ゆうれい貸屋

山本周五郎




一 怠け者にも云えば理はあり


 江戸京橋炭屋河岸の「やんぱち長屋」という裏店うらだなに、桶屋おけやの弥六という者が住んでいた。弥六は怠け者であった。それも大抵なくらいのものではない、人を愚する程度でもない。もっとずっとひどい怠け者であった。
「あいつはしようがねえ、弥六のやつは」
 家主の平作老人は歎息し次のように折紙を付けた。
「ああいうのを、底抜けってえんだ」
 これに対して反対する者は一人もなかった。そればかりでなく「底抜け」という折紙は、そのまま弥六のものになった。
 弥六の父は弥八といって、これは評判の働き者であった。やはり桶屋職人で、酒も煙草も賭博も遊蕩ゆうとうも嫌いであり、食うのと寝る時間のほかは働きどおしに働いた。弥八が四十六で死んだとき、弥六は二十一であった。律気な父親の仕込みで、彼も桶屋としてはかなりな腕をもっていたし、親の顧客をそっくり引継いだし、母親は丈夫でいたしというわけで、生活はまあまあ楽であった。
 彼は二十四で嫁を貰った。すると母親が死んだ。まことにあっけないもので、三人で晩飯を食べているとき、彼女はとつぜん茶碗とはしほうりだして、仰反あおむけさまにひっくら返った。ふざけているようにもみえたが、ともかくも寝床を敷いて寝かした。彼女は夜中までいびきをかいて眠っていて、それから眼をさまして、「ぼんのくぼで、蟻が行列をやっている」
 などと云いだした。追っぱらってくれと云うので、よく見たが蟻などはいなかった。
「いないことはないよ、よく見ておくれよ」
 母親は子供のむずかるようにせがんだ。
「ほらほら、ぼんのくぼから頭へ行列してるじゃないか、ほら髪毛の中へぞろぞろはいってゆくよ、ああいやだ、追っぱらっとくれよ、額のほうまで行列して来るよ」
 そしてほどなく、うーんとうなった。気持のよさそうな、ああいい心持だというような唸り方であった。それが死ぬ合図であった。
 弥六はもとから、勤勉とはいえなかった。だが母親が亡くなると、初めて本性を現わした。仕事をすればたしかな腕をみせるが、だんだん仕事をしなくなっていった。そうかといって、道楽をするわけでもなかった。父親と違って彼は酒を飲むし煙草もすう。おんなあそびも避けはしない。だが、無ければ無いでも済んだ。
「浮かない顔をしてるわね、あんた、お酒でも買って来ようか」
 女房がそう云うと、彼は欠伸あくびをする。
「うん、酒か、そうさな」そしてだるそうにどこかをいて云う「まあそんなことにでもするか」
 酒を買って来て、かんをして出してやれば、出してやるだけ飲む。黙って飯にすれば、彼は黙って飯を食う。もう一本つけろとか、これでやめようなどと云うことは決してない。煙草も同様であり、遊蕩も同様であった。
「仕事はどうするのさ、仕事をしてくれなくちゃ困るじゃないか、伊勢屋さんからせっつかれて、あたしゃ返辞のしようがありゃしない、いったいあんたどうする気なのさ」
「どうもしねえさ」弥六は欠伸をする、「どうもしねえし、またしたくもねえさ」
 仕事をしなければ、顧客は減る。しぜん収入がない。夫婦の情愛で、女房が賃仕事などをして二年ばかりはその日をしのいだ。けれども情愛は無限大ではない、女房は飽きてきた。そうして家主の平作老に相談した。
「そうだろうね、無理はねえ、無理はねえと思うが」と家主はさすがに、年だけの分別はみせた「ともかくおれがいちど意見をしてみよう。それでいけなければしようがねえが、まあいちおうそのようすを見てからにしたらいいだろう」
 平作老は、意見をしにでかけていった。ところが弥六はふまじめな恰好で、寝そべったままで、それで達観したようなことを云った。
「そう仕事仕事ったってしようがねえ、おれの親父なんぞは寝るまを惜しんで仕事をした、大家さんなんぞも褒めていたから知ってるだろうが、まるで仕事の亡者みてえにかせいだもんだ、それでどうしたかってえば、やっぱり年中ぴいぴいだったからね、酒も煙草ものまねえ、これが楽しみってえことをなんにも知らず、くそ働きに働きどおしで、それでも貧乏からぬけることができねえで、そうして四十六なんて年で死んじまったからね、……おんなじこったよ大家さん、せいぜい稼いだところで、また稼がねえでいたところでよ、どうせぬけられねえ貧乏なら、あくせくするだけ損てえ勘定さ」
 それからだるそうに、大きな欠伸をした。
「おらあこれでいいのさ、これが極楽さね、うっちゃっといてくんねえ」
 結果は、判然たるものであった。女房のお兼は実家へ帰り、彼はおいてきぼりをくった。出てゆくときはお兼は泣いて、
「あんたが人並な気持になる日を、あたしゃ実家で待ってるよ、憎くって別れるんじゃないからね、あたしゃ待ってるからね、どうか早く帰れるようにしておくれよ」
 こうかきくどいて、ひとしきりまた泣いた。

二 出る幽霊の身に都合あり


 女房においてきぼりをくって二年、家主の家からときどき米とか味噌を届けて来るのと、ある物を端から売りとばすのとで、弥六はいっそ気楽そうにくらして来た。
「お兼さんは実家で待ってるんだぞ、可哀そうたあ思わねえのか」平作老はおりに触れてそう小言を云った、「いい腕をもっていて、てめえのようなやつもねえもんだ、まだ眼がさめねえのか」
 弥六は、けげんそうな眼をするのであった。
「ああ、誰かと思ったら、大家さんか」
 それから手足を踏み伸ばして、大欠伸をし、
「あっあーっ、ふう、なにか用かい」
 しぜん平作老も、黙って帰るわけだった。
 夏六月。というと今の暦にして七月のことであるが、宵のくちから小雨になって、それが夜半になってもやまない。気温も下って、ちょっと肌寒いくらいであった。蚊帳もらず寝床も敷かぬまま、ごろ寝をしていた弥六が、ふと眼をさました。……蚊遣りの火がなくなっていた。だがその火を作るより、蚊にくわれたほうが彼には安楽であった。
「まだ降ってやがる、根気のいい雨だ、飽きねえものかしら」彼は首筋やすねなどをぼりぼり掻く、
「へんにぞくぞくするじゃあねえか、それになんだか、ひどく陰気な晩だぜ、まだ夜明けにゃまがあるのかな」
 独り言をぶつぶつ云っていたが、そのときかなりけぶなことが起った。寝ころんでいる弥六の前方、げちょろけの壁のところが、ぼうとほのかに明るんで来た。ごくかすかに、青白くおぼろげに明るんで来たのである。そしてその薄い光暈こううんのあいから[#「あいから」はママ]
「う……ら……め……し……や……なあ」
 こういう、あわアれな声が聞えた。弥六は寝ころんだまま、そっちを見ていた、隣りは鉄造というぼて振で、夜中になると女房がうなされるとみえて、よく妙なうめきごえをあげる。お勘といってもう三十八になり、脂っけのぬけた、ひすばったような女房であるが、またその女房がうなされたのかと思った。……するとこんどはまえよりもはっきりと、やっぱりひどく哀れな声でこう云うのが聞えた。
「うウら……めエしや……なア」
 そしてさらにけぶなことには、壁のところの明るみが少しずつ強くなり、やがてぼんやりと一人の女の姿が見えてきた。
「なんでえこれあ、妙な者が出て来やがったが、夢かな」
「あアら、うらめしや……くちおしや……なア」
 こう云いながら、女の姿はしだいにはっきりしてきた。寝衣のような物を着て細帯で、さんばら髪で、両手をこう前へ垂らし、のめるような姿勢で、すごいような眼で、じいっとこっちを見た。
「へんな声をするなよ、ゆうれえみてえな恰好して、おめえいってえなんだ」
「見ていてわからないの」相手は少しむっとしたようであった、「みたいな恰好だって、恰好つけるんじゃない、本物のゆうれいよ」
「へえ本物かい、すると誰のゆうれえだ、お兼か」
「とぼけないでよ」
 ますますむっとしたふうである、「お兼なんてひと、知りゃしない、あたしゃ染次って、これでも辰巳たつみの芸妓だよ」
「おらあ、辰巳に借りはねえ筈だがね」
「勘定取りに来たわけじゃないよ、ばかばかしい、あたしゃゆうれいだって云ってるじゃないのさ」
「それあわかってるが」
 弥六はそこで欠伸をし、拳骨げんこつで涙を拭いて、まじりまじり相手を見た。
「そんならよ、辰巳芸妓のゆうれえが、どんな因縁でおれんとこへなんぞ出て来たんだ」
「そこはあたしだって、都合があるじゃないの」
「それあ誰にだって都合はあるだろうが、ほかの事とは違ってゆうれえだからな、そっちの都合ばかりで出るてえのは、おめえ、ちっとばかり勝手すぎやしねえか」
「あんたはわけを知らないから、そんな薄情なことを云うんだわ、男ってみんなそうよ、みんな薄情の不人情のけだものだわ」
「怒ったってしようがねえ、おれに怒ったってよ、……おめえ誰かにだまされたてえわけか」
「騙されたもなにも」
 ゆう女はこう云いかけてそこへ坐った、「口惜しくって、口惜しくって、男なんて本当にみんな、不実でろくでなしで浮気者で、ひいっ畜生、どうしてくれたらいいだろう」
「それあおめえ、なんだ、そんなに口惜しかったらおめえ、その相手の所へばけて出てよ、そいつをとり殺すなりなんなり」
「やったのよ」
 ゆう女は身もだえをした、「云われなくったってそのくらいのことはやったわよその男をとり殺したばかりじゃなく、その男の一家一族みんなとり殺してやったわ」
「そんならなにも、それでいいじゃあねえか、それで文句はねえ筈じゃねえか」
「文句なんかありゃしないわ、文句なんかないけれど、もうとり殺す相手はないし、あたしは怨念おんねんのゆうれいだからうかばれないし、宙に迷ってゆきばがなくなっちゃったのよ」

三 夜なかの宴に酒と蒲焼


「なるほどね、へえー、そんなぐあいのもんかね、ふう、そいつはその、ゆきばがないとは、おれも知らなかったなあ」
「あんたは死んだことがないから、そんな暢気のんきなこと云ってるけど、にんげん死んだからって誰も彼もゆくとこへゆけるもんじゃなくってよ、地獄へでも入れて貰えばまだしも、うかばれないで宙に迷ってる者がたくさんいるのよ」
「おどかしちゃいけねえ、へんなこと云いっこなしにしようじゃねえか」
「あら本当よ、嘘じゃなくってよ」
 染次ねえさんは横坐りになって、さんばら髪をうしろへ掻きあげながら云った。
「なかでも成仏できないのは、人を恨み死にに死んだ者、そういうのは瞋恚しんいといって、どんな名僧知識の供養でもだめなの、極楽はもちろん地獄へもゆけないで、自分の怨念に自分で苦しみながら、未来永劫えいごう、宙に迷っていなければならないのよ」
「そいつあひでえ仕掛だ、死んでまでそんな苦労があるたあおどろきだ、そうとすれあ、おれも考えなくちゃあならねえ」
 弥六は起きなおった、首筋と脛をばりばりひっ掻いて、それから念を押そうとして相手を見て、いちどその眼をそらしたが、こんどはびっくりしたように見なおした。
「どうしたのよ、なにをそんなに見るの」
「へえー、ふーん、こいつあなかなか」
 彼はなお相手を眺めながら、「こいつあどうして、おめえなかなか女っぷりがいいじゃねえか」
「あらいやだ、よして頂戴よ、そんな」
「なにそうでねえ、おれも辰巳じゃあ五六遍遊んだことがあるが、おめえみてえないきな姐さんにゃおめにかかったことがねえ、ゆうれえでなけれあ、唯はおかねえところだ」
「あらあんた、うまいこと云うわねえ」
 染次姐さんの幽霊は上半身をくねらせ、こっちを斜交はすかいににらみ、そうしてなまめかしくたもとで打つまねをした。
「おらあ世辞を云うなあ、嫌いだよ」
「そんならあたしを、おかみさんにしてくれるウ」
「ゆうれえでなけれあな」
「いいじゃないのゆうれいだって、昼間はだめだけれど、夜だけなら煮炊きだって洗濯だって出来るし、そのほかにも世間のおかみさんのすることなら、たいていなことはしてあげるわよ」
「うめえような話だが、まさかね」
「疑うんなら、今夜ためしてみたらいいじゃないの、お酒の支度もしてあげるし、おさかなも作ってあげるわ」
 弥六は頭を掻いた。姐さんを見て、また頭を掻いて、ものはためしか、などとつぶやいたが、そこで急にがっかりして首を振って、
「そいつあいい、が、あいにく米も味噌もきらしてるし、酒もねえし、なにしろ先立つ物がすっからかんときてるんでな」
「しけてるのねえ、あんた」
 姐さんのゆう女は、こう云ったが、
「いいわ、今夜のところはあたしがなんとかするわ」
「なんとかって、どうかなるのか」
「亭主になるかもしれない人のためだもの、あたしだって実のあるところをみせたいじゃないの、ちょっと待ってらっしゃい」ゆう女はすうっと立った、
「いまなにか持って来てあげるから、寝ちゃっちゃだめよ、起きてるのよ」
 そして上りかまちのほうへいったと思うと、障子の隙間から煙のように出ていった。弥六は気のぬけたような顔で、なにか口の中で呟いていたが、やがてふっと眉毛へ唾をつけた。
「夢でなけれあ狐か狸に違えねえ、……だが京橋のまん中に狐や狸のいるわけあねえし、……すると夢かな」
 独り言を云っていると、表の戸の外で女の声がした。
「ちょいとあんた、すまないけれど戸をあけて頂戴、持ってる物があるのよ」
 弥六は返辞をして、もういちど眉毛へたっぷり唾をつけて、それから戸をあけに立っていった。姐さん幽霊は岡持を提げて、ああ重かった、などと云いながら上へあがる。弥六はうしろから尻尾しっぽのないことをたしかめ、そうしてともかくも元の所へ坐った。
「冷めてるけどしようがないわね、急のまにあわせだからがまんして、明日の晩はもっと御馳走するわ」
 ゆう女は、岡持をあけてみせた。みごとな蒲焼かばやきの皿と燗徳利を三本、さかずきから箸までそろっている。
「これあおどろきだ、大串おおぐしのてえしたうなぎじゃあねえか、ずいぶん久しく食べねえから、見たばかりで腹が鳴りあがる、おっとおれがぜんを出そう」
「いいから坐ってらっしゃいよ、そんなことは女房の役、男が手を出すもんじゃないの」
 ゆう女は隅から蝶足を出して、手まめに岡持の中の物をそこへ並べて、そして差向いに坐り、徳利を持ってにっこり笑いながら、
「はいお一つ、冷でごめんなさい」
「どうもこれあ済まねえが、それじゃあ貰うか」
「遠慮することはなくってよ、おかみさんにしてくれればこのくらいのこと、毎晩だってしてあげるわ」
「それが本当なら願ってもねえが、まあおめえにも一ついこう」
「あら済みません、頂きます」
「思いざしだぜ」
「嬉しいことを云うわねこちら、それじゃあおかみさんにしてくれるの」
「そのつもりでさした盃よ」
「本気にすることよ、よくってこちら
 彼女はまた斜交いにこっちをじいっと見て、その艶然えんぜんたるながしめのまま盃を唇へもっていった。さすがに辰巳の姐さんである。身ごなし眼もとの色っぽさ、つうと云えばかあとくる調子、すべてが職業的に洗練されていて、とうていお兼なんぞの比ではなかった。弥六はどうやらのぼせてきたようすで、へんにむきに坐りなおした。
「むろんこっちは本気なんだが、こちらてえのは具合が悪いなあ、おらあ弥六ってえ者だ、これからあ、そう呼んで貰えてえ」
「あらいやだ、女房が亭主の名を呼ぶ者があるかしら、御夫婦ときまればあなたアって呼ぶわ、そう呼ばせてくれるウ」
「うふふふふ、なんだかぞくぞくしてきやあがる」眼尻を下げてだらしなく笑い、「するってえと、おれはおめえをなんて呼べばいいんだ」
「おまえでもいいけれど、本名はお染っていうの、あたしお染って呼んで貰いたいわ」
「だっておめえ呼び棄てってわけにあいかねえやな」
「あたしが頼むんだからいいじゃないの、ねえ呼んでエ」
「そうか、それじゃあ、お、お染……さん」
「さんなんて付けちゃだめ、そしてもっときつく、お染ッて呼ぶの、ねえ呼んでみて」
「それじゃあ、その、お染ッ」
「ああ嬉しい、あなアたア、もういちど」
 さしつ押えつ、蒲焼を肴に飲みだした。幽霊でも酔うものだろうか、お染のあおい顔がいつかぽっと赤くなり、眼にうるみが出て、身のこなしがますますなまめかしくなってきた。
「あなたア、あたし酔ったわア、酔ってもいいわね、堪忍してくれるわねッ、御夫婦のかための盃ですもの、そうでしょッ」
「そうだとも、うんと酔いねえ、酔ったらおれが介抱してやらあ」
「まあ嬉しいッ、こうなったら側へいくわよ」
 立って来て、しんなりと弥六にもたれかかり、ぐいと肩で押しながら鼻声をだした。
「ねえあなたア、断わっておくけれどあたしとっても嫉妬やきもちやきなのよ、もしも浮気なんかしたら、とり殺すことよ、よくって、あなた」
「おどかすなよ、大丈夫、おらあ浮気なんかしねえから」
「おどかしじゃないわ、さっきも話したとおり、あたしあの薄情者をとり殺して、あいつの一家一族ぜんぶとり殺したんだから、とり殺すあてが無くって宙に迷ってるんだから、もしもあんたが浮気なんぞしたら、そのときはあたし」
「わかった、もうわかったよ、決して浮気なんざしやしねえから、そのとり殺すだきゃあ勘弁してくれ」彼は話を変えたくなったとみえて、「だがおめえこいつは、この鰻や酒なんぞは、どこでどうしたんだ」
「三十間堀の田川から持って来たの」
「持って来たって、そんなことして大丈夫か」
「大丈夫よ、田川くらいの店で、焼き残りに燗ざましの二本や三本なによ、それよりみんな寝ちゃってたから、これを持って出るのに苦労しちゃったわ」
「おめえ隙間から、出入りするじゃねえか」
「あたしは針の穴だってぬけられる、でも岡持だのなんだのはだめ、だってこういう物は、ゆうれいじゃないんですもの」
「なるほど、そういう理窟か」
「あらもうおつもりだわ」ゆう女のお染は徳利を置いた、「あたし一人で飲んじゃったのねえ、もう少し取って来ましょうか」
「おらあもういい、おらあ強かあねえんだ」
「じゃあ明日の晩として、……ねえ、あなたア、うふン、あたし酔っちゃったわよう、ねえエ、お床敷いてエ」
 そして夜が明けた。
 夜は明けたが、弥六の起きたのは午後であった。これはまれなことである。怠け者に似合わず彼は早起きだった。朝早く起きれば、一日ゆっくり怠けられる――というのが彼の存念であった。こんなに寝過したのは、生れて初めてだろう――弥六は起きて、ぼんやり部屋の中を眺めまわした。裏店うらだなのことで隙間だらけだから、外の光はむやみなくらい射し込んで来る。
「おっ、あるぜ、鰻も、酒も、岡持も」
 弥六はそれらの物を、ついそこに認めた。
「するてえと、夢じゃあねえんだね」彼は頭を振り、ふと勝手口のほうへ向って呼んだ、「おめえいるか、おい、……お染」
 もちろん、返辞はなかった。路次で騒いでいる子供たちの声が聞える。弥六は体のそこここをぼりぼり掻き、それから独りでつぶやいて云った。
「そうか、ゆうれえだから、昼間はだめか」

四 これは乙なり夜だけの妻


 夫婦がための盃をした証拠はある。明け方まで続いた、濃艶な契情の記憶もあざやかだ。また晩にねと、約束もした。
 しかし本当だろうか、来るだろうか。いや来やあしまい、あんまり話がうますぎる。たぶんこれっきりのこったろう。そうとすれば惜しいもんだが、しかし、ことによると来るかもしれねえ、なにか来るようなくふうはねえものかしら。
 二年間のやもめぐらしも、そろそろ飽きてきた。膚さみしくもなってきた。そこへこの幸運である。しかも粋な辰巳の姐さん、稼げ稼げと云わないばかりか、向うで酒肴しゅこうを持って来る、たとえゆうれえでもなんでも、こういうのをのがす手はない、まして閨中けいちゅうのあの情のこまやかさ。
「こいつあ逃せねえ」弥六は珍しくいきごんだ、「なんとか法はねえかな、なんとかその、ゆうれえのきげんを取る法は、……うん、うん、いやいけねえ、そいつはだめだ、そいつは」
 彼は考えた。考えなおした。それからようやく思いつき、久しくあけたことのない仏壇をあけた。中には父母の位牌いはいがある、そのほか貧しいけれども仏具がひと揃い、めくら書きのハンニャ経などがほこりにまみれている。埃を払うのは面倒くさい、彼は残っている小蝋燭ろうそくをともした。線香のかけらに火をつけた。
「なにしろ死んだ者には、お経がなによりのくどくだてえからな、これならあいつも喜ぶだろう」
 御存じがないかもしれない。めくら経文というのは判じ絵のようなもので、経文がみんな絵で画いてある。ハンニャハラミタ、これが絵解になっているので、――見本がないとおわかりがないかもしれないが、――仮名も読めない人に読むことができるわけだ。弥六は仏壇の前に坐って、亡くなった母親の読みぶりを思いだしながら、このめくら経をつかえつかえ読みだした。
 怠け者の彼としては、よほどしんけんだったわけだが、ところでそれがいけない、全然いけないのである、自分では経文を読むつもりなのだが、口から出る言葉はまるで違う、お経文などとは縁もゆかりもない言葉が出てくる。
「――さまと寝る夜は、片手が邪魔よ」
 こういうことになる。弥六はびっくりして、眼をこすって、せきをして続みなおす。
「たまに逢うのにくぜつはやぼよ、……えへん、たま、……えへん、おかしいな、……だ、えへん、抱いておくれよしっぽりと、ああこりゃこりゃときた」
 どうしても、こうなってしまう。いくらやりなおしてもだめなので、ついに弥六はうんざりして、経文を抛りだして寝ころんでしまった。
「ばかばかしい、どうにでもしやあがれ」
 やけになって、そのまま眠ってしまったらしい。どのくらい眠ったものか、枕元で皿小鉢の音がするので、ひょいと眼をさました。するとそこにゆう女がいて、
「よく寝てたわね、眼がさめて」
 こう云ってにっこり笑った。
「おめえ、……おめえ来てくれたのか」
「いやなことを云うわね、あたしあなたのおかみさんじゃないの、ずっとここでいっしょにいたわよ」
「だっておめえ、おれにあ見えなかったぜ」
「それは初めに云ってあるでしょ、ゆうれいは晩だけ、昼間は見えないの、あんた自分でさっきそ云ってたじゃないの、ああそうそ、さっきで思いだしたけれど、あんた今日たいへんなことをしてくれたわね」
「たいへんなことって、おれがか」
「おれがかじゃないわよ」お染ゆう女はきっと坐りなおした、「あんた仏壇をあけて、般若心経を読もうとしたでしょ」
「いや済まねえ、あれを聞かれちゃあ合わせる顔がねえ」弥六は頭を掻いて閉口した、「おらあちゃんと読むつもりだった。おふくろのを聞き覚えていたし、読まされたこともある、読めねえ筈はねえんだがいけねえ、どう読んでも妙竹林な端唄みてえな文句になりあがる、面目ねえ、勘弁してくれ」
「そうじゃないの、あれはあたしがしたの」
「おめえがしたって、なにを」
「読めないように邪魔をしたのよ、だってあんたに般若心経なんか読まれたら、あたし成仏しちゃうじゃないの、成仏すればゆくとこへいっちまって、もうあんたに逢えなくなるわ」
「へえ――成仏するのかい、お経を読むと」弥六は妙な顔をした、「だっておめえ、慥かしんにゅうとかしんべえとかいうもので、どんな偉え坊主が供養してもうかばれねえって」
「いやあねえ、しんにゅうだのしんべえだのって。しんい、瞋恚っていうのよ、そして名僧智識じゃだめだけれど、あんたのような身内の者に供養されるとうかばれるのよ」
「危ねえなあ、そいつあ」彼は少しばかり、ぎょっとした、「そいつあ、うっかりできねえ、ここでうかんじまわれちゃあ、たいへんだ」
「それでも、あんたがかねを叩かなかったから、よかったのよ、鉦を叩けば仏さまが出て来るから、そうすればお経の邪魔をすることが出来なかったの、あたし本当にひやひやしたわよ」
「そうか、そういうわけか、そうとは知らねえもんだから、いきなりこりゃこりゃなんてとびだすには、びっくらした」
「これからは気をつけてね、さあ起きて湯へでもいってらっしゃい、あたしそのあいだにここの支度をしとくから……はい手拭」
 銭湯で汗をながして、さっぱりして帰ると膳ごしらえが出来ていた。あじの酢の物にもろきゅう烏賊いかさしにさよりの糸作り、そして焜炉こんろには蛤鍋はまぐりなべが味噌のいい匂いを立てていた。
「これあどうも、こいつあたいそうな御馳走じゃあねえか、おめえにこんな散財をさせちゃあ済まねえ」
「散財なんかしやしないわ、これみんな金田屋から持って来たのよ」
「えっ、金田屋、……二丁目のか」
「そうよ、板場で拵えたばかりのを持って来たのよ、お酒もたっぷりあるから、今夜はあんたも酔ってね」お染ゆう女は、例の眼で斜交いにこっちを睨んで、「あんたはいくらなにしても、すぐおじぎしちゃうんだもの、あれじゃあっけなくてつまんないわ、今夜は酔うのよ、酔えば息が長く続くから」
「そのことなら安心しねえ、ゆんべは遠慮があったし、二年ぶりのなんだったからよ、そうわかれあ、へっ自慢じゃあねえけれども、おめえなんざあ十日と経たねえうちにげっそりして、へとへとのゆうれえみてえに……ああいけねえ、おめえは今でもゆうれえだからな、するてえと、どんな寸法になるんだ」
「あたしのことはいいの、あたしはどんなにせえだしたって身にこたえるってことがないんだから、あんたの考えなければならないのは、自分のことよッ」
「おれなら金の草鞋わらじさ、うッ、さすがに金田屋だ、これあ生一本だぜ、まあ一つ」
「はばかりさま、御亭主にお酌さして罰が当りゃしないかしら」
「当ったら、半分はおれが背負わあな」
「ころし文句がうまいのね、その口でさんざ女を騙して来たんでしょッ、もしこれからそんなことしたら」
「おっとそのへんでやめにしよう、とり殺すが出ると酔がさめていけねえ、ええ畜生」彼はしきりに太腿ふとももや腕などを叩きながら、「今夜はまたばかにひでえ蚊だが、おめえちっともくわれねえようだね」
「ばかねえあんた、ゆうれいが蚊にくわれるわけがないじゃないの、そんなだったら夏の晩に柳の下なんぞへ出られやしないわ」
「それあまあそうだ、ゆうれえが蚊にくわれて、腿ったぶなんぞぼりぼりひっ掻いてたひにあ、睨みがきかねえからな、世の中なんてものあこれでそつのねえもんだな」
 二人でいい心持に酔って寝た。
 夜が明けると、ゆう女の姿は見えなくなる。日がれて九時頃になると現われる。毎晩どこかから料理と酒を持って来て、勝手なことをしゃべりながら飲んで食べて、それから外の白みかかるまで、身にこたえないのと金の草鞋がせえをだす。これが連日続いた。
「明日の晩は橋善のてんぷらといくか、それに長寿庵の小田巻なんぞ悪かあねえぜ」
 どの店のどんな料理でも望みしだい、おまけに唯ときているから好きなことが云える。かてて加えてお染ゆう女、粋で利巧でてくだがあって、仕事をしろなぞとは決して云わない。
「夢ならどうかさめねえでくれ」
 極楽でもこうはゆくまいと、弥六はほくほくと喜んでいた。近所の者は誰も気がつかない、いちど隣りの女房のお勘が、心配そうな顔をして次のようにきいた。
「弥六さん、このごろ毎晩ひどくうなされるようだけれど、どこか体でも悪いんじゃないのかえ」
「そうかい、うなされるかい」彼はにやにや笑いながらそう答えた、「それじゃあきっと、あれだ、お勘さんが毎晩うなされるんで、そいつがおれにうつったに違えねえ」
 お勘は赤くなって、あらいやだ、などと云って逃げだしたが、それからは彼女もなんにも云わなくなった。家主からは相変らず米や味噌を届けて来る、小銭を置いてゆくこともあるが、来れば必ず小言であった。
「まだ性がつかねえか、どうするんだ、待っている人を可哀そうたあ思わねえのか」
 これまではただ恐れ入って、へい済みませんくらいの挨拶はしていたが、お染ゆう女なる者が来てからは気が強くなり、ある日ついに家主へ返答をした。
「おらあこれが勝手なんだ、これが性分なんだからうっちゃっといてくれ、待ってるなんてどこの誰だか知らねえが、自分からおん出ていった者を、可哀そうもへちまもありあしねえ、ふざけたことを云わねえで貰えてえ」
「な、な、なんだと」
 平作老は怒った。
「なにがふざけたってんだ、なにがへちまだ、仮にも家主に向ってなんてえ口をきくんだ、てめえがいくら底抜けでも、それじゃあ済まねえぞ、お兼さんが出ていったなあ自分が可愛いからじゃあねえ、てめえの身を思えばこそ、てめえを人なみの者にしてえからこそ、泣きの涙で実家へ帰ったんだ、帰るときお兼さんが、泣きながら云ったことを忘れやしめえ、あんたがまじめな気持になったら、すぐに帰って来る、どうか早く帰れるようにしておくんなさい、こう云って泣いたのを覚えているだろう」

五 世に例なき商売のこと


「そればかりじゃあねえ、お兼さんは実家へ帰ってからも、一日だってやくざなてめえのことを案じねえ日はねえんだぞ」
 怒っている家主の眼に、そのときふっと涙があふれ出て来た。それを手の甲で拭き、よろめくような声で、平作老はなおこう続けた。
「てめえは底抜けのおたんちんだから、そんなごたくをぬかしてるが、二年このかた米味噌から小遣銭、不自由がちでもともかく生きて来た、いってえそれを誰のおかげだと思ってるんだ」
「それあまあ、それを云われるとなんだが、そこはおれだって大家さんの恩は」
「ざまあみやがれ、てめえの眼はそのくれえのもんだ、ここへ運んで来たなあおれに違えねえ、だが本当の主はお兼さんだぞ、縫い解き洗濯、仕事を選ばず夜も日も稼いで、てめえがまじめになるまではと、……稼ぐだけみんな、てめえに貢いで来たんだ、大家さん、どうかあたしからだとは云わないで下さい、これがわかって、またのんきな気持になられでもしたら、あたしの帰る日が延びるばかりです、お願いですから内証にして下さい、……おらあ涙がこぼれた、ばあさんなんぞみずぱなあたらして泣いたぞ、……夫婦は二世といってたって、縁が切れれば他人だ、てめえなんぞはのたれ死にをしたっていい人間だ、それをお兼さんはこんなに、こんなにまで蔭で実をつくしてる、……夫婦の情だ、てめえを亭主と思えばこそだ、それをてめえはなんだ、なんてえごたくをつくんだ」
 家主の怒りは、頂点に達したらしい。
「そんな人情を知らねえやつは、顔も見たかあねえ、お兼さんにあ気の毒だがおらあ手を引く、米味噌も小遣もこれっきりだ、もう店賃もお兼さんからは貰わねえ、断わっとくが一つでも店賃をめたらたたき出すぞ、こんだあ承知しねえから、そのつもりでいろ」
 かんかんになって、帰っていった。
 弥六も、さすがにものが云えなかった。鼻が酸っぱくなるような気持だったが、しかしお染ゆう女を思い、ゆう女との夜毎の楽しみを思いだして、やがてふんと鼻先で笑った。
「へっ、なにょう云やあがる、大家だと思って、へっ、そうでございますかだ」
 そして欠伸をして、ごろっと寝ころんだ。
 その晩のことだ。お染ゆう女はすっかり聞いていたらしい、例のとおり現われると、いきなり弥六の胸ぐらへつかみかかり、「この大嘘つき」「ろくでなし」「恥知らずのぺてん師」「おっちょこちょい」「唐茄子とうなす野郎」など、すさまじい勢いでののしりたてた。
「まえの女房は追い出した、縁は切れたと云ったじゃないか、それをこの南瓜は」
「縁は切れてるんだ、嘘じゃあねえんだ、おれの知ったこっちゃあねえんだから」
 弥六はけんめいに陳弁した。なにしろとり殺す一件があるから怖しい、汗だくになって説明し釈明した。お染さんも家主の捨てぜりふは聞いていたので、どうやら納得をしたらしく、やがてそこへ坐って、ほっと溜息をついた。
「そういうことなら、こんどだけは信用してあげるわ、だけど、……大家さんにああ云われてみれば、あたしたちもなんとか考えないといけないわね」
「かんげえるって、なにをよ」
「食べ物くらいは持って来られるけれど、まさかお金まで取るわけにはいかないわ、あんただってあたしに泥棒をさせるつもりはないでしょ、だとすれば店賃やなにか、どうしたって少しはお宝が要るじゃないの」
 女は幽霊になっても女であった。弥六はいやな顔をした。またしても稼げと云われるはめか、こう思ったのであるが、ゆう女は辰巳の出身だけにやぼなことは云わなかった。
「そうだ、いいことがあるわ、あんた」
「断わっとくがおらあ働くのあいやだぜ」
「あんたは坐ってればいいの、まあ聞いて頂戴、こうなの」お染はいきごんだ顔で、「つまりひと口に云うとね、ゆうれいを貸す商売なのよ」
「ゆうれえを貸すって」
「世の中には、死ぬほど人を怨んでる者がたくさんいるわ、金の恨み恋の恨み、いろんな恨みからいっそ化けて出てやりたい、怨みのほどを思い知らせてやりたい、そう考えてる人がたくさんいるでしょ、そういう人にゆうれいを貸してやるの、借りた人は自分の代りにそのゆうれいを先方へやって、怨みたいだけ怨むことができるわ、これなら自分で死ぬ必要がないし、相手の苦しむのを見ることができるんだから、それこそ一挙両得じゃないの」
「なるほど、そいつはいけそうだ」弥六ものり気になった、「そいつはものになりそうだが、しかし、その役はおめえがやるのか」
「あたしもやるけれど、それだけじゃだめ、お客が来るとすれば、いろいろ註文があるでしょ。だからもう五六人ゆうれいを伴れて来るわ」
「そう云ったって、そんなにゆう的がいるのかい」
「このあいだそ云ったじゃないの、ゆくとこへゆけなくて宙に迷ってる者が大勢いるって、口をかければ、五人や十人すぐに集まって来るわよ」

六 世間に楽ななりわいはなし


 話はちょいとしたものである。商売になるかならぬか、とにかくやってみる値打ちはありそうだ。そこで弥六も坐りなおし、二人で商売上のこまかい点を相談し合った。客を呼ぶにはどうするか、派出代金はどれくらいが適当か、いろいろ検討してみた結果、これは相当なものになるというみとおしがついた。
「こいつあいい、こいつあ乙なもんだ、元祖ゆうれい貸屋、きっとひとしんしょう出来るぜ」
 弥六はこう云って悦喜した。
 その晩はまえ祝い、お染はすぐさま幽霊の募集にかかり、入念に物色して六人の男女を雇い入れた。男二人、爺さんと婆さん、娘二人という顔触れである。これだけ抱えていれば、まず大抵の註文は引受けられるだろうが、お染はこれにはずいぶん苦心したと云った。……幽霊はいくらでもいるけれど、いざ商売となると、誰でもいいというわけにはいかない。まず正直でおとなしく、凄みがあって眼鼻だちのいい者、これだけの条件は必要だった。
「だってそうでしょう、正直者でないと客と馴れ合ったり、出先で間違いを起す心配があるし、気の荒い者だと組合なんか作って、すぐに賃上げストなんか始めるわよ」お染はこう説明した。
縹緻きりょうだってそうよ、先方へいってうらめしやをやるのに、おかめひょっとこみたいな顔じゃあ、相手は怖がるどころかふきだしちまうわ」
 実にゆき届いたものである。また募集に当って困ったのは、例の四谷怪談のお岩さんとか船弁慶でお馴染みの平知盛さんとか由比正雪さんとか皿屋敷のお菊さんなどというのが来て、雇ってくれと強引にねばられたそうである。
「へえー、そんな連中がまだ宙に迷ってるのか」
「お岩さんなんか、とっても執念ぶかいの、そのうちここへ押掛けて来るかもしれないわ」
「じょ、じょ、冗談じゃあねえ、とんでもねえ、お岩さんなんぞに来られて堪るものか、そいつだけあ断わってくれ、聞いただけでも肝が縮まあ」
 弥六の震えあがるのを見て、お染は笑ったが、ふと思いだしたような眼つきになって、
「念を押しておくけれど、こんだ抱えた娘の若いほうね、あの娘にはあんた気をつけて頂戴よ」
「あの娘になにかわけでもあるのか」
「あるのよ、あの娘は前世でたいへんな浮気者だったの、縹緻はそれほどでもないけれど、体や性分がそう生れついたのね、あの若さで三十幾人かの男を騙して、その恨みで男のために殺されたのよ、今だって男のゆうれいさえ見ればくどくんだから、それがまたとっても色っぽくて上手なんだから、いいこと、……気をつけてひっかからないようにしないと、もしあたしに嫉妬をやかせでもしたら、わかってるわね」
「なんだ、そんなことか、それなら念にあ及ばねえ、おめえ一人でもて余してるくれえなんだから、浮気なんてとんでもねえ」
 彼はこう云って、眉をしかめてみせた。
 ここで六人の幽霊を紹介するわけだが、お話の先をいそぐので、すぐに商売へとりかかることを許して頂く。
 ……かくて、ゆうれい貸屋は、陰々と開業された。爺さん婆さんを除いたほかの四人が、八方へでかけてまず客を捜す。つまり、死ぬほど人を怨んでいる人間、畜生ッ化けて出てとり殺してやりたい、などと怨みのろっている者を捜し、捜し当てたら、「炭屋河岸へおいで」と耳うちをするのである。
「やんぱち長屋の弥六の家へおいでなさい、ごくお安くあなたの怨みをはらしてあげます」
 これを暗示的に何回も繰返すと、なにしろ相手は怨恨のためにとり乱し、精神の平衡を失っているので、ついふらふらと暗示にかかるらしい、開業五日めに早くも客がやって来た。……この応対問答も面白いのだが、話をいそぐ必要から略すとして、依頼は恋の恨み、先方は人の女房ということだけ記して置く。
 六日め七日めと、客はしだいに殖えた。十日めには七人もやって来たし、さらに多くなるもようであった。
「当ったなあ、お染、見ろ、もうおめえ三両ちかくもうかったぜ」
「それっぱっち[#「それっぱっち」はママ]なによ、いまに千両箱を積んでみせるわ」
「この調子だと、そんなことになるかもしれねえ、だがなんだな、おらあつくづく思うんだが、世間にあずいぶん人を怨んでる者がいるんだなあ」弥六は感じ入ったふうで、「それも聞いてみればもっともなのもあるが、まるっきり逆怨みみてえのもだいぶある、てめえが悪くっていて人を怨んだり呪ったり、他人のおれがはらの立つような勝手なのがいるぜ、……誰がどこでなにをかんがえてやがるか、ひと皮めくってみなけれあ人の心なんてもなあわからねえ、人間がこんなにあざといもんたあ知らなかった」
「悟ったようなことを云うんじゃないの、だからこそあたしたちが儲かるんじゃありませんか、大きく稼ぐには人間の弱味を掴むに限るよ、さあ商売商売」

七 貧乏人は三界が苦


 だがなにもかもが、順調というわけにはいかなかった。ある夜、中年男の幽霊の一人が、派出先で思わぬ奇禍にあい、額に大きなこぶをだして、ひどく立腹して帰って来た。事情を聞くとこうである。
 そのとき依頼された件は情痴関係のもので、妻が愛人を家へひきいれたので、自分のほうで家を追ん出た良人おっとが、妻に怨みのほどを思い知らせたいという、気の弱そうな当の良人の頼みであった。
「あっしあ、その家へいきやした」
 その担当幽霊は、こう報告をした。いってみるとその女房は問題の男と寝間の中で、お互いにくすぐったりつねったりして、きゃあきゃあ遊戯にふけっていた。定刻の丑満うしみつになり、ようやく男のほうは疲労のうえ鎮静した。だが女房はまだふざけ足りないとみえ、「うん、つまんない」とか、「ねえ起きてよ」とか、「あんた弱くなっちゃったのね」とか、「起きないと擽ぐるわよ」とか絡みかかっている。察するところきりがなさそうなので、担当幽霊はごうにやし、作法どおり行灯の火をぽわぽわと暗くしたうえ、形式にしたがって女房の前へ現われた。しかるところ、その女房は意地悪にも、いきなり「おまえさん誰だい」とけんのみをくわせたそうである。
「あっしあむっとしやした」担当幽霊は、こう続けた、「ゆうれいに向っておまえさん誰だいなんて、そんなあなたいきなり人の気を悪くするようなことを云わなくてもいいでしょう、あっしゃあむっとしやした、むっとしたが商売でやすから、ぐっとがまんをして、おまえの亭主のゆうれいだって云ったんで、するといやにじろじろ見ていやしたっけが、あたしの亭主なら尻っぺたにあざがある筈だ、尻をまくって痣があるかないか見せろってんでやす」
「はっきりした阿魔だな、それでどうした」
「どうしたってあなた、まさかこっちはゆうれいですからね、それも前世でかげまかなんかしたってんなら別でやす。それなら尻くれえ見られるとがはあるかしれねえ、けれどもあっしあ、こうなれば云うけれども紙屑かみくず買いでやした、まっとうな紙屑買いをしていて、そうして今は仮にもゆうれいであって、それであなた、いかに商売とは言いながら、尻を捲って痣の有る無しを見せる、……ほほほほ」
「ここで泣くこたあねえやな、そんなふてえ阿魔なら、横っ面の一つもはり倒してやるがいいじゃあねえか」
「そう思ったんでやす、けれどもいけやせん、ひどくまた気の荒い女とみえまして、ぽンぽンぽンぽンと早っ口でどなりやした、あんまり早っ口でよくわからねえが、わかるところだけでもこっちの顔が赤くなるような、つまりは男を裸にした嘲弄ちょうろうなんで、あっしゃあここだから云うんでやすが、恥かしさも恥かしいし、だんだん怖くなってきやして」
「ゆうれえのほうで、怖くなっちあしようがねえな」
「体がこう総毛立ってきやしたんで、そういうことならまた出なおすから、今夜のところはこれで御無礼をするから、こう云って出ようとしたんでやす、ところが相手はぱっと立ちやした、早いの早くないの、あっというまもねえ、勝手から摺子木すりこぎを持って来やして、いきなりぽかっとここを、……見ておくんなさい、これこの瘤の大きいこと、……二度と来てみやがれッちゃぶいてやるからってんで、ほほほほ」担当幽霊はこぶしで眼を拭いた、「あっしあ前世では、まっとうな紙屑買いでやした、浮世というところは正直者や弱い者、まっとうな人間が苦労をする、汗水たらし骨身を砕いて、肩腰のゆがむほど働いて、それで満足に食うこともできやせん、ぼろをさげた女房に浴衣一枚が買ってやれず、子供がよその子の食べている菓子を欲しがれば、叩いてごまかすよりしようがねえ、悪い事をしてせせら笑ってるようなやつを旦那と奉り、御政治がどんなにあこぎでもおそれかしこんで、なあに、天道さまが見ておいでなさる、天道さまはみすてやあなさるめえ、この世ではむくいがこなくとも、あの世へゆけばお釈迦さまもいらっしゃることだ、きっといいことがあるに違えねえ、……こう思って辛抱していやした、ところがいけねえ、とんでもねえ、やっぱり同じこってやす」
 前紙屑買いはやや昂奮こうふんして、だが腰の低い調子で訴えるように続けた。
「浮世も金、あの世も金、浮世でどんな悪辣あくらつな事をした人間でも、寺へたくさん金を納めれば大手を振って成仏する、極楽へでもどこへでも好きなとこへゆけやす、だが貧乏人はろくな葬式も出来ず、お布施もたんとは出せねえ、だから坊主はてんから見下げたもんで、……今だから申しやすが、あっしの死んだとき来た坊主なんぞはあなた、引導にこんなことを云いやした。
 ――ヤンコノセーフーモン一カモン二カ。
 喝ッてんでやす。その場にいた者にゃちんぷんかんで、みんな有難そうな顔をしていやした、けれどもあっしはもうたましいだからわかりやした、ヤンコは今夜でセーフーはお布施で、つまり今夜のお布施は一文か二文かってんでやす、……ほほほほ、これが引導でやす、あなた、これで成仏ができると思いやすか」
「そいつは本当とすれば、ひでえ坊主があったもんだ」
「坊主がこのとおりだとすれば、仏さまはその元締でやすからな、あっしらがどんな扱いを受けているかおわかりでやしょう、……正直者や弱い者やまっとうな人間は、この世でもあの世でも同じこってやす。天道も仏もなんにもしてくれやしねえ、苦しむのはやっぱり貧乏人でやす」
 ここに到って、前紙屑買いは叫びだした。
「あっしゃあ云うでやす、人間は生きてるうちのこった、あの世を頼みに歯をくいしばっていたって、あの世にも決していいことはねえ、なにもかにも、生きてるうちのこってやす。悪辣な野郎とわかってる者を旦那とたてちゃあいけねえ、非道な御政治に眼をつぶっちゃあいけねえ、ただ正直なだけではだめだ、弱い者は強くなり、貧乏人でも女房子の仕合せは護らなくちゃあいけねえ、生きてるうちにそうしなくちゃあならねえでやす、生きてるうちにでがす」そして彼は額の瘤をでた、「現の証拠はこのとおり、ゆうれいになってもあっしのような男はこのとおりでやす、見ておくんなさい、このでけえ瘤を、もうたくさんでやす、ほほほほ、たくさんでやす」
 また爺さん婆さんの幽霊は、寝てばかりいた。爺さんは疝痛せんつう持ちだし、婆さんは喘息ぜんそくで、今夜は冷えるとか、湿気が強いとか風邪けだとか云って、依頼者があってもなかなか動かないのである。娘の幽霊の一人は実直者で、いちばんよく働いたが、これは半月ばかりすると、
「身内の者が供養をしてくれて、こんど成仏することになりましたから、わたしはこれでお暇を頂きます」
 こう云って消えてしまった。
 そのすぐあとのことだったが、前紙履買いでないほうの男の幽霊が、派出先から声をからして、ふらふらになって帰って来た。ぜんぜん声がかれてしまって、云うことがよくわからない、手と首をしきりに振って「もう御免だ」という表現をした。
「いってえどうしたんだ、なにがあったんだ」
「ゼエゼエ、……ゼエゼエ、……ゼエゼエ」
 まるっきり、やにの詰ったきせるであった。弥六が彼の口へ、耳をくっつけて聞いたところによると、先方は肥えた五十男だったが、ぐうぐう鼾をかいて熟睡、いくら「うらめしや」とやっても眼をさまさない、絶対に反響がないのである。
「そのまた鼾がです」担当幽霊はゼエゼエ声で云った、「とほうもない番外の大鼾で、こっちの耳がもうがんがんしてきて、だからこっちも大きな声をだすというわけで、もう凄みとかなんとか、そんななまやさしいばあいじゃありません、ひと晩じゅう声の出しっくらで、気がついたら夜が明けちまって、あたしはこんな声になっていました。こんな声に、ゼエゼエゼエ、……もう懲り懲りです、あたしはお暇を貰います」
 これもそれっきり消えてしまった。
 そのほかにも二三の故障はあったが、商売はますます繁昌、人手が足りないからお染姐さんも派出に出る。こうしてちょうど開業十七日めのことだったが、珍しく爺さんや婆さんもでかけ、前紙屑買いも、例の浮気娘もお染もでかけ、弥六が一人で留守番をしていた。
「生きてるうちのことか、なるほど」
 彼は久方ぶりに独り寝ころんで、欠伸をしながらそんなことを呟いた。……天道も仏もない、あの世へいってもいいことはない、人間は生きてるうちに生き甲斐がいのあることをしなければならない。前紙屑買いの言葉が、へんに弥六の頭にひっかかっていた。
「死んじまえばおしめえ、なにもかも生きてるうち、そうかもしれねえ」
「なにをそんなに感心してるのよウ、このひと」
 とつぜんこう云って、例の浮気娘の幽霊が現われた。まるぽちゃの、色こそ青いけれども、片眼がちょいと藪睨やぶにらみで、おちょぼ口で、体じゅうにいろけが溢れている感じだ。
「どうしたんだ、もう済まして来たのか」
「そんなこといいじゃないの、それより、ねえエこのひとウ」
「おう変な声を出すな、そしてそんなに側へ寄っちゃあいけねえ、もっとそっちへいってくれ」
「いいじゃないの、なにさこのひと」ゆう娘は、弥六にしがみついた、「あんたお染さんが怖いんでしょ、知ってるわよ、いくじなし、男のくせにあんなおばあちゃんの尻に敷かれて、浮気もできないなんて恥かしくないの、このひと」
「うう、放してくれ、頼む、こ、この手」弥六はもがいた、「頼むから放してくれ、もしあいつが帰って来てみつかったら」
とり殺されるってんでしょ、いいじゃないのさア、とり殺されたらされたで、あんな人と別れて、あたしと御夫婦になりましょうよ」
「ひとのことだと思ってよせやい、おらあまだ死にたかあねえ、頼むから勘弁してくれ」
「大丈夫だったら、あの人は朝までは帰って来やしないわよ、ねえン、そんなに薄情にしないでぎゅっと抱いてようン、あの人どんなだか知らないけど、あたしのは万人に一人の別誂べつあつらえよ、さあおとなしくして、これをこう、ねえン」
「ひひひ、よしてくれ、ふふふ、擽ぐってえ、へへへへ、待ってくれ」
 身もだえをして、絡み合っているところへ、その二人の眼前へ、なんと、当のお染ゆう女がおどろおどろと現われた。
「あっお染、お、おめえ……」
 弥六は、仰天して叫んだ。浮気娘の幽霊は、よっぽと驚いたとみえ、ひと光り青く光ったと思うと、
「お姐さん、味をみさせて貰いましたよ」と、当てつけのようなことを云って、消えてしまった。

八 元におさまる般若心経


「おまえさん、とうとうやったね」お染さんは、静ウかな、そして骨まで凍るような声で、弥六の顔をこうのぞきこみながら云った。
「あたしゃ見たよ、この眼でね、ちゃんと見たよ」
「ち、ち、違う、違うんだ、と、とんでもねえ、あれあでたらめだ、嘘っぱちだ」
「あたしのことを、おばあさんだってね、おまえを尻に敷いているってね、とり殺されたらあの娘と夫婦になるってね、おーまーえさーん」
「た、た、た、そいったあれが、あいつが」
「あれがねェ、あれがおまえに抱きついて、手足を絡んで、云ってたーねー」
 そしてお染ゆう女は、悪鬼のように伸びあがり、総髪を逆立て、歯をきだして陰々と笑った。
「あーらうれしや、これで怨念の相手が出来しぞ、とり殺す相手が出来たるぞ、うれしやうれしや、これよりは九百九十九夜、夜毎日毎に枕辺へあらわれ、塗炭の苦しみをめさせて、うーらーみ……はーらーさーでえ……おーくーべーきい……かー、あーらうらめしやな……」
「助けてくれ、このとおりだ」
 弥六は平伏し、叩頭しながら叫んだ。
「おらあ死にたくねえ、助けてくれ、死ぬなあいやだ、勘弁してくれ、人殺し」
「弥六、どうした、弥六、しっかりしろ」
 背中をどしんと叩かれた。弥六は悲鳴をあげ、とびあがると、誰かの頭とこつんこをし、眼からちかちかと光が飛んで、そうしてまた背中をいやというほど殴られた。
「こんな時刻まで寝こんで、なにをうなされてやがるんだ、ふざけるな、眼をさませ、どうしやがった、弥六」
「はア、……はア、……」
 弥六は、ぽかんと振り向いた。家主の平作がそこにいた、戸があけてあり、外は夏の明るい日がいっぱいにみなぎっていた。弥六は「ああ大家さん、大家さんだ」こう云うと、いきなりとび立って仏壇をあけて、口の中で念仏のようなことを云いながら、震える手で屑蝋燭へ火をつけ、欠け線香を立て、そしてちんちんと鉦を鳴らしたが、その早いのと、慌てたさまと、これらのいぶかしい動作を見た平作老は、彼が気違いになったと思ったのだろう、腰をあげて逃げだそうとした。それを弥六がとびかかって、
「大家さんお願えだ、どうかお経を読んでくんなさい、般若経をいちどでいい、あっしを助けると思って」
「読めってえなら読むが、しかし急にどうしたんだ」
「眼がさめました」弥六は泣きだして、「こっちの眼もあっちの眼もさめました、へい、これから働きます、仕事をします」
「おめえ、それあ本気で云うのか、まだ寝呆ねぼけてるんじゃあねえのか」
「本気にならなけれあとり殺されるんで、いいえ本気です、これから腕っ限り仕事をし、お兼も呼び返して、まじめに精いっぱい稼ぎます、ですからどうか早くお経を」
「それが本心ならめでてえが、なんでまたそのために経を読むんだ」
「それあお染……いいえまあ、それは、おやじにも、おふくろにも、このとおりだというところをみせて、安心してゆくとこへいって貰えてえんです」
「よく云った、そいつあ本物だ」家主は横手というものをぽんと打った。
「亡くなった父母に見て貰おうてえのは冗談ごとじゃあねえ、弥六、おめえよくそこに気がついてくれた、おらあ嬉しいぜ」
「あっしのほうが、よっぽど嬉しい」
「これで、弥八もおふくろもうかばれる。お兼さんにもすぐ知らせよう、お兼さんがどんなに喜ぶか、……きっと泣きながらとんで来るぜ、泣きながら」
 平作老は眼をこすった、「いいか弥六、こんだあぐれるなよ、お兼さんを大事にするんだぞ、いいか、ああ読んでやる、読んでやるとも、おれの一世一代だ、十万億土へ響きわたるくれえ立派に読んでやる」
 家主の平作老は、仏壇の前へいって坐り、もういちど鉦を鳴らし、やがて静かに般若心経を誦し始めた。
「これで成仏してくれお染」弥六も合掌しながら、心のなかでこう云った。
「紙屑買い屋も爺さんも婆さんも、浮気娘もついでに成仏してくれ、頓証菩提とんしょうぼだい、なむあみだぶつ」
 ゆうれい貸屋という、前古未曽有みぞうな、しかもすばらしく有利な事業は、こうして不幸にも創業まもなく解消した。世に有難きは女のまことであり、恐るべきは女の嫉妬である。
 今に至るも、この商売は絶えて行なわれないが、誰か開業のお志のある方はないか。





底本:「山本周五郎全集第二十三巻 雨あがる・竹柏記」新潮社
   1983(昭和58)年11月25日発行
初出:「講談雑誌」博文館
   1950(昭和25)年9月
※初出時の署名は「風々亭一迷」です。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:北川松生
2021年2月26日作成
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