朝めし

山本周五郎




 幾たびか書いたことだが、私は朝めしは自分で作って喰べる。ベーコンかハムと卵に生ま野菜、パン一片か、オートミールに牛乳という献立で、十年以上も飽きずにやってきた。家族とは別に仕事場で寝起きしているのだから、朝の自炊はやむを得ないし、それはすっかり身に付いた習慣になっていたのだが、このごろはそれが面倒になってきた。ベーコンやハムをいため、卵をフライする、と考えるだけで食欲がそっぽを向いてしまい、つい牛乳二本くらいでごまかすような場合が多くなったのである。朝起きるとすぐ仕事にかかる、という習性が原因かもしれないし、老境にはいった証拠かもしれない。もしも後者だとするとばかげたはなしで、去年よってたかって私のことを六十だ六十だといい張ったジャーナリストたちの責任だと思う。――けれども、今朝はベーコン・エッグを喰べた、これが続けばざまあみろである。
「小説新潮」(昭和三十九年八月)





底本:「暗がりの弁当」河出文庫、河出書房新社
   2018(平成30)年6月20日初版発行
底本の親本:「雨のみちのく・独居のたのしみ」新潮文庫、新潮社
   1984(昭和59)年12月20日発行
初出:「小説新潮」
   1964(昭和39)年8月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:noriko saito
2025年4月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード