半之助祝言

山本周五郎





 折岩半之助が江戸から着任した。
 その日、立原平助が桃の咲きはじめたのを見た。次席家老の前田甚内の家の桃である。平助はそれについて次のような感想を述べた。
「南枝一輪、桃などもそう云っていいものかどうか、ともかく南面の枝に三つ四つ、ふっくらと咲いていたよ、こんなふうにさ」
 彼は両手でそんなふうな恰好をしてみせた。
「――私は思わずどきりとしたね」
 そこで葵太市がいた。
「桃が咲いてなぜどきりとするんだ」
「一種の前兆、といったものかどうか、なにかしら起る、これは単に桃が咲いたというだけのものじゃない、吉か凶かわからないけれどもとにかくなにか起る、こうしてはいられない、といった感じだねえ」
 葵太市はそうかねえと云った。ほかの者は聞いてもいなかった。
 着任した折岩半之助を見て、重役の人々はその若いのに驚いた。
 この異動には相当むずかしい重要な使命がある。経験に富み、老巧にして円滑、才気縦横、大胆不敵といった人材でなければならない。それには半之助はいかにも若すぎた、二十六だというが二十二三にしかみえない。背丈は五尺六七寸、まる顔でおちょぼ口で、ふくろうのような眼をしている。人品はなかなかである。しかしどう値ぶみをしても、世間知らずで気立てのよい坊ちゃん、ぐらいにしかふめなかった。
「どうですかなこれは、どんなものですかな」
「さよう、どんなものでしょうか」
 前田甚内はじめ重役たちは首をひねった。念のために「使命」の点をたしかめると、
「ええ知っています」
 彼はあっさりうなずいた。あんまりあっさりしているので、それ以上なにも訊く隙がなかった。もちろんそれで安心したわけではないが、藩主の任命でもあるし、とりあえず住居を与え、実情査察のため半月の休暇を出した。
 着任して五日めに、玄武社の幹部たちが、折岩半之助を招いて会食した。
 玄武社は青年たちの自主的結社であって、十七カ条にわたるいさましい盟約があり、裄丈ゆきたけを一般より三寸短く裁縫した衣類を着るのと、頬髯ほおひげをたくわえるのとで眼立つ存在だった。社中は三十七人、没頭弥九郎という剣術のうまい、頬髯の誰よりみごとな男がその指導者で、彼は「社長」と呼ばれた。
 会食の席には没頭社長のほかに五人出席した。久保大六、葵太市、野口、仲木。そして、桃の花になにかの前兆を感じた立原平助。つまり玄武社の幹部である。
 酒ぬきの、ごく質素な食膳しょくぜんを見たとき、折岩半之助はいやな顔をした。それはしつけの悪い喰べざかりの子供が、嫌いな物を出されたときの表情によく似ていた。没頭社長は予期していたとみえ、あだ黒いようなその飯に向ってはしを突込みながら、
「私どもは剛健の気を昂奮こうふんさせるために、日常こういう食事をしておるですが、江戸などではどんなあんばいですかな」
 こう云って、なるほど剛健の気に昂奮しているような眼をした。その飯は麦六、ひえ二、もろこし一、米一の割だそうである。
 半之助は社長の問いにも答えず、自分は満腹だからと云って箸も取らなかった。
 食事が終るとすぐ、その会食の目的である密談に移った。
「貴方の赴任された使命については、もう論議の余地はないであろうが」
 没頭社長がおもむろに云った。
「――私ども玄武社同人としても、無関心ではおられぬので、いちおう貴方の方針も聞き、私どもの意見も申し述べたいと思う」
「どうぞ云って下さい、聞きましょう」
 半之助は軽く頷いた。
 弥九郎はせきをし、幹部たちの顔をすばやく見まわし、それから、大いに意気ごんで言葉を続けた。
 彼は能弁ではあったが、要領をつかむ術に欠けていた。むやみに埴谷図書助の非を述べ、慷慨こうがいし、そして笙子しょうこという令嬢を警戒せよと云った。令嬢のことは前後五回も云った、そしてまた埴谷城代の非をならし、慷慨し、額の汗を拭いて反った。
 半之助はつまらなそうに聞いていたが、令嬢のことは特にうるさく感じたとみえ、ぶっきらぼうにこう反問した。
「そんなにむずかしいとすると、その娘は縹緻きりょうの悪い売れ残りか、出戻りとでもいうわけですか」
「とんでもない、冗談じゃない」立原平助が眼を丸くして叫んだ、「――そんなことを仮にも貴方、いや冗談じゃないですよ」
 葵太市が側から説明した。
 笙子嬢は埴谷城代の一人娘であり、類のまれな美貌と才気で、家中の青年たちぜんたいのあこがれの的である。但しひじょうに勝ち気が強く、少しでも機嫌に障ることがあると、それこそ眼球がとび出すようなめにあわされるので、さすが父親の図書助も彼女だけには頭があがらないというのであった。
「そこにはいささかの誇張もないのです」没頭社長が念を押した、「――貴方はやがて埴谷邸へ日勤するわけであるから、この点をくれぐれもお忘れにならぬよう、いいですか、どんなばあいにも決して令嬢の機嫌を損ぜぬように、さもないと……おわかりでしょうな」
 その日の会食はそれで終った。
「ばかな話があるものだ」
 外へ出た半之助は独り言を云って、さも気にいらぬというふうに首を振った。
 彼が江戸から来た役目は、城代家老を辞任させることにあった。
 埴谷図書助をその職から去らせ、政治に容喙ようかいしないようにさせる。これは十余年このかたの懸案であって、そのためには従来あらゆる手段を講じた。玄武社という自主的結社もそのために組織されたといってよかろう。
 しかしすべて徒労であった、城代家老はその座に泰然とすわって、今日に至るまで微動もしないのである。もちろんそれには理由があった。
 まず埴谷図書助は先代の藩主の弟である。十六歳で埴谷五郎左衛門の養子になり、二十三歳のときからずっと城代家老の席を占めて来たが、現藩主の志摩守正列には叔父に当るし、家臣ぜんたいとは主従関係ということになる。
 次に彼は人物として第一級であった、明晰めいせきな頭脳、胆力、識見、そして堂々たる風貌、すべてが群を抜いていた(筆者の所有する資料に白描の肖像が載っているが、それは英国の前首相ウインストン・チャーチル氏に瓜二つである)。もし彼が幕府の大老にでもなっていたら、古今の名宰相といわれる業績を挙げたに違いないと思う。
 要するに蓋藩がいはんの力を集結しても、とうてい敵し難い人物であった。それがたかだか四万三千石の城代家老。世は泰平。その程度の藩政ならばかでもこけでもやってゆける。
 ――なにもそれほどの人物の出る幕ではないじゃないか。
 こう思うかもしれない。しかし城代家老は少なく見積っても城代家老である、その席にいれば多少の慰安がないわけではない。すなわち埴谷城代の施政方針は、おおむねその方面から執行されて来た。
 その内もっとも藩の問題となり、領民からも不平を買った例を、参考のために書き抜いてみよう。
 一、竜神川の堤防工事。
 一、城下町筋の区劃くかく整理。
 一、外壕そとぼり埋立とその耕作制度。
 資料には他に十数件あるが、右の三例が彼の性格と好みをよく表わしているので、ここにはこれだけを紹介しておく。
「おわかりでしょうな、か、あきれた連中だ」
 半之助は歩きながらまた独り言を云った。むろん笙子嬢を恐れる玄武社幹部に対する感想であろう。続いて彼はふんと鼻で笑い、見そこなっちゃいけねえ、などとつぶやいた。
 風のない暖かな、いい午後だった。
 半之助は城の大手へ出て、埋立てた外壕沿いに、三の丸のほうへと、ぶらぶら歩いていった。すると一条町(ということはあとでわかったのだが)の角のところで、その町ぜんたいを占める広大な邸をみつけた。高い築地塀ついじべいを三方にまわして、森々たる樹立のあいだに、三層楼の附いた御殿造りの屋根が見える。
 半之助は立停って、ややしばらくその壮大な構えを眺めていた。
「殿さまの別殿かなにかだな」
 彼はそう呟いた。そしてまたぶらぶらと塀に沿って歩いていった。
 築地塀は三方だけで、南側は野茨のいばらを絡ませた四つ目垣になっていた。そこから南方は林や野や田畑がうちひらけて、遠く国境の山まで見わたすことができる。つまり展望のためにそこだけ四つ目垣にしたらしく思えた。
「すると邸の中も見えるだろう、田舎は暢気のんきなもんだな」
 半之助は垣根につかまって邸内を見ようとした。ところがつかまった垣根がかたりと向うへ倒れた。ちょっと驚いたが垣根が倒れたのではなく、実はそこは木戸であって、掛金が外れていたのであった。
 彼はあたりを見まわしてから、そっと中へと入っていった。
 初めはひと眼だけ見るつもりだったが、ひろびろとした芝生や、丘や、森のような樹立や、大きな泉池せんちや茶屋など、さわやかに手入れのゆき届いた庭で、つい知らず奥へ奥へとかれていった。実に漫然と進んでいったのが、ふと気がつくと泉池の側に一人の老人がいて、なにかしきりに口小言を云いながら、鯉にえさをやっているのが見えた。
 老人は肥えた大きなからだであった、肩も厚いし胸も厚いし、腹もたっぷりふくれている。頭部も大きい、太い首の中へめり込みそうである、顔は四角い感じで、これも充分に肉が附いている。高い鼻、への字なりの唇、小さいが澄んでよく光る双眸そうぼう。すべてが堂々として威圧的で、しかも人間味ゆたかな感じであった。
 半之助は側へ寄っていった。


 老人は池畔の石の上にかがまって、まるっこいすべすべした手で、なにかの餌を摘んで水面へさし伸ばした。すると下に群れている鯉どもは、水中からわれ先に立ちあがって、(正しくそう見える)なかにはからだの三分の二も水面へのびあがって、口をぱくぱくさせるのであった。
「きさまじゃない、黒だ、きさま今、……ちょっ、きさまじゃないと云うに」
 老人は舌打ちをする。
 赤いのや白いのや、赤白のまだらなどのなかに、一尾だけ黒いのがいる。見ているとそいつだけが水面へ出て来られない、老人の手の餌を狙ってとびあがろうとするのだが、ほかの鯉どもに押っぺされたり突きとばされたりして、たちまち下積みになってしまうのであった。
「そいつは臆病ですね、その黒いのは」
 半之助はじれったくなってそう云った。
「臆病でもないんだが」
 老人が答えた。
「ぶきようで、腰が弱いんだな、もうひと息というところがうまくいかん、そら来い、黒」
「なるほど、うまくないですな」
 半之助はこう云ってふと笑った。
「しかし人間にもこんなのがいますね、へまでぶきっちょで、なにをさせても失敗ばかりする、そして蔭でぶつぶつ泣き言を並べる、といったようなのが」
「うんいるな」老人もつい頷いた。
「前田甚内などもその組だろう、あれはいつも落し物をしたような顔をしておる」
「前田って家老の前田さんですか」
「似ておるだろう」老人はこう云って半之助のほうへ振向いた。
「おまけに彼は胆石もちときている、自分では消化不良だなぞと云っておるが、……おまえ見たことのない顔だな」
「そうでしょう、まだ来たばかりですから」
「ではよく見てみろ、わしは保証するが甚内は胆石もちだ、あの顔色は……お?」
 老人はとつぜん眼を光らせ、半之助の頭から足のほうまでいぶかしげに見おろし、それからへの字なりの唇をひきむすんで、石の上に立ちあがった。
「おい、おまえはいったいなに者だ」
 半之助はぎょっとし、初めて自分の立場に気づいて、あいそ笑いをしながら手を振った。
「いやべつに、なんでもないです、どうぞ気にしないで下さい、ほんのちょっとした者なんですから」
「ちょっとした者とはなんだ、いったいどこから来たんだ」
「あちらです、あちらの」半之助はうしろさがりにそろそろと退却しながら、「――あの折戸があいていたものですから、お庭もきれいでしたし、鯉もいるし、貴方は失礼ですが、その、鯉の方面では専門家でいらっしゃるらしいですな」
 だいたい距離はいいらしい、半之助はもういちどあいそ笑いをし、向き直って、木戸のほうへ悠然とたち去った。
「おうへいな口をきく爺いだ」
 外へ出ると、彼はこう呟いた。
「猛犬みたような顔をして、こんなふうな眼つきで、おまえはなに者だなんて、……たぶん庭番の元締めかなにかだろうが、ふざけた爺いだ」

 中一日おいて、玄武社の連中が誘いにやって来た。それは埴谷城代のむちゃな治績を、実地に当って説明するのだそうで、まず初めに竜神川の堤防へれてゆかれた。
 そこは城下町の東北一里ばかりの処にあり、きわめて諧謔かいぎゃく的な、自然を揶揄やゆするかのような景観を呈していた。
「竜神川などといえば誰しも奔流渦巻く大河を想像するでしょう」没頭弥九郎が堤防の上に立って云った。
「――ところがよく見て下さい、事実はこれです、これが竜神川そのものです、見えますか」
 彼が手で示すところ、すなわち大堤防の内側は、いちめん枯れたあしや雑草の茂みで、小松や灌木かんぼくがよく繁殖し、川というよりまったく原野としか見えなかった。それでも仔細しさいに見ると原野ではない、幅三尺ばかりの水が、その間を曲りくねって、見え隠れにちょろちょろ流れていた。
「見えます」半之助は頷いた。
「――たしかに見えました」
「これは昔は単にせきといわれていたのです」
 久保大六がしゃがれ声で云った。ひどいしゃがれ声で、こっちののどがむずがゆくなるようだったが、……堰とは要するに田圃たんぼへ水を引く用水堀のことで断じて「川」ではなかった。それを埴谷城代がいつか魚釣りに来て、(今でもよく来るそうであるが)これは大洪水の危険があると主張し、すぐさま自分で堤防の設計をし、さっさと工事にとりかかった。……延長七里二十町、総体石で築きあげ、底面の幅五間、高さ三間という、実に壮大無比の大堤防である。これに投入した金員や労力はともかく、工事のために五軒の農家がつぶれ、首をった者、娘を売った者、親子離散などいろいろな悲劇が起った。
「いいですか」大六はしゃがれ声を励まして云った、「――このちょろちょろ流れの用水堀のために、そんな犠牲を払ってですね、このべらぼうな堤防をこしらえたのですぞ、この大べらぼうな堤防をです、わかりますか」
 半之助はできる限り深刻な表情をして、笑いたいのを懸命にごまかしながら、その人をばかにしたような景色を眺めやった。
「そうするとつまり、この堤防が出来てから竜神川という名が付いたわけですか」
「さよう、それも御城代の撰ですよ」
 半之助は溜息ためいきをついたが、城代のやり方を非難するというよりも、ひそかに羨望せんぼうするといった感じのものであった。
 かれらは城下へ戻った。
 こんどは町筋の区劃整理である。まず大手広場に立って見ると、幅十六間の大道路が、まっすぐに東北へ、城下町のまん中をつきぬけている。
 だいたいどこの藩でも、城下町の道というやつは狭くて、必ず突当っては曲り突当るものだ。それはいざ合戦というとき、攻込んで来る敵軍の数を制し、速度を妨害し、要所に伏勢を配するためだともいわれる。
 しかるに埴谷図書助は城の大手門からまっすぐに、大道路を城下外まで通じ、それを中心としてすべての道を碁盤目に直してしまった。
「どうですこのありさまは」
 葵太市が大道路を指さして云った。
「たとえば合戦という場合、敵の軍勢が押して来たとすれば城下外一里半の地点から城の大手門まで見通しじゃないですか、しかも道幅十六間、敵は兵馬一体の大突撃がやれますよ」
「城の守り、といったものか、機密といったものかどうか」立原平助が云った、「――これではまったく、われわれとして防戦の責任がもてないと思いますねえ」
「単にそれだけではない」弥九郎が頬髯をそよがせた、「――この道筋改修のために、古くから老舗しにせとして繁昌していた店が五軒も没落し、井戸へ身を投げて死ぬ者、自暴自棄、やけくそになって放蕩ほうとうふける者、夫婦離別、親子わかれ、実に悲惨な出来事が数えきれぬほどあった」
 半之助はかれらの説を神妙に聞いていた。ときに眉をしかめたり首をかしげたりしたが、自分からはついになにも云わなかった。しかし、そこを終って、外壕の埋立て耕地へいったときは、そう神妙にばかりしてはいられなかったのである。
 外壕は大手の西、二の曲輪の下から乾口へかけて、幅二十五間、長さ五町三十一間という面積を占めている。深さは路面から水底まで三丈二尺あったそうで、埋立てた今でも道からは六尺以上も低くなっていた。――埴谷城代は七年まえにこれを埋立て、夏は稲田、冬は畑として、おめみえ以上の青年たちに、一年交代で耕作させて来た。土のき返しから種蒔たねまき、苗代から施肥、収穫、脱穀、俵詰めまで、すべてかれらがやるのだそうである。
 玄武社の社中はみなめみえ以上であって、しぜんこの勤労奉仕の徴用はまぬがれないから、悲憤の情もまた強烈であった。
「こんな状態がもう四五年も続けば」と、仲木小助が、(彼はこれまでずっと沈黙していたが)まなじりをあげて叫んだ、
「――私は保証するが、われわれはみな本職の百姓になってしまうよ」
「四五年も待つことはないさ」久保大六も憤然と云った。
「――去年の米の出来には百姓どもが舌を巻いて感心したじゃないか」
 半之助は思わず誘われて、
「それでは浪人しても食う心配がなくていい」
 こう云って、つい笑ってしまった。かれらはぴたりと口をつぐみ、恐ろしいような眼をして、一斉に半之助をにらみつけた。
 半之助の役名は、「城代家老司書」という、従来にないもので、勤めは埴谷図書助に直属の秘書官、というぐあいのものだった。これは埴谷城代が近年いっそう我儘わがままになり、城へは殆ど上らず、老職事務も自邸で執るというふうなので、藩侯が特に命じて設けた役目であった。
 事前のうちあわせやなにかで、半之助はしばしば前田老職と会った。この次席家老はせてしなびたような躯に、しなびた猿のような顔をして、いつも精のない、悲観的な調子でものを云う癖があった。
 ――なるほど。と半之助はたびたび思ったものである。
 いつかの庭番の元締みたような爺いが云ったが、まったく落し物をしたような顔だし、胆石もちかもしれない、うまいことを云う爺いだ。
 前田甚内はいろいろ注意をして呉れた。笙子嬢のことも云ったが、特に図書助は顔を見られるのを嫌うから、できる限り顔を見ないように、と念を押した。
「しかしそれはぐあいが悪いですね、いつも側にいて顔を見ないというのは」
「会えばもっともだと思うでしょう」
 甚内は低い声で云った。
「――若い者どもはおっとせいなどと、いや、会えばわかる筈です」


 初めの日は前田甚内に伴れられて埴谷邸へいった。驚いたことに、それは一条町の、彼が藩侯の別殿かと思ったあの壮大な邸宅であった。
 二人は控えの間で支度を直し、第一の取次ぎに案内されて第一の接待の間へ通され、そこで四半ときばかり待たされてから、第二の取次ぎによって、第二の接待の間へ通った。そこでも同じくらい待ち、第三の取次ぎが第三接待へ導いた。こうして第五の接待の間へ通されたとき、前田老職がようやく愁眉しゅうびをひらいたという顔で、
「やれやれ有難い、この接待まで辿たどり着けば、お眼にかかれる、今日はまことに幸運だ」
 こう云って汗を拭いたのには、半之助は少なからず驚かされた。聞いてみると、第四の接待の間まで来て、そこで「面会時間が切れた」といわれる例が多いのだそうである。次席家老である甚内でさえ、そんなふうに三時間も待たされたうえ、時間切れで会えずに帰ることがたびたびあるということであった。
「――たいへんな代物だな、それは」
 半之助は口の中でこう呟いた。甚内は吃驚びっくりして、彼の袖を引きながらしっと制止した。
 やがてようやく、二人は客間へ案内された。書院造りの十二畳の座敷に、床間を背にして城代は坐っていた。右側に蒔絵まきえの大きな文台があり、左に青銅の部屋あぶりを置いて、そして当人は厚い敷物の上に坐っていた。こちらにはむろん敷物などはない。
 ――まるで殿さま気取りじゃないか。
 こう思ってふと図書助を見たとたん、半之助はわれ知らずあっと声をあげた。その声で図書助はこっちを見たが、これまたううと妙な声をもらした。
 あの爺いである、あのおうへいな口をきく、庭番の元締みたような、鯉の専門家の爺いである。さすが半之助はぎくりとしたらしい、慌てておじぎをし、あいそ笑いをして、
「これはどうも、その節はどうも」と気分を柔らげるように云った、「――知らなかったものですから、まさか貴方が御城代だなんて、なにしろ偶然ですし、鯉が……ああ鯉で思いだしましたがあの黒はまだあれですか、やっぱりまだ、その……」
 半之助は黙った。
 図書助はにらみ殺すような眼つきでまばたきもせずにこっちを見ている。鯉なんぞくそくらえという顔だった。そして、半之助が黙ると、天床板がびりびりするような、ずばぬけて大きな咳をし、
「これが折岩と申すやつか」
 と前田甚内に向って叫んだ。半之助は思わず首を縮めておじぎをした。

 半之助は勤めだした。といっても格別なにも用はない、公務関係の仕事にはその係りの者が五人、べつに部屋を宛がわれていて、城中との連絡も必要な事務もすべて処理する。半之助はただ図書助の側にいればいい、勤務時間は午前九時から午後五時。休日は月二日という定めであった。
 就任の挨拶に出た翌日のことであるが、半之助はひるの弁当のあとで夫人の部屋を訪ねた。もちろん図書助の許しを得たのであるが、菊枝夫人はきれいに身じまいをし、点茶の用意をして待っていた。
「やあ困ったな、私は茶は知らないんですよ」
 彼は坐るなりそう云った。挨拶ぬきで、にこにこ笑いながら、片手でくびのうしろをぐいとで、ひと懐っこい眼で夫人を見た。
「三男坊のひやめしなもんですからね、こんな贅沢ぜいたくな芸当は習わして貰えなかったんです、済みませんが煎茶せんちゃにして下さいませんか」
「芸当とはおっしゃること」
 夫人は笑った。こんなあけっ放しな人間は初めてである、しかし悪い気持ではなかったらしい、やさしい眼で彼を睨みながら、
「なにもむずかしいことはないんですよ、楽に召上ればそれが作法なんです、わたくしだって真似ごとですから」
「そうですか、それなら無礼講ということで頂きますか」
「無礼講の点茶なんて」夫人はまた笑った、
「――貴方はいちいち変ったことを仰しゃるのね」
 菊枝夫人はかなり美しい。おそらく四十前後であろうがどうしても十は若くみえる。ふっくらとしたおもながの顔できぬのようになめらかな、しっとりと白いはだをしている、眉は薄墨で描いたような柔毛であるが、それが細いやさしそうな眼とよくうつって、温かい気品と、包むような情味を感じさせた。
 半之助はひどくぶきように、一椀の茶をすすり、菓子を摘みながら、夫人の姿をそれとなく、だが相当大胆にちらちらと眺めまわした。
「なにをそんなにごらんなさるの、わたくしの顔になにか付いていました?」
「いや、その、私は」半之助はちょっとどもったが、
「――実はいま御城代のことを考えていたんです」
「わたくしの顔と主人となにか」
「いいえこうなんです、うちあけて申しますけれども」彼は声を低くした。
「――御城代についてですね、私はこれまでずいぶんばかげた蔭口を聞きました、もちろんお顔のことなんですが、失礼にもおっとせいなどという、実にたわけた」
「似ていますわ」夫人は声を忍ばせて笑いながら、
「――絵で見るのとそっくりでしょう」
「貴女はふざけていらっしゃるんですか、それとも」半之助はきっとなって云った。
「――それともまじめにそんなことを仰しゃるんですか」
 急に半之助の態度が変ったので、夫人はちょっと吃驚して戸惑ったように彼を見た。
「私は反対です」彼はきっぱりと云った。
「――反対どころではない、私は御城代ほどの美男をこれまで見たことがありません」
「美男ですって?」
「それも天下第一級のです」
 菊枝夫人はたじろいで、それから少し気を悪くしたように云った。
「貴方こそからかっていらっしゃる」
「おわかりにならないんですね」半之助は怒ったように、
「――あの威厳と深みと、智、情、意のそなわったこのうえもない美しさ、あれこそ男として典型的な美男ですよ、私は二十六歳の今日まで江戸で育ち、ずいぶん大勢の人に会いました、評判の歌舞伎役者も見ていますが、御城代に比べればどれもこれも、……ああお願いです、どうかよく眼をあいてごらん下さい、世間のばか共はともかく、貴女までがそんなことを仰しゃらないで下さい」
「だって折岩さん」夫人は困惑の微笑をうかべながら、
「――いくらなんでも主人が美男だなんて、……それはあんまり」
 半之助は夫人の眼を射抜くように見た。そして少なからず嘲笑的な口ぶりで、
「すると奥さまも世間のばか共と同じなんですか、のっぺりした、女の出来そこないのような、くにゃくにゃしたやつを美男という、……いやらしい、よして下さい、失礼ですが私ははっきり云います、もし本当にそう思っていらっしゃるとしたら、貴女は盲人ですよ」
 そして彼は憤然として、あっけにとられている夫人をあとにその部屋を出ていった。
 盲人とは暴言である。出てゆく態度も無礼であった。菊枝夫人は感情を害したであろうか? 否そうではないらしい。
 夫婦の情というやつは微妙なもので、このばあい自分がけなされたことなど、彼女にとっては問題ではなかったようだ。
「奥が会いたいと云っておるぞ」
 翌日の朝、半之助が出勤するとすぐ図書助が渋い顔つきでそう云った。半之助はむっとふくれてそっぽを向き、さようですか、答えたまま動かなかった。
「どうした、ゆかんのか」
 図書助は暫くしてこう促した。
「ええまいりません、御免こうむります」
 彼はにべもなく答え、それから口の中で独り言のように、なんだ女なんぞ……と呟やいた。
 城代はどこかしらかゆいような表情で、横眼にちらちらと彼を見た。なにか云いたそうでしかし云いかねるらしい。やがて苛々いらいらしはじめ、ふいに立ちあがって、
「釣にまいる、六兵衛に支度を命じて呉れ」
 と叱りつけるように云った。
 六兵衛とは家扶かふ和田六兵衛のことで、支度というのを見ると釣竿らしい長い包のほかに、小さな葛籠つづらほどもある風呂敷包が二つもあった。半之助はこれを持たされるのかとうんざりしたようだが、それは下僕が二人で背負った。
 釣り場は例の竜神川であった。
 いつも来る処とみえて、川柳の茂った流れの岸に、白木で作った腰掛と台が出来ている。そこはむろん堤防の内側で、川床の中央に近い場所だった。半之助はくすぐったそうに、脇を向いてにやにやした。
 あれだけの大堤防を築造したのに、河原のまん中にこんな物を拵えて、これが流されもせずにいるのがなんとも皮肉にみえたらしい。だが彼はそんなことは云わず、黙って枯草の上に腰をおろした。
 図書助ははらを立てたように、ひるの弁当まで口をきかなかった。魚も本当に釣る気かどうか、下僕に餌を付けさせ、浮木うき下のあんばいもなにもなく、はりを放りこみ、思い出したようにあげてみて、餌を替えさせてまた放りこむ。あとはまわりを眺めまわし、もう一人の下僕に煙草をつけさせて喫ったり、また河原で湯を沸かさせて、茶を啜ったり菓子を喰べたりした。
 午の弁当のあとで、図書助はふきげんな眼で半之助を見ながら、
「男が容貌のことなど口にするものではないぞ」
 と云った。
 半之助は平気な顔で、いやにあっさりとやり返した。
「容貌のことであろうとなんであろうと、間違ったことを云う者があれば、それは間違いだと私は云います」そしてちょっとまをおいて、例のようにまた口の中で呟いた、
「――此処には盲人でばかな人間が実に多い」
 図書助は眉をしかめ、口をへの字なりにしたが、こんどはなにも云わなかった。


 だがそれから四五日すると、半之助は自分から夫人の部屋を訪ねた。まえぶれなしだったので、なにか書き物をしていた菊枝夫人は慌てて、小間使を呼んで自分用の客間へ案内させようとしたが、彼は構わず坐りこんで、
「おびにまいりました」と神妙におじぎをした、
「先日は無礼なふるまいを致しまして申しわけありません、お赦し下さい」
「来て下さればお詫びには及びませんわ」夫人はきげんよく微笑した。
「――あのときはわたくしも悪かったのですから、わたくし貴方が冗談を云ってらっしゃるとばかり思ったんですの、でもあとで考えてみると仰しゃることがよくわかりましたわ、それでいちどわたくしからお詫びを」
「ちょっと待って下さい」
 半之助はもじもじしながら、夫人の言葉をさえぎって、そして吃りながら云った。
「どうもそう仰しゃられると困るんです。実に困るんです、というのがですね、やっぱり私はお詫びをしなければならないんですから」
「あら、どうしてですの」
「それはですね、先日、御城代を美男だと申上げたときのことですが」彼はそこで臆病そうに鳩のような眼で夫人を見た。
「――あのまえは貴女のことを不躾けにみつめて、貴女からおとがめを受けました」
「ええそうでしたわ、それで?……」
「あれは、実は御城代のことを考えていたのではないのです、もちろん御城代が天下第一級の美男だということには変りはありませんが、あのとき考えていたのはべつのことなんです」
 夫人は疑がわしげに頷いた。
「正直に申上げますが」半之助はひと懐っこい表情で、じっと夫人を見まもりながら、しんみりした声で言葉を継いだ。
「――私は此処へ御挨拶に伺って、初めて貴女のお姿を見たとき、いきなりお手を握るか、おひざすがりつくかしたくなって、頭がぐらぐらするような気持でした」
 菊枝夫人の顔が赤くなり、すぐにさっと白くなった。ぶしつけにこんな告白を聞くのもまた初めてである。赤くなったのは羞恥しゅうちであり、白くなったのは怒りに違いない。だが半之助は眼をうるませながら、
「それは貴女が私のいちばん好きな、私を誰よりも愛して呉れた、かけ替えのないたった一人の人にそっくりだったからです」彼の声は濡れてゆくようだった。
「――私は三男の暴れん坊で手のつけられない悪童だと云われました、父や兄はもちろん母でさえ私にはやさしくして呉れませんでした、私はいつも叱られたり罰をくったり、折檻せっかんされてばかりいました、……そのなかで唯一人、その人だけは私をかばい、私の味方になり、私を慰さめ、愛して呉れました、私が罰をくうとき、折檻されるとき、その人だけは詫びて呉れたり、一緒に泣いて呉れたりしました、……この世で私のたった一人の人、忘れることのできない、懐かしい、たった一人の人、お許し下さい、貴女がその人に瓜二つといってもいいほど似ていらっしゃるんです」
 半之助は懐紙を出してそっと顔をおおった。夫人もたいそう感動したようすで、幾たびも頷きながら包むように彼を見た。
「そしてそれは、貴方にとってどういう方でしたの」
「姉でした」彼は低い声で答えた、
「――私の口から云うのはへんですけれど、非常に美しい人で、それはもう非常に美しくって、私は子供ごころにも姉の美しいのが自慢だったのです」
「その方はもうお嫁にいらしったのね」
「いいえ亡くなりました、十九の年に、嫁入りを前にして死んでしまったんです」
「まあお嫁入りまえに……」
 夫人は深い太息をして、きれいな指で眼がしらを押えた。するとそのとき、廊下に足音がして、お母さま、と呼ぶ声がした。夫人はちょっとまが悪そうに、居ずまいを直して、おはいりなさいと答えた。
 障子をあけて、際立って美しい令嬢が、尾羽根を拡げた孔雀くじゃくのように、気品高く、しずしずと入って来た。
 令嬢は背丈も、躯の恰好も申し分がない。眼鼻だちは母親に似てはるかに美しく、凄艶せいえんといいたいくらいである。まったく非の打ちどころのない美貌であるが、唯一つ、自分で自分を美しいと認めていることが、(誰にもすぐわかるように)欠点といえばいえた。
「ちょうど宜しかったわ、おひきあわせしましょう」笙子嬢が坐るのを待って、夫人がそう紹介した。
「――こちらは江戸からいらしった折岩半之助さま、それからこれはむすめの笙子でございます」
 半之助は相手を見てやあと云い、笙子嬢はつんとして、僅かに眼だけで会釈した。躯はもちろん頭も動かさない、半之助はさもいぶかしいという表情で、夫人のほうへ訊いた。
「するとこの方はお妹さんですか、それともお姉さまのほうですか」
「どうしてですの」夫人は吃驚して、「――うちにはむすめは一人きりですわ」
「はあそうですか、お一人、……本当ですか」
「まあいやだ、どうしてそんなことを仰しゃいますの」
「それがあれなんです」
 半之助は冷やかに笙子嬢を眺めた。
「その、江戸でもよく聞いたんですが、お宅にはその、絶世の美人というくらいきれいなお嬢さんがいらっしゃる、眼のさめるようなお嬢さんだなどというもんですから、……しかし世間の評判などは実にでたらめで」
 云いかけて、半之助は口をつぐんだ。
 令嬢が怒ったのである。すばらしく怒って、まなじりを吃とつりあげ、殆ど座をたてるようにして、この部屋から出ていった。半之助はとぼけた顔でわけがわからないというように夫人を見た。
「どうしたんでしょう、なにかお気に障ったんでしょうか」
「もちろんですよ」夫人は呆れてこの無作法者を睨んだ。
「――あれではまるで笙子が美しくないようじゃございませんか、貴方にはあのひとがきれいにはおみえにならないんですか」
「いや、心配なさらなくともいいですよ、絶世の美人なんてやはり頭が悪いにきまってますからね」彼は夫人を慰めるように、やさしく云った。
「――たいていばかなんですから、お嬢さんが美人でなくったってちっとも気になさることはないですよ」

 彼はついに敵を作った。
 この邸内でもっとも恐るべき一人、主人の図書助でさえ遠慮すると、玄武社はじめ次席家老にも警告された、恐るべき敵を。……だが当の半之助は平然たるものであった。
 口笛でも吹きかねない顔つきで、その後も笙子嬢と出会ったりすると、相手がつんとそっぽを向こうが、みつきそうな眼で睨みつけようが、いっさいお構いなしにあいそ笑いをし、
「やあ、いい日和ですなあ」
 などと声をかけるのであった。
 桜が散りの花が散り、五月雨もことなく過ぎた。このあいだに、玄武社から頻りに催促があった。いったいどんなぐあいであるか、そろそろ工作は進んでいるか、うまく運びそうかどうか。
 かれらとしては気がめてやりきれないらしかった。
「うまくいってます、大丈夫」半之助はいつも悠然と答えた。
「――近いうちにいい知らせが耳にはいるでしょう、もう暫くです」
「笙子嬢を怒らせたそうですねえ」
 立原平助がそう云ったことがあった。
「あれほど注意しておいたのに、実にまずいことをしたものですねえ」
「まあ見ていらっしゃい、あれも計略の一つですから」半之助は笑って答えた。
「――そのうちなるほどと思うときが来ますよ」
 そしてまた笑った。そろって頬髯を生やした壮漢たちが、一人の娘をまじめに恐れているらしいので、つい笑わずにはいられなかったのである。
 六月中旬の或る日。
 竜神川のいつもの場所で、図書助は釣糸を垂れていた。腰掛のうしろにすばらしく大きな唐傘が立ててあり、城代はその日蔭にはいるわけで[#「はいるわけで」は底本では「はいるわけて」]、現今のビーチ・パラソルと一緒である。半之助はその脇の、川柳の蔭のところで、草の上に腰をおろし、さもいい気持そうにお饒舌しゃべりをしていた。
「まったくですね、まったくいつもなにか落し物をしたような顔つきですよ」彼はくすくす笑う。
「――おまけに、私はよく知りませんが、胆石もちというのはあんなものかといった感じです、好人物なんでしょうが、どうも可笑おかしくっていけない、……あんな消化不良の胆石もちなどが、どうして次席家老を勤めているんですかね、もっともみんなばか揃いで、これはと思うような人間はいませんがね」
 図書助は苦い顔をして黙っている。半之助は愉快そうに続けた。
「まったく此処の連中ときたら、どいつもこいつも頭が悪くて近眼で、女のように気が小さくて、……早い話しがこの竜神川です、これがかれらには理解できない、元は堰と云ったものです、なんて、……ばかばかしい」
 彼は巧みに立原平助の口まねをした。
「――わが藩の城下の東北には竜神川が流れておる、こう云ってごらんなさい、実に堂々として、百万石の大藩のおもむきがあるじゃないですか、これをもし、東北には堰がある、などと云ったらどうでしょう、まるで申しわけでもしているようじゃありませんか、……かれらにはこのくらいの理窟もわからない、したがってこの堤防の意味なども、ぜんぜん理解ができないわけです」
「堤防についてなにか申しておるのか」
 図書助が初めて振返った。


「申すもなにもなってないです」
 半之助はちらと左のほうを見た。
 そちらでは二人の下僕が火をいて頻りに弁当の支度をしていた。こちらの話など聞えもしないといったふうに、……半之助はにっと唇で笑い、さらに元気な声で言葉を継いだ。
「やれ金が何十万何千両かかったとか、そのための重税や土地立退きで百姓が何軒かつぶれ、誰が首を吊ったとか誰が娘を売ったとか、やれ一家離散の悲劇があったとか、くだくだと泣き言ばかり並べるんです、しかもこの堤防の意義についてはなにも知らず、知ろうともしないんですからね、まあひとつごらんになって下さい」
 彼はこう云って片手をその大堤防のほうへ振ってみせた。
「あの壮厳な、不易の大磐石のような、古今無類の大堤防、あれなら天地のひっくり返るような大洪水でもびくともしやあしません、百年、千年、万代ののちまで微動もしないですよ、これでこそ政治というものです、これだけの川に対してこの大堤防、これが百年の政治というものです、……金が何千万かかろうとなんですか、金なぞはどしどし租税を取立てればよろしい、そのために百姓が首を吊ろうと、娘を売ろうと一家離散しようと、へ、……いったい百姓とはなんですか、百姓とはなんですか、百姓などというものはそこいらの雑草か虫けら」
「ばかも休み休み云え、黙れ」
 図書助が低い抑えたような声でさえぎった。
「農は国の基い、百姓は国の宝というくらいだ、この堤防工事については多少のむりがあり、わしも考える点がないわけではない。零落れいらくした農家などには、賠償という法もとるつもりである」
「これは驚きました、御城代はそんなことを気にしていらっしゃるんですか」
「わしのことを申すな、うるさい」
 図書助はどなって、なおなにか云おうとしたが、ふきげんに口をひきむすび、竿をあげて「餌を替えろ」と叫んだ。
 彼は一方で、菊枝夫人の部屋を毎日のように訪ずれた。茶菓子のもてなしを受けながら、例の調子でお饒舌りをし、頻りに夫人を笑わせる。夫人はまったく彼を甘やかしていた、彼の身の上話、特に亡くなった姉の話に心を動かされたようで、自分がその姉に代ってやる、といったふうな態度さえみせた。
 だが三度に一回ぐらいの割で邪魔がはいった。彼が頓狂な話をし、夫人が若やいだ声で笑っていると、障子の向うで「お母さま」と笙子嬢が呼ぶ、つまらない用事なのだが、部屋へは絶対に入って来ない。
「お母さま、なになにはどこにありますの」
 などと障子の向うから訊くのである。
 そうかと思うと廊下を通る、わざと足音を立てて通り過ぎたり咳をしたりする。明らかに示威運動であるが、半之助はぜんぜん黙殺の態度であった。
 雨の降る午後、半之助は図書助と碁を打っていた。
 広い芝生の庭も、林のような樹立も、築山も、しゃをとおして見るように緑ひと色に濡れていた。ときどき泉池で鯉のはねる音がし樹立のなかで蒼鷺あおさぎの鳴く声が聞える。それが静かな雨のしじまにいっそう森閑なおもむきを添えるように思えた。珍しく半之助は饒舌らない、どうやら苦戦のもようである。そこへ笙子嬢がはいって来た、しずしずとはいって来て縁側へぴたりと坐って、
「お父さま、拝見いたします」
 と審判官のような声で云った。
 半之助などには眼もくれない、おそろしくつんとして、しかも相当に挑戦的な姿勢で、そうして冷やかに、じっと盤面を睨んだ。……彼女は碁が上手だという、父親でさえしばしば負けこむそうである。彼女がいま観戦に現われたのは、父親から半之助の腕前を聞いて、愚弄するこんたんだということは明らかだ。
「お父さま、これは囲碁でございますか」
 はたして彼女は攻撃の矢を放った。
「それともなにかほかの競技でございますか」
「どうしてまたそんなことを訊く、囲碁に定っているではないか」
「まあこれがですか」嬢は軽侮に耐えないといったふうに笑った。
「――これが囲碁、……まあ珍しい、こんな妙な布石を拝見するのは初めてでございますわ」
「それはおれのせいじゃない」
 図書助はこう突っぱねた。令嬢はそれはもちろんというふうに微笑し、さらに次の攻撃に移ろうとした。そのとき半之助が沈黙をやぶって、はなはだ明朗に饒舌りだした。
「この碁盤を見ると思いだすんですが、城下町の道路改修をよく断行なすったですな、あれは実にすばらしい」令嬢の皮肉など痛くもかゆくもないという顔である。
「――ところが愚劣な人間がいるもので、あれは戦略上不都合だなどと云う、道路が曲折していてこそ、いざ合戦のときその角々で防戦ができるというんです、へ、……それは戦争をどう思ってるんでしょう、生死をした合戦に、敵の軍勢が曲りくねった道を曲りくねったなりに進んで来るでしょうか、そんなばあいに交通道徳を守る軍隊があるでしょうか、……知れたことです、風上から火をかけて焼き払いますよ、碁盤目も曲折もへちまもありゃしません、さっぱり焼き払って攻めますよ」
「たいへん失礼ですけれど、貴方のお手番ではないでしょうか」
「かれらはまたこんなことも云います」笙子嬢の注意などまったく無視して、彼は平気な顔で言葉を続けた。
「――道路を変更したために古くから繁昌していた老舗がこれこれ倒産し、これこれの人間が井戸へ身を投げ、自暴自棄になり、夫婦別れをし、身をもち崩して一家ちりぢり、実に無惨だの滑ったの転んだの、女の腐ったような愚痴泣き言を並べるんです、いったいかれらは政治をどう考えているんでしょうか、……こんな劃期的な都市改造、歴史的な大改修に当って、老舗の五十軒や百軒がなんですか、町人どもの百人や千人、倒産しようが井戸へ跳び込もうが、夫婦離別一家ちりぢり、当然すぎて可笑しいくらいのものです、鳥や魚や虫けらなんぞは毎日もっとたくさん踏み潰されたり叩っ切られたりしていますよ」
「無法なことを云う」図書助は唖然あぜんと眼をみはった、
「――大切な領民を魚や虫けらと同一に扱うやつがあるか」
「わかっていますわ、お父さま」
 笙子嬢が刺すように口を入れた。
「こちらは、笙子がお邪魔で碁をお打ちになりたくないんです、それでただ用もない話をなすっているだけなんですわ」
「おやおや、お嬢さんまだそこにいらしったんですか」
 半之助は初めて令嬢を見て、にこにこと笑って、そうしてごくやさしい声で、幼ない子供をだますような調子で云いなだめた。
「いまね、お父さまと大事なお話があるんですよ、貴女には興味のない御政治のことでしてね、お父さまもたぶん貴女にはお聞かせしたくないでしょう、ひとつあちらへいらしって下さい、貴女は聞きわけがおありですねえ」
「笙子、あっちへいっておいで」
 図書助がそう口を添えた。なぜなら、笙子嬢はさっとあおくなり、両手をきゅっとこぶしに握ったからである。……だがむろんはしたなく喚きだすことなどはできない、侮辱に対する怒りと口惜しさで涙がぽろぽろこぼれるのを、たもとで押えながら立って、そうして駆け足でこの部屋から出ていった。
「御城代のお言葉ですけれど、領民や家臣たちの大切なことと政治とはべつじゃないでしょうか」
 半之助はすぐさまこう続けた。
「例えば外壕埋立てと輪番制の耕作ですが、あれには閑地利用と遊休労力の活用という大きな意味があるでしょう、そこをもっと押し進めて全部の侍に耕作させ、百姓なんか領内から追っ払ってしまう、ということも考えられる、ところがかれらにはわからないんです、現在の輪番制でさえもかれらは怒っているんです、かんかんに怒っているんですから、貴方がごらんになったら腹を抱えてお笑いになりますよ」
「どうしてまたおれが笑うんだ」
「だってかれらの無知は底抜けで、三歳の童児も同じことですからね、そうじゃないですか御城代」
 半之助は一種のめくばせをした。
「政治は決して慈善じゃありません、百姓町人のためにあるのでもなければ、領民の幸福のためにあるのでもない、政治は政治、かれらはかれらです、一般人民というものは勤労して租税を納めればいい、政治は取るものであって断じて与えるものではない、そこがわからないんです、かれらには。つまり無学無知、まるで歴史を知らないということでしょう」
 城代がなにか云おうとした。だが半之助はぜんぜん無視して、にこにこと笑って、さも愉快で堪らないというふうに云った。
「歴史のどの一頁でもあけてみればわかる、腕力の強いやつ智恵のまわるやつが勝つ、勝ったやつが政権を握る、べえ独楽ごまに勝ったやつがべえ独楽をふんだくるようにです、そしてふんだくったべえ独楽が彼のものであって、泥溝へ捨てようとしまって置こうと叩っこわそうと彼の自由であるように、政治もまたそれを握った権力者の自由でしょう。
 ただ違うところはべえ独楽は物質だが人間は生きてますからね、べえ独楽は泥溝へぶち込もうと叩っ毀そうとなんにも云わないが、人間は首を吊ったり身投げをしたり、親子夫婦が別れたり泣いたり喚いたりします、それでいてやっぱり勤労するし、愚痴をこぼしながらいかなる重税でも納めます、それがかれらの運命なんですから、……なんのふしぎがありますか、政治は権力者の玩具であり、趣味、道楽、気なぐさめ、決して一般愚民どものためにあるものじゃありません。とんでもない、かれらは奉仕するものではないのです、それがいやならべえ独楽に勝って」
「そのべえ独楽をひっこめろ、そして黙れ」
 埴谷城代は片手で膝を打ち、口をへの字にし、恐しい眼で半之助を睨みつけた。
「これからすぐ前田へいって、明日登城するからと申してまいれ」


 城代家老、埴谷図書助は何年ぶりかで登城しはじめた。しかも精力的に事務を執りだしたので、全藩は失望と脅威に陥った。従来あらゆる手段を尽し、こんどは江戸からそのための特使さえ赴任して来たのに、結果はかえって逆になった。
 ――いったい折岩はなにをしたのか。
 老職の人々は非常に不満であったし、玄武社の壮士たちは激怒した。かれらは埴谷邸に情報網を張っており、彼の言動をつぶさに知っていたから、これは明らかに裏切りであると認められ、
 すべからく問罪すべし。
 ということになった。
 そんな物騒なことは知らない。或日、半之助は埴谷城代から先に帰れと云われ、一人でお城を下って来た。暑いさかりの午後二時、扇で陽をよけながら、彼はいとのびやかに歩いていた。彼はなぜ図書助が「先に帰れ」と云ったか知っていた。
 城代はこの半月あまりのあいだ、竜神川の堤防工事と、町筋改修の犠牲になった人々に対して、賠償と慰藉いしゃの方法を立案して来た。それはまじめなものであった。そうして今日はこれまでの締めくくり、最後の締め括りをつける筈なのである。
 半之助がのびやかに歩いているのは、そういうわけであったが、それは二条町の馬場のところまでしか続かなかった。馬場の脇まで来ると、その馬場のまわりを囲んでいる桜並木の蔭から、とつぜん十五人の青年たちがとびだして来て、彼の前後左右を取巻いた。……これは思いがけなかった、少なからず吃驚して、いったいどうしたことかと見まわす眼の前へ、かの没頭弥九郎と玄武社の幹部たちが進み出た。
「この裏切り者」
 と葵太市が喚いた。それに続けて「卑劣漢」とか「恥知らず」とか「ぺてん師」などという罵詈ばりが唾と一緒に飛んだ。半之助はあいそよくにこりと笑い、静かにかれらを見まわしながら、
「どうしたんです、なんですいったい」
「黙れしれ者」没頭社長がもう一歩前へ出た。
「――しらばっくれるな、われらはみんな知っているんだ、きさまは埴谷城代を隠退させるために来た、にもかかわらず、きさまは城代におべっかを使い、ごまをすり、逆に城代を居据らせてしまったではないか」
「私が城代におべっかを使った?」
「竜神川の堤防を莫大な功績だと褒めたろうが」
 仲木小助がしゃがれ声で叫んだ。
「――町筋改修は歴史的大事業、百姓町人は虫けら同然と云ったろうが」
「しかもわれわれを無知無学、ばかで盲人で近眼で、女の腐ったのとぬかしたではないか」
「ええ面倒だ、抜け」
 没頭弥九郎が刀の柄に手をかけて呶号どごうした。
「――きさまはわれわれを侮辱し、一藩の信頼を裏切った、玄武社としては断じて赦すことができん、制裁を加えてやるから抜け」
 半之助は頷いた。頷いて答えた。
「わかった、諸兄は剛健の気に昂奮しているらしいから、弁解をしてもむだだろう。しかしこんな処で勝負はできまい」
「逃げを打ってもその手は食わんぞ」
「笑わしてはいけない」半之助は眼の前にいる弥九郎の胸のあたりを見ながら、にこっと笑って云った。
「――おまえたちの十五人や二十人、こう見えてもおれは江戸では」
 そう云いかけて、突然「えい!」と叫んだ。叫んだと同時に彼の手がひらめき、ぱちんと刀のつばが鳴った。みんなあっと息をのみ、弥九郎はうしろへとび退った。……半之助は微笑しながら、弥九郎の胸を指さして云った。
「おまえの着物のえりを見ろ」
 弥九郎はそこへ手をやった。前衿の縫い目が切れてぱくぱくしている。弥九郎は仰天して、大いに慌てて刀を抜いた。
「江戸ではおれの抜刀流はちょいとしたものなんだ」半之助はみんなを眺めまわし、
「――おれの逃げることを心配するより、おまえたちのはらをきめるほうが先だろう、場所と時刻を知らせて来い、なるべく早いほうがいいな」
 そしてゆっくりとそこを去った。
 図書助の帰ったのは夕方であった。着替えをして居間へはいると、すぐに半之助を呼んで、妙に皮肉なうす笑いをしながら、
「おれは今日、辞職の届けを出した」
「な、なんですって、御辞任?……」
「これでおまえも本望だろう」
「とんでもないことを仰しゃる」半之助は眼をまるくした。
「――御城代のような無双の才腕をもち、第一級の」
「美男か、わかった、なにも云うな、おれは手続きを済まし老職は受理して、明日は江戸表へ届けの使者を出すことになった」
「それは大変、これは一大事です」
「嘘をつけ」図書助はなお皮肉に、
「――おまえいやにおれを褒めたり、賞讃するようなむやみなことを云って、それでもっておれに辞職の決心をさせたではないか、なにが一大事だ」
「なにがと云って玄武社の連中と喧嘩けんかです」
 半之助はせかせかと馬場脇の話をした。自分がかれらと果合いを承知したのは、埴谷城代といううしろ盾があったからで、城代が辞職したとなればとてもそんな事はできない、とうていそんな自信はないと告白した。すると図書助は、すでにその出来事を聞いていたとみえ、だまされんぞという眼で彼を見て、
「しかしおまえ抜刀流の名手で、現に弥九郎の着物の衿を眼にもとまらず」
「とんでもない」半之助は手を振った。
「――あれはごまかしです、あの衿は初めからほころびていたんで、それを見たものですからちょいと鍔を鳴らして、だって御城代、衿の縫目を正面から切るなんて、そんな手づまみたいな芸当ができるわけがありません」
「なんとこの、実におまえというやつは」
「しまった」半之助は口を押えた、
「――この家には玄武社へ内通する者がいるんです、今のも聞かれたに違いありません、もうだめです、私はこれから江戸へ帰ります」
「よかろう、そのほうが土地が静かになる」図書助はにやりとした。
「――望みなら辞職届けの使者ということにしてやるぞ」
「ぜひお願いします、但し今夜のうちに出立しますから、すぐお手配をして下さい」
 半之助はこうたたみかけ、それから坐り直して、きまじめに相手の眼を見た。
「ついては一つお願いがあるのですが、というのはです、……江戸へ帰るのにですね、その、あれです、お嬢さまを頂きたいんですが」
「なんだと、笙子を、江戸へ?……」
「私の妻に頂いて帰りたいんです」
「あれは埴谷の一人娘だぞ」
「私は三男ですから婿にゆけます」
 図書助のへの字なりの口がだらっとあいた。脳震蕩のうしんとう[#「脳震蕩」はママ]でも起したようなぐあいであるが、続いていきなり笑いだした。
 べらぼうに笑いながら、拳で膝を打ち、躯を曲げ、それから途切れ途切れに、
「いって申込め、自分であれに話せ」ひっひと笑いながら、
「――おまえはわる賢い、機転も利く、しかし肝心なところが抜けておる、肝心なところが、まあいってみろ、玄武社の連中もくそもない、誰よりおまえを憎み、おまえに復讐ふくしゅうしようとしているのは笙子だ、それを嫁に欲しい、ああ堪らん、腹が痛い、苦しい」
 図書助は片手で腹を押え、なおこみあげる笑いのために膏汗あぶらあせを流した。……あまりの騒がしさに吃驚したのだろう、菊枝夫人が入って来て良人の側へ坐った。
「どうあそばしました、そんなに大きな声でお笑いなすって、いったいなにが」
「こいつがな、この折岩が」こう云いかけて、そこを見ると誰もいない、半之助は早くも姿を消していた。
 いったいどこへいったか、図書助は笑いやんで、太息をついて、涙を拭きながら妻にわけを話し、
「さすがに気がついて、早いところ逃げだしたんだろう、どんな面をしておるか」
 そのとき障子があいた。
 図書助はびくっとして振返った。
 夫人もそちらを見た。笙子嬢である、……笙子嬢はひどくはにかんで、俯向うつむいて、肩をすぼめるような姿勢で(これまでかつて見たことのない)嫋々なよなよとした身ごなしでそこへ坐り、しなしなと両手をつき、甘い、溶けるような声で云った。
「お父さま、お母さま、お願いでございます、どうぞわたくしを、折岩さまとご一緒に、江戸へゆかせて下さいまし」
 廊下で半之助がえへんと咳をした。

 城下町の外れの畷道なわてみちに、玄武社の幹部たちが集まって、道の彼方を睨みつけていた。かれらのお揃いの頬髯が、爽やかな早朝の風にいさましくなびき立った。
狡猾こうかつと云ったものか、すばしっこいと云ったものかどうか」立原平助が云った。
「――あいつは江戸から来て、さんざっぱらわれわれを愚弄して、おまけに笙子嬢までひっさらって、そうして、ひらりといっちまったねえ」
 彼は手をひらりと振ってみせた。かくて折岩半之助は、江戸へ帰任した。





底本:「山本周五郎全集第二十三巻 雨あがる・竹柏記」新潮社
   1983(昭和58)年11月25日発行
初出:「キング」大日本雄辯會講談社
   1951(昭和26)年7月
※初出時の表題は「半之助奔走はんのすけほんそう」です。
※誤植を疑った箇所を、初出の表記にそって、あらためました。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:北川松生
2020年12月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード