったのは能登屋伊平という者で、湖月という料亭で偶然いっしょになり、それから伊平の紹介で角屋仁右衛門、作間忠太夫、渡島屋六兵衛などを知った。かれらは四人共同で、また一人ずつべつに、保馬を招いて酒宴をひらいたり、舟遊びをしたりした。それが暫く続くと、こんどは藩の用達をする商人たちが近づいてきた。
 これよりまえ、外島又兵衛がしきりに保馬を訪ねて来た。ときには日に二度もやって来たが、保馬はずっと会わなかった。家にいるときでも居留守をつかった。すると或日、又兵衛のほうではかったらしいが、湖月で角屋仁右衛門と飲んでいるとき、廊下で彼と出会い、強引に彼の席のほうへと誘ってゆかれた。そこには八幡屋万助と青木重右衛門がいて、日のれるまで付きっきりで接待した。又兵衛は明らかに仲介役らしく、しきりに座を取持っていたが、暗くなってくると、独りで承知して駕籠かごを命じ、橋立楼というのへ席を移した。おそらく知らせておいたのだろう、そこには米穀商の島屋真兵衛が待っていて、これも一座になり、夜の十時ころまでにぎやかに騒いだ。


 八幡屋は海産物、青木は廻船かいせんと問屋を兼ね、島屋とともに藩の御用商人であり、各自の業で独占株を許されていた。したがって、その利権と富の点で他を抑え、料亭なども掬水亭は島屋、望湖庵は青木、橋立楼は八幡屋と、それぞれが経営するものであった。
 能登屋、角屋らの四人は、かれらに対抗する新しい勢力であり、かれらの独占株を開放させるため、ひそかに江戸の重臣へはたらきかけていた。このことは三人の御用商人にもだいたいわかっていた。独占株を許されたかれらは、しぜん藩との財政的つながりが深く、藩に対する貸金は巨額なものになり、殆んど限度に達するほどであった。これはかれらの位置を安全にするようでもあるが、同時に極めて危険な状態でもあった。むずかしいことを云うまでもない、江戸幕府でも数回にわたって、「借上げ」という手を打った。在来の借財を棚上げにすることで、そのために倒産する者さえ少なくなかった。――宮津のように地方の藩では、重臣と商人とのあいだに個人的な情誼じょうぎもあるから、幕府でするほど非情にはできないであろう、しかしそれも程度によるので、ぬきさしならぬ場合となれば問題はべつであった。
 保馬はこういうときに来たのである。対立する両者がなにを考えたか云うまでもあるまい、両者はそれぞれの立場から、保馬を籠絡ろうらくし、宮津へ来た理由を知ろうとした。保馬のほうはいっさい無抵抗であった。相手が誰であろうとも、招かれればゆくし、どんなにはでな遊びでも拒まなかった。いかにも大身の育ちらしく、おっとりと任せきって遊び、進物を出されれば黙って受取った。
 七月になった或日。島屋の手代に伴れられて望湖庵へいった。
「誰か一人きまった者のいたほうが宜しゅうございましょう」
 手代の弥吉はそう云って、六人ばかり若い女を呼んだ。粒選つぶよりの仲居たちで、たいていもう馴染なじみであったが、そのなかの一人が、保馬の顔を見てあっと声をあげ、袂でさっと顔をおおった。
「あらあら、ごらんなさいよ」とほかの女たちがみつけてはやしたてた、「珍しいことがあるじゃないの、おいしさんが顔を隠したわ」
「きっとなにかわけがあるんだわ」
「これはただでは済ませません」お春という女がせきばらいをして云った、「衆人の前でそういう振舞いをするからには」
「ええ、いいわ、いしおごるわ」
 顔を掩った女がそう叫び、袂を放して、女たちのほうへ向き直った。
「今日はいしが奢るから、みんな好きな註文ちゅうもんをして頂戴、今日は一世一代よ」
 女たちはきゃあと声をあげ、手を叩いた。保馬もわれ知らず苦笑した。はじめて気がついたのだが、それはいつか掬水亭で誤って彼を水へ突落したあの娘であった。
「この望湖庵の養女のいしという者ですが」と手代の弥吉が云った、「本信さま御存じなのでございますか」
 うんと保馬が頷くと、娘はこっちへ向いて、顔を赤くしながらおじぎをした。
「なまいきなことを云ってはいけない」保馬が云った、「客がいるのに奢るということがあるか、僭上せんじょうというものだぞ」
 いし吃驚びっくりしたような眼で保馬を見て、はいと云って、こくんと少年のように頷いた。
「済みません、取消します、堪忍して下さい」
 保馬はてれて赤くなった。そんなつまらないことを云った自分にてれたのである。彼は少なからずあがりぎみで、持っていた盃をいしにさした。その手つきがぎこちなかったし、受けるいしのほうもへどもどしていたので、またしても女たちがやかましく囃したてた。
とうさまに云いつけるわよ」
 などと云う者もあった。するといしは眼尻をさげ、唇をだらしなくあけてへへへと笑い、斜交はすかいに保馬を見た。
くちをしめろ、なんというだらしのない顔だ」保馬が云った、「まるでひもがほどけちゃってるじゃないか」
「ごめんなさい」といしが云った、「でもこれでいいって云う人もいるんですの」
 女たちが嬌声きょうせいをあげた。保馬はしげしげといしながめ、それからゆっくりと云った。
しみ抜き代はその人が出すのかい」
 いしははっとし、急に赤くなったと思うと、また袂で顔を掩った。女たちはますます騒ぎだし、お春がいしの肩を打った。
しみ抜き代ってなんですか、さあ勘弁しませんよ、人の眼のまえで二度も顔を隠したりして、しみ抜き代とはいったいなんのことですか」
「話してやろうか」
 保馬が云うといしはきゃっと叫び、顔から放した手を合せて、躯をよじった。
「ごめんなさい、このとおりです、どうかあのことだけはおっしゃらないで下さい、本当にあのことだけは」
 むきな表情であった。女たちのやかましい声のなかで、保馬は笑いながら黙った。
「本当にないしょにして下さいましね」いしささやくように云った、「一生の御恩にますわ」
 保馬は頷いた。
 誰か一人きまった者を、という弥吉のはなしはそのままになったが、それ以来、保馬の席には必ずいしが出るようになった。――望湖庵は青木重右衛門が経営しているので、養女といえば重右衛門の娘分であろう。料亭を切廻しているのはおかねという名の、肥えた五十歳ばかりの女であるが、いしは彼女からも他の仲居や雇人たちからも、いちように愛されていた。望湖庵の者だけでなく、知っている者はみんないしを愛しているようであった。――いしは明るくさっぱりした、そして思いりの深い性分だった。不自由のないせいもあろうが、仲居や雇人で困っている者などには、かげへまわってよく面倒をみた。それも年に似合わない巧者なやり方なので、世話をされた当人がそれと知らず、あとで気がつくといったようなことが多かった。
 むずかしい客、酒癖の悪い客などは、いしがさばくものにきまっていた。酒も飲ませればかなり飲むし、少し酔うと笑い上戸になって、
 ――ようし、いしが奢る。
 と云うのが口癖であった。保馬にも三度ばかり云ったが、そのたびに保馬は手厳しくはねつけた。
「あら、どうしてですか、あたし奢りたいんですもの奢らして下すってもいいでしょう」
 保馬は「あまくみるな」などと云ってとりあわなかった。
 七月から八月へかけて、殆んど三日に一度ぐらいずついしと会った。能登屋や角屋たちと飲むときは、湖月か田川屋という料亭であるが、酌に出る仲居たちから聞くのだろう、「あとで来てもらいたい」などという手紙を使いに持たせてよこした。
「よさないか、みっともない」保馬はいつもにがい顔をした、「わけもなにもないのに、人がなんだと思うじゃないか」
「あら、いしはちっとも構いませんわ」
「いい人に聞えてもか」
「もちろんですわ」云いながら赤くなる、「いしは信用があるんですもの」
 眼尻が下り、唇がゆるんで、ばかばかしいほどあまったるい顔になる。すると保馬は舌打ちをし、にがにがしげに云うのであった。
「なんというだらしのない顔だ、紐を緊めろ」
 保馬はいしにだけは荒い口のきき方をした。遠慮なく悪口を云い、ぴしぴしとやっつけた。いしに向うとしぜんにそうなるのであった。彼女に末の約束をした恋人があるということは、みんなが知っていた。いし自身でもときに失言することがあり、赤くなって顔の紐を解くのだが、それが少年のようにすなおな嬌羞きょうしゅうで、まわりの者の気持をなごやかに楽しませるのであった。
 八月中旬の或日、もう燈のつくじぶんであったが、保馬が酒につかれてふと庭へ出ると、いしが追って来てそっと囁いた。
「お願いですから掬水亭へ伴れていって下さいまし、ね」
 いしはいつもとは違う眼つきをしていた。保馬は頷いて、脇の木戸から、いしといっしょにぬけだした。
「駈落ちみたいですわね」
 いしは嬉しそうに囁いた。


 望湖庵は玄妙ヶ岡の中腹にあった。文珠へは裏道づたいにゆくことができる、北陸は秋が早いのだろうか、松や雑木林のある山道には、もうすすきが穂を出しはじめ、栗の木の下ではれた実のはぜて落ちる音がした。
「このまま、こうして」といしが低い声で云った、「どこまでも、どこまでもゆけたら、どんなにいいでしょう」
「逃げだしたくなったのか」
「ごいっしょにいたいんですの」
「人違いは一度でたくさんだ」
「またそんなふうに」そう云いかけていしは眼を伏せた、「でもそうですわね、いしには大事な人がいるし、本信さまは御城代のお嬢さまを迎えて、江戸へお帰りなさるのですものね」
 保馬は声をださずに笑った。
「城代の令嬢は嫁にゆけない躯なんだろう」
「あら」いしは眼をみはった、「そのことはご存じだったんですか」
 保馬は逆にき返した。
いしのいい人というのは誰なんだ」
 いしは口ごもった。
 保馬はすぐにうち消した。
「いや、いいよ、ちょっと口がすべったんだ」そして足を早めた、「早くゆこう、夜になってしまう」
 掬水亭へ着くと、いしは例のとおりはしゃぎだした。いつかの床の上へ席の支度をさせ、今日はこっそり逢曳あいびきに来たのだ、などと云って仲居たちを遠ざけ、二人だけでぜんに向った。
「あれからもう二た月になりますわね」
「心中のしそこないか」
「あのときはお客に伴れられて来て、いい気になって飲んだもんですからすっかり酔ってましたの、さもなければ間違える筈はなかったんですけれど」いしはこう云って、床の端のところをなつかしそうに見やった、「――そこの処でしたわねえ、貴方はこんなふうにしゃがんで、なにか考えごとをしていらっしゃいましたわ」
「水を眺めていたんだ、小さな魚がつながって泳いでいたよ」
「こんなふうにしゃがんでいらっしゃいましたわ」といしは続けた、「あたしまったく人違いをして、おどかしてあげるつもりで、そっとうしろから忍んでいったんですの、それが酔っているものだからつい」
 そう云いかけていしは自分でふきだした。
「つい力がはいり過ぎて、よろめいちゃって」
 そう云いながら身を跼めて笑いだした。そしてとつぜん保馬のひざ俯伏うつぶしたと思うと、笑いがそのまま泣き声に変り、背をふるわせて泣きはじめた。保馬は黙って、片方の手でその背中を撫でてやった。いしはなにかを訴えたいようであった。保馬にも云ってやりたいことがあった。しかしどちらも、口にだしてはなにも云わなかった。泣き声はしだいに鎮まったが、そうしていることがいかにも楽しいようすで、かすかにしゃくりあげながら、なおしばらくのあいだ、いしは膝にもたれたままでいた。
「これでがんがかないましたわ」
 やがて起き直ったいしは、袂で涙を拭きながら微笑した。
「いちど思いきり泣いてみたかったんです、なんにもわけはないんですけれど、……これでさっぱりしましたわ」それからいつもの明朗な表情で保馬を見た、「人間って悲しくなくっても、ときどき泣かないと躯に悪いんじゃないでしょうか」
 保馬は黙ったまま、いたわるように頷いた。
 その夜(だけではないが)宿所へ帰った保馬は、仲田や堀たちと夜半過ぎまで調べものをした。二人の分担していた仕事は、この六十余日のあいだにめざましく進んでいた。――それは八幡屋以下三人の御用商人の実態調査であって、その取引状態や、年間の利潤や、資産について、(これには能登屋ら四人の商人たちの助力があったが)詳細な事実があげられていた。むろん、保馬への進物や、接待の費用なども、そのつど入念に計算されているので、今その明細書を見ながら、保馬は頭を振って苦笑した。
「この分は返さなければならないんだからな、江戸でなくって幸いだよ、江戸だったら破産してしまうぜ」
此処ここでも財布が空になるそうじゃありませんか」堀勘兵衛がそう云ってから、ふと眼をあげて、「あのおいしという娘ですね、あれは注意なさらないといけませんよ」
「――なにかあるのか」
「外島又兵衛です」と勘兵衛が云った、「あれは青木重右衛門の養女ですが、もとは加賀藩の浪人の遺児だそうで、外島と結婚する約束ができている……どうかなさいましたか」
「いや、なんでもない、続けてくれ」
「縁組の裏には八幡屋、島屋、青木の三人連合の契約があるんですね、かれらは外島を勘定奉行か、できれば筆頭年寄に据えて、自分たちの位置を確保しようとしているんです」
「外島には無理だな」
「どうせ操り人形でしょう」
 表向きには不可能のようであるが、じっさいには有り得ることであった。かれらは財政の実権を握っているといってよかった。藩そのものが借財に苦しんでいたし、家臣たち(例外はべつとして)も、多かれ少なかれ借があった。独占株の開放とか、政策の転換などがもし実現すると認めたら、かれらはきっと対抗手段をとるであろう。そのために外島を必要な椅子に据えるくらいのことは、かれらにとってさして困難ではなかった。時代は金力が政治を動かす段階にはいっていたのである。
「あの娘は外島に云い含められて、貴方の役目の本当の目的をさぐろうとしているんです」
「まさかね」保馬は脇へ向いた、「だって、かれらにはもうわかっているんだろう」
「それがそうでないんですよ、貴方のために見当がつきかねているようです、進物も賄賂まいないも受取るし、宴会にもどんどん出るし、またあの娘とは浮名が立ちますしね」
「ばかなことを云っちゃいけない」
「むろん私たちは知ってますがね」堀が笑うと仲田も笑った。堀が続けて云った、「もし貴方が吟味役なら、これほど無抵抗ではないだろうと思うんですね、いや、そうなんですよ、現に八幡屋の手代がそう云っていたそうです」
「掬水亭のおたけさんかね」
「外島とおいしとのことも彼女が話してくれました、外島というのはいやな奴で、二人のあいだには約束があるだけなんですが、すっかりもう情人気取りで、小遣なんかせびるだけせびっているということです、夫婦めおとになったらさぞ泣かされるだろうと云っていましたよ」
「外島は八幡屋たちに貢がれてるんじゃないのか」
「足りないんですね、縞の財布が空になる土地ですから」堀は顔をしかめた、「来たときから女にだらしのないやつだったそうです」
 保馬は勘兵衛の顔を見た。
「おたけ女史は信用できるのか」
「私は浮名は立てませんがね」
「するとつまり、辣腕らつわんなんですな」保馬はそう云って調書を見まわした、「――だいぶ出揃でそろったが、そろそろ役所のほうと突合せにかかるかな」
「気づかれないうちのほうがいいですね」
「いやな役目だ」保馬は眉をひそめた、「誰かがしなければならない。藩ぜんたいの浮沈に関するので、やむを得ないことはわかるけれども、こんな仕事はじつにやりきれない、早く片づけて帰りたいものだ」
 堀や仲田はなにも云わなかった。
 その夜は保馬にとって寝苦しい夜であった。それに続く数日も、彼は引立たない気分ですごした。いしと外島又兵衛との関係は、思いがけなかった以上に、傷手であった。勘兵衛の忠告は事実と思わなければならない、外島はいしに保馬の任務をさぐれと命じたであろう、なぜなら、初めのうち外島はしつっこく保馬に近づこうとした。彼が御用商人たちと特別の関係をもっていることは宮津へ来るまえからわかっていた。
 ――こいつさぐりに来たな、と思っていたのであるが、保馬が遊びだすと、まもなく姿を見せなくなり、代っていしとの交渉が始まった。つまり彼女に肩代りをした、と考えることができるだろう。
 ――そうは思いたくない。
 保馬は否定したかった。しかしもう否定することはできなかった。そうして、自分がどんなにいしきつけられていたかということに気づいて、激しく顔をしかめるのであった。


 仕事が終るまでは、行動を変えるわけにはいかなかった。保馬はそれまでと同じように、料亭へでかけ、いしと会った。自分では平静なつもりでいるが、いしにはなにか変化がわかるとみえ、ときどきじっと保馬を見つめた。
「なにをそんなに見るんだ」
「この頃なんだか浮かないごようすですから」といしは云う、「いつものお癖がちっとも出ませんし、来てもすぐお帰りになりますわ」
「いつもの癖ってなんだ」
「こういうお顔をなさるわ」
 いしは唇をむすんで上へゆがめてみせた。保馬はちょっとどきっとした。自分ではその癖が出ないことには気がつかなかった。
「澄ましていらっしゃると怖いけれど」といしはあまえるように云った、「こういうお顔をなさると、それはやさしくみえて、わって云いたいくらい嬉しくなるんです」
いしのいい人もそうするのか」
「いやですわ、どうして話しをおそらしなさいますの」
「おまえが隠してばかりいるからさ」
 と保馬はいしの顔を見た。
いしは少しもいい人のことを話さないじゃないか」
「だってかかわりのないことなんですもの」
「関わりはあるさ」
 保馬の声にとげがあったのか、それとも自分の心にとがめたのか、いしははっとしたような眼で保馬を見た。それが保馬を逆に打った、いしに咎はない、いしは不当な役を負わされているだけだ。保馬はしいて笑ったが、歪んだ笑いだということが自分にもわかった。
「おれはいしが好きだ」と彼は云った、「いしが誰よりも仕合せであるようにと、いつも願っている、本当にそう願っているんだ、だからその人が、いしを仕合せにすることのできる人間かどうかを知りたいんだ」
 いしも微笑したが、それは保馬のそれよりちからがなかった。殆んどべそをかくのに似ていた。
「その人は好い人なんです」いしは弁護するように云った、「いろいろ失敗をしますし、世間でもいやな評判がありますけれど、根は気が弱くって、悪い事なんかできる人じゃないんです、それに、殿方は誰でも、若いうちはしようがないんじゃないでしょうか」
「どんなふうにだ」
「どんなふうにもですわ」いしは眼を伏せた、「あの人のように気が弱くって、つい失敗ばかりする人は、なおさら、……あたしあの人が可哀そうでしようがないんです、あたしが付いていてあげなかったらどうなるかと思うと、本当に可哀そうでしようがなくなるんですの」
 保馬は脇へ向いた。
「あたしが孤児みなしごだということを御存じでしょうか」といしは続けた、「あたしの父は加賀さまの浪人で、いしは五つの年に孤児になりましたの、十五のとき青木の養父ちちに引取られたのですけれど、それまでずいぶん辛いことがありました、……十三の年のことでしたわ、もうもう辛抱ができなくなって夜中に二階の窓から逃げだしたことがありました、二階の窓から帯をつないで下げて、霜でいっぱいな屋根を踏んで」
「もういい、たくさんだ」
 保馬は乱暴にさえぎった。いし吃驚びっくりしたように黙った、保馬はしばらくしんとしていたが、やがて低い声で云った。
いしが不仕合せだったことなど、おれは知りたくはない、いしはこれまでも仕合せだったし、これからも仕合せであってもらいたいんだ」
「ええ、もちろんです、いしはこのとおり仕合せですわ」
 そして、こんどは明るく笑うことに成功した。けれども保馬にはやっぱり哀れにしかみえなかった。それは珍しく二人だけのときで、望湖庵のその座敷から見える切戸のあたり、すっかり暗くなった海の上に、漁舟いさりぶねの火が一つゆっくりと動いていた。まもなく、島屋と八幡屋の手代が来、いつもの仲居たちがそろってから、いしは少し酔ったような調子で、
「本信さまの御縁談はどうなさいましたの」と云いだした、「もうおきまりになったんですか、それともまだ……」
「だめのようだな」保馬はそっけなく、答えた、「あんまりばか遊びばかりしているんであいそを尽かされたんだろう、いちど招かれたがお顔も見せてくれないし、その後は来いとも云われないよ」
「なにか、御病気らしゅうございますな」島屋の手代が云った、「脊髄癆せきずいろうとか聞きましたが、もう長くおやすみになっているのではございませんか」
 保馬は知らない顔をしていた。
「それではもう」といしが云った、「江戸へお帰りになりますのね」
「――どうして」
「だって、御縁談のほうがそんななら」
「それだけではない、かもしれないじゃないか」
 いしと二人の手代の顔に、(それぞれの)すばやい表情の動くのがみえた。保馬は乾いた声で笑った。
「たとえばおいしを口説きおとす、というような野心がさ」と彼は意地の悪い口ぶりで云った、「せっかく江戸から来たのに、手ぶらで帰るのはまのぬけたはなしだ、おいしはうんと云わないかね」
此処ここにも女がおりますのよ」並んでいる仲居たちがやかましく声をあげた、「なにもおいしさんに限らなくったって、たまにはわたしたちを口説いて下すっても罰は当りませんわ」
「罰が当らないだけか、つまらない」
「悪いお口になったこと」いつもいしのそばにいるお春が云った、「初めはあんなにお人柄だったのにすっかり悪くおなりなすったわ、ぶってあげようかしら」
「罰は当らない筈じゃないか」
 華やいだののしり声のなかで保馬はにがにがしく顔を歪めた。
 いしかれる気持は強くなるばかりであった。いしが外島に云い含められて彼に近づいている、という事実も頭から去らないが、いっしょに水へ落ちたときからの二人の心のあゆみよりには、そんなことのはいる隙のない、しぜんなものがあるように思えた。そのうえ、いしと外島との関係が、いしの重荷であり、いしを不幸にするだろうと思うと、保馬の愛着はいっそう深くなるのであった。
 ――このままでは危ないぞ、このままでは。彼はまじめにそう思い始めた。今のうちにどうかしないとばかげたことになりかねないぞ。
 仲田と堀とは仕事を進めていた。九月になると江戸から、城代家老に宛てて墨付の密書が届き、それによって、諸役所の帳簿が(極秘のうちに)検閲された。そうして、それまでに調べあげたものと突合せ、両者の記録の差違や、糊塗ことされた部分を挙げてゆくと、御用商人と重臣たちとのつながりが、意外なほど深く大きいのに驚かされた。
「これはひどいことになっているものですね」
「どこの藩でも同じらしいぞ」保馬は苦笑して云った、「幕府そのものが音をあげているんだから、もう侍の政治ではやってゆけなくなってるんだろうな」
「しかし、これを表面に出さずに済みますか」
「むずかしいところだね」
 保馬は太息をついた。これまで苦心してやってきたのは、財政の転換を穏やかにやるためであった。不正な事実があっても、それを摘発するよりは武器にして、できるだけ円満に事をおさめる。犠牲者は出さないように、というのが、藩主はじめ江戸重職の意向であった。
「――なんだ」
 仲田千之助の声でふと見ると、庭さきに下僕の一人が花を持って立っていた。
「唯今これを届けてまいりましたので」
 白いみごとな芙蓉ふようの花であった。千之助が立っていって受取った。
「すぐ帰りましたが、若いきれいな娘でございました」
「わかっている」千之助は戻って来て、保馬の机の上にそれを置いた、「――来いとのたよりでございますな」
 保馬は黙ってその花に見いった。


 それ以来、きちんと一日おきに、花が届いた。もちろんいしからであろう、大輪の菊のこともあるし、すすき女郎花おみなえしくずなど、野山の花のこともあった。手紙もことづけもなく、花だけを届けてよこすのだが、そのほうがいしの気持をよく伝えるようで、保馬の心に深くしみいった。
 保馬は半月ちかく出る暇がなかった、そのあいだに準備もほぼととのい、江戸から知らせのあるのを待つばかりになった。正式の勘定吟味役が江戸から来るのである、むろん初めからの予定であるが、それが宮津へ着くまえに、保馬が商人たちと会談することになっていた。つまり財政改革の下拵したごしらえで、必要なばあいには準備した調書をかれらに示し、拒否できないように抑えるという計画だった。
 ――そのために保馬の来た理由はぼかされてあった。河瀬主殿の娘が病臥びょうがちゅうで、結婚できないからだだということもわかっていたが、宮津へ着くまえに、(江戸の父から)求婚の手紙が届くようになっていた。勘定吟味役かもしれない、という評判も、じつはわざとひろめられたものだったのである。
 ――どうやら無事にこぎつけた。
 保馬も、堀や仲田も、肩の荷をおろしたような気持だった。
 ――これで会談をうまく切抜ければ。
 そう思ったのであるが、じっさいはそうではなかった。保馬が宿所にこもりだしてから、御用商人たちはぎつけたのであった。かれらも手をつかねていたわけではなく、こちらの動きには油断なく眼を光らせていた。こちらが肩の荷をおろしたと思ったとき、かれらは事のあらましをさぐり当て、その対抗策のため色を変えていたのであった。
 十月にはいって五日めの午後、いしから保馬へ手紙が来た。
 ――お返し申したい品があり、ぜひ話したいこともあるから。
 そういう文面で、すぐ来てもらいたい、という意味が哀訴のように繰り返してあった。
「私たちの顔を見ることはないですよ」堀がにやにや笑った、「花の礼もしなければならないんでしょう、どうぞいっておあげなさいまし」
「馬でも申付けましょうか」
 仲田もからかうように云った。
「それはいい、すぐ云いつけてくれ」保馬は手紙を巻きながら立った、「久しく籠居ろうきょしたから、馬でとばすのは思いつきだ、頼むよ」
「冗談から馬ですな、やれやれ」
 仲田は口をすぼめて苦笑した。よく晴れた午後で、海からしきりに風がふいていた。保馬はその風のなかを爽快そうかいにとばしていった。望湖庵へ登る山道では、落葉が雨のように舞っていた。いしは珍しく濃い化粧で、紫色の地にぼかしで千草を染めた縮緬ちりめんの小袖に、薄茶色のあやに菊の模様の帯をしめていた。濃い白粉おしろいのためか、顔がこわばっているようにみえるし、紅をさした唇はむしろ暗い感じであった。
「嫁にでもゆくようだな」保馬はまぶしそうに眼をそらした、「まるで人が違ったようにみえる」
「お気に召さないでしょうか」
 保馬は微笑しながら、「いいよ」というふうにうなずいた。いしは嬉しそうに肩をすくめた。
「今日はお願いがありますの、一生にいちどのお願い」廊下の途中で、いしは保馬をおがんで云った、「いちどだけでようございますからいしおごらせて頂戴」
「――どうするんだ」
「二人だけでゆっくりしたいんです、今日はでかけてみんな留守なんです、ねえ、お願いですからうんと仰しゃって」
 保馬は承知した。いしは保馬を自分の部屋へ案内した。それは母屋おもやと棟のべつになった、隠居所ふうの建物であった。海は見えないが、東と南があいていた。庭は松林で裏山へ続き、かけひで引いた山水が、縁先のつくばいにしずかな音を立てて落ちていた。――望湖庵の者はおかねの先達で、内海の対岸にある籠神社こもりじんじゃへ、一夜お籠りにでかけたのだという、いしのほかには下男の老人と、下働きのお梅が残っているだけであった。
 六じょうの部屋の、障子はあけたまま、支度のできた膳を前にして、二人は坐った。
「なんだか改ったようで、へんですわね」
「自分でこうしたんじゃないか」
「それはそうだけれど」いしは恥ずかしそうに銚子ちょうしを持った、「あんまりごらんにならないで」
 いしの云うとおり、なんとなく改った感じで、すぐには話がはずまなかった。会わなかったあいだの消息、花の礼など、ぎこちないやりとりが暫く続いた。
「返したい物があるってなんだ」
 銚子が代ったとき保馬がいた。
「もう少し酔ってから」といしは眼で笑った、「それでないと出せない物ですわ」
 保馬に酌をしながら、いしは自分でもしきりに飲んだ。なにかはずみをつけるように、要もないことを云ってはいさましく飲んだ。まもなく急に酔いだしたようすで、うるんできた眼をきらきらさせ、まともに保馬を見て口を切った。
「あたし今日はほんとのことを云いたいんですけれど、いいでしょうか」
「云わなければならないのか」
「それでないと苦しくって」さかずきを持ついしの手が震えた、「もう苦しくって、がまんができなくなったんです」
 保馬はいしに酌をしてやった。いしはそれをあおるように飲み、こんどは頭を力なく垂れた。
「でもあたし、云えないかしら」
「云わなくってもわかるよ」
「でもあたし云いたいんです」
 保馬は黙った。いしは盃を置いた、なかなか言葉が出ないとみえ、荒く息をつきながら、絡み合せた両手の指をみしぼった。
「初めはなんでもなかったんです」といしは低い声で云いだした、「ただ掬水亭のことがあるので、遠慮のない気持でいました、それがおめにかかるたびに、だんだん好きになってきて、そうなってはいけないのに、しまいには一日じゅう、貴方あなたのことばかり考えるようになってしまいました」
「そう聞いたって驚きゃしないよ」
「ええ、――」いしは頷いた、「それもわかっていましたわ、保馬さまもいしを好いていて下さる、そう思っても己惚うぬぼれではないだろうって……だからよけいに苦しかったんです、貴方も好いていて下さるし、いしは貴方を死ぬほども好きなのに、……ええそうです、いしは保馬さまが死ぬほど好きなんです、けれどもこの胸の、ここのところに」
 いしは自分の胸を押えた。
「もう一人さきにはいっていた人がありました、今でもその人は、ここにいるんです、その人はどいてくれないし、いしの胸はこんなに小さくって、こんなに……保馬さま」がまんがきれたようにいしは云った、「どうして貴方はもっと早く来て下さいませんでしたの」
 日が傾いて、いっとき庭がしらじらと明るくなった。土地が高いためだろう、風がかなり強く松の枝をふき鳴らしていた。
 ――いしは眼と頬の涙をぬぐい、銚子を代えるために立っていった。


 戻って来たいしは銚子を二つ持っていた。その一つを自分の脇に置き、もう一つの銚子で保馬に酌をすると、
「覚えていらっしゃるでしょう」
 と云って、たもとから扇子を出して彼に渡した。それは骨と紙ががれていて、ちょっとまよったが、もちろんすぐにわかった。
「こんな物を取って置いたのか」
「一生持っているつもりでした」
「――返すというのはこれだね」
「持っているとみれんが残りますから」
 保馬はじっといしの眼を見た。
「どうして今日返すんだ」
 いしは自分の脇に置いた銚子を取り、自分の盃にそれを注いで、保馬を見返しながら答えようとした。そのとき、お梅がいそぎ足にこっちへ来た。
「お客さまのお家来の方がおいでなさいました」お梅は立ったままで云った、「急な御用だと仰しゃってでございます」
「いないと云っておくれ」いしがそう遮った、「あたしといっしょに出ていらしったって」
 保馬は立った。いしは手を伸ばして、彼の袂をつかもうとした。
「保馬さま、お願いですから」
 彼はすばやく廊下へ出た。急用という言葉に不吉な予感を感じたのである。玄関には仲田と堀が待っていた。走って来たのだろう、まだあえいでいたし、二人とも汗だらけだった。保馬は予感の当ったことを知った。
「嗅ぎつけられました」と勘兵衛が云った、「能登屋が知らせてくれたんですが、かれらは宿所を襲う手筈だといいます」
「しまったな、そいつはしまった」
 保馬はおちつこうと努めた。
「だがたしかなんだろう」
「間違いないようですね、時刻までわかっているんですから」千之助が云った、「もちろんめあては調書だと思いまして、ともかく此処へ持って来ました」
 彼は抱えている大きな包を叩いた。
「押掛けて来るのはどういう連中だ」
「外島が指揮をするそうで、浪人やならず者が十五、六人ということです」
「外島が――」保馬はうなった、「それでは慥かだ、彼は足もとに火が付くんだから、しかしその時刻というのはいつなんだ」
「四時ということですから、もう押込んでいるかもしれません、残っている者には、来るのを見てから逃げるようにと云っておきました」
 そうすればそれだけ、追跡の時が延びるに違いない。保馬は頷きながら、すばやく考えをまとめた。かれらが次の手を打つまえに、こっちからかれらを押えなければならない。それも騒ぎを最少限にくいとめるには、できるだけ敏速にやらなければならなかった。保馬ははらをきめた。
「堀はこれから御城代の邸へいってくれ」
「どうします」
「河瀬殿にはお墨付がいっているからわかる筈だ、事情を話して人数を出してもらい、八幡屋、青木、島屋の三人を城中へ護送する。これは町奉行に預けるがいいだろう、それから人数の一部を辻々つじつじに配って警戒に当るよう」
「少しやり過ぎはしませんか」
「責任はおれが負うよ」保馬は云った、「おれの乗って来た馬があるからあれでゆくがいい、それだけの手配が済んだら戻って来てくれ。仲田は此処にいてもらう」
 堀はすぐとびだしていった。
 千之助をれて戻ると、いしはまだ独りで飲んでいた。そして、二人がはいってゆくと、盃を持ったままにっと微笑した。千之助に会釈したらしい、が、その微笑を見たとたんに保馬はどきっとした。
 ――外島……おいし
 二つの名がつながった。
「おいし」と保馬が云った、「おまえ知っていたんだな」
 いしの唇の間から歯が見えた。
「今日四時になにがあるかを知っていて、それでおれを呼びだしたんだな、そうなのか」
「――あの人は、あの……」
 いしの舌がもつれた。そして唇の端からよだれが垂れ、両方の眼の眸子ひとみがつりあがった。保馬は声をあげて、走り寄って、倒れかかるいしの躯を支えた。
「おいし、どうしたんだ」
 そのまに千之助が、いしの手から盃を取り、その匂いを嗅いだ。それから脇にある銚子の匂いも、――そして低く叫び声をあげた。
「いけません、毒酒のようです」
 保馬は色を変えた。いしかがんだ。
「このまま、お願いですから」
 舌がもつれるので殆んど言葉にならない、保馬はいしの躯を抱きあげ、「水を頼む」と云いながら縁側へ出た。千之助は走っていった。保馬はいし俯向うつむきにし、みぞおちへ自分の膝頭ひざがしらを当てておいて、背中を叩きながらどなった。
「吐くんだ、吐いてしまえ」
 いしは身もだえ、激しく頭を振った。保馬はいしの口の中へ指を入れた、くいしばった歯には非常な力がこもっていた。保馬はいしの髪をつかみ、首の折れるほど仰向かせた。するとあごがあいて、指が中へすべり込んだ。保馬は乱暴にその指を押入れ、力任せに舌を圧した。
「水です」千之助が戻って来た、「なにかくわえさせましたか」
 いしの躯が痙攣けいれんを起し、すぐに嘔吐おうとが始まった。形容しようのない不快な(それが毒物なのだろう)匂いがあたりにひろがり、いし悶絶もんぜつするかのようにうめいた。
「そうだ卵白を忘れていました」千之助が云った、「卵の白身を持って来ます、それから医者を呼びますか」
「あとにしよう、外島のことがある」
 千之助は走り去った。保馬はいしの頭を横にして、口移しに水を飲ませた。いしは飲んだ、あきらめたのか、それとも力が尽きたのか、保馬の飲ませるだけ飲んだ。
「さあ吐け」保馬はどなった、「すっかり吐きだしてしまうんだ、その胸の中にはいっているやつもいっしょに、残らず吐いてしまうんだ、残らずだぞ、わかるか、いし
 いしは頷いたようであった。そしてまた嘔吐した。保馬の眼から涙がこぼれた、彼はいしの背を叩きながら、のどの詰ったような声で云った。
「ばかなまねをして、なんというやつだ、死ぬと命がなくなるんだぞ、これで死ぬと命がないぞよって、芝居のせりふにもあるじゃないか、おまえ知らないのか、いし」彼は笑おうとした、しかしむろん笑えはしなかった、「そうだもっと吐け、もっと、その胸からなにもかも出してしまえ、そうすればさっぱりする、おれからも褒美をやるよ」
 千之助が戻って来た。大きな茶碗を二つ、そこへ置くとすぐ、彼はまた水を取りに引返した。保馬は続けて卵白を飲ませ、そして強引に吐かせた。
「――どうぞ、お口から……」
 いしつぶれたような声で云った。慥かにそう云ったように、保馬には聞えた。口移しにしてやると、いしの唇は保馬のにつよく吸いついた。――暗くなってきた庭の、松林の中で、なんの鳥か、けたたましく鳴きだした。


 堀勘兵衛は七時ごろに帰って来た。
 いしは眠っていた。小屏風びょうぶをまわした夜具の中で、仰向きに寝て、片手でしっかりと保馬の手を握っていた。行燈あんどんの光が届かないので、おどろくほど顔がやつれてみえる。熟睡しているらしいが、ふとすると眼をあけて、不安そうに保馬を見た。そして彼の手を握っている指も、ときをおいて強くひきつり、彼の指を緊めつけた。
 勘兵衛の役目はうまくいった。外島と十六人の暴徒は宿所を襲ったが、留守をしていた下僕たちは巧みに逃げた。又兵衛は失敗したことを知ると、宿所に火を放って焼き、そのままどこかへ逃亡した。暴徒のうち五人の者は捕えられたが、あとの十一人と又兵衛とは行方が知れなかった。――八幡屋万助、島屋真兵衛、青木重右衛門の三人は、それぞれ手代と共に城中へ移され、暴徒に加担したという疑いで、そのまま軟禁された。
 この報告を聞くあいだも、保馬はいしから離れることができなかった。彼がちょっとでも動くと、いしの手は激しい力で絡みつき、おびえたように眼をあけて、彼を見た。
「大丈夫だ、どこへもゆきゃあしないよ」
 保馬は顔を寄せておちつかせた。
「此処にいてやるから眠るんだ、もうなんにも心配することはないんだよ」
 勘兵衛はささやき声で報告し、終るとすぐに部屋から出ていった。その少しあとで、いしがかなりはっきりとうわ言を云った。
「――ええいいわ、いしが奢るわ」
 低いかすれ声であったが、言葉ははっきり聞きとれた。保馬はそっと微笑し、それに答えるように頷いた。――夜半ごろだったろう、いしはふっと眼をさまして、喉が渇いたから水が欲しいと云った。飲ませてやると、美味うまそうにたっぷり飲んだ。
「気分はどうだ、なんともないか」
「――ずっと、いて下すったのね」
「これだからね」保馬は握られている手を振ってみせた、「ずっと放さないんだぜ」
 いしは唇で笑った。保馬はそっといしの胸を指して云った。
「まだここになにか残っているかい」
 いしは保馬をいぶかしそうに見た。それからゆっくりと頭を振り、かすれた低い声で、保馬をじっと見つめながら云った。
「――みんな出ちゃいました」
「残ってるものはないんだね」
「――ええすっかり……からっぽです」
 保馬は頷いてみせた。するといしの手に力がはいって、彼の指を痛いほど緊めつけた。いしの眼から涙がこぼれ落ちた。
 ――外島が来るかもしれない。
 こう思ったので、堀と仲田に警戒を命じた。外島がどこへ逃げるにしても、いちどはいしのところへ来るに違いない。必ず来るだろうと思った。しかしその夜はなにごともなく、静かに明けていった。
 朝になってから、外島のことがわかった。彼は三人の浪人者といっしょに「えびす丸」という船を奪って逃げたのである。それは八幡屋の持ち船であったが、外島ら四人は刀を抜いて船頭をおどし、そのまま海へ逃げたそうである。舟子の一人が、途中からうまく海へとび込んでのがれ、泳ぎ帰ってそう話したということであった。
 ――それなら大丈夫だ、彼はもう決していしのところへ来ることはないだろう。
 保馬は安心して仕事を始めた。
 多忙な日が続いた。保馬は江戸へ督促の急使をやり、重職と会った。町奉行に捕えてある暴徒たちの訊問じんもんもし、三人の御用商人とたびたび話しあった。宿所を襲ったのは外島の独断だということがわかった。彼は商人たちと役所とのあいだで、収拾のつかないくらい不正を重ねていた。たとえ保馬の手から調書を奪うことができたとしても、それだけではもう、罪を免れるわけにはいかない状態であった。――御用商人たちとの会談はうまくいった。かれらと外島との関係はあまりに深かったので、暴挙のことがかなり負担になったらしい。同時に、財政改革ということが、いつかは避けられないという現実もわかっていた。かれらは商人であった、破滅より損失を選ぶくらいの賢さを、かれらがもっていない筈はなかった。
 ――外島のやった事が逆効果になった。
 これで無事におさまるだろう。保馬はそう確信することができた。慥かにそのとおりだった、江戸から勘定吟味役が来たのは、その月の下旬のことであるが、持って来た改革案はすらすらと通った。ほんの僅かな修正はあったけれども、原案の主要なものは故障なく受入れられた。
 保馬は首尾よく役目をはたしたのであった。
「さあ終った、今日はひとつ三人で飲もう」
 十一月はじめの或日、保馬はそう云って、堀と仲田を伴れて掬水亭へいった。自分の金で飲むのはいい心持であった。酔ってくると二人ともうたいだしたので、顔なじみの仲居をぜんぶ呼んだ。もちろん望湖庵からも来たし、いしもあらわれた。
「これは縞の財布ですな」勘兵衛がまっ赤になった顔で保馬を見た、「どうか空にならないように頼みますよ」
 旅費だけでも頼みますよ、などと千之助もつまらないことを云った。
 三味線がはいり太鼓がはいって、ばかばかしくにぎやかな騒ぎになった。すると、それまで遠慮していたらしいいしが、
「あたしおそばへ坐らして頂こう」
 と云って保馬のそばへ来て坐った。しかし誰も気がつかないようすだった。保馬はいしに眼くばせをして、そっとその座敷から逃げだした。
「あそこは寒すぎるだろうな」保馬がそう云った、「いしは風邪をひきゃあしないか」
「風邪なんかひきません、あたし大丈夫です」
「これをひっ掛けるといい」
 保馬は羽折を脱いでいしに着せた。二人は廊下から床へ出ていった。
 思ったほどではないが、寒さは強かった。空が曇っているので、海は暗く漁火いさりびも見えなかった。保馬の手はいしの肩を抱いた。いしの手は保馬の躯に巻かれていた。寒さがきびしいので、お互いの躰温がいっそう温たかく感じられるようであった。
「もう四五日すると江戸へ帰る」と保馬が云った、「はなしは聞いたろうね」
 いしはこくんと頷いた。躯がひどく震えだしたので、保馬はきつく抱き寄せた。
「でもあたし、わたくし、とても……」
「いやだというのかい」
「いいえ」強く首を横に振った、「とても本当とは思えないんです、今でも本当とは思えませんの、夢でもみているような気持ですわ」
「それでいいじゃないか、一生さめない夢にすることだってできる」
 いしは躯をすり寄せた。巻きつけた腕に力をこめ、保馬の胸へ顔を伏せた。
「あのお扇子を返して下さいましね」
「返すよ」
「本当に江戸へゆけますのね」
「もちろんだよ」
 いしはくくとむせびあげた。
「じゃああたし、ずいぶんもうかっちゃいますわね」と咽びあげながら云った、「――もうしみ抜き代を払わなくってもよくなるんですもの、ねえ、そうですわね」
 保馬は黙ったまま強く抱き緊めた。いしはすっかりもたれかかってあまやかに泣きはじめた。





底本:「山本周五郎全集第二十四巻 よじょう・わたくしです物語」新潮社
   1983(昭和58)年9月25日発行
初出:「サンデー毎日臨時増刊仲秋特別号」毎日新聞出版
   1952(昭和27)年10月19日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:北川松生
2021年10月27日作成
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