幾たびか書いたことだが、私は朝めしは自分で作って喰べる。ベーコンかハムと卵に生ま野菜、パン一片か、オートミールに牛乳という献立で、十年以上も飽きずにやってきた。家族とは別に仕事場で寝起きしているのだから、朝の自炊はやむを得ないし、それはすっかり身に付いた習慣になっていたのだが、このごろはそれが面倒になってきた。ベーコンやハムをいため、卵をフライする、と考えるだけで食欲がそっぽを向いてしまい、つい牛乳二本くらいでごまかすような場合が多くなったのである。朝起きるとすぐ仕事にかかる、という習性が原因かもしれないし、老境にはいった証拠かもしれない。もしも後者だとするとばかげたはなしで、去年よってたかって私のことを六十だ六十だといい張ったジャーナリストたちの責任だと思う。――けれども、今朝はベーコン・エッグを喰べた、これが続けばざまあみろである。
「小説新潮」(昭和三十九年八月)